ZEH・GX住宅で加速する高断熱時代(下)

断熱等級5が新標準に

 

脱炭素化の進展、省エネや健康といったニーズの高まりを背景に、住宅の断熱性能は断熱等級5のZEH水準が標準仕様となりつつある。さらにGX志向型住宅・GX ZEHが示されたことで、その上のレベルである断熱等級6の住まいづくりも広がっている。
発泡系断熱材(ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、フェノールフォームなど)は、一般的に繊維系断熱材よりも熱伝導率に優れ、堅いため、床断熱や外張り断熱に適している。上位等級の家づくりに不可欠な断熱材としてさらに存在感を増していきそうだ。

床断熱、基礎断熱でボード系断熱材の需要増

特に剛性が求められる床では、発泡プラスチックボード系断熱材は、圧倒的な強さを誇る。(独)住宅金融支援機構が24年6月に公表した「フラット35仕様実態調査(令和5年度)」によると、床においては特に「ポリスチレンフォーム又はポリエチレンフォーム」が51.6%と5割超のシェアを占めた。

JSPが販売するXPS(押出法ポリスチレンフォーム)断熱材は水に強く、湿気の多い床下の断熱施工に最適だ。販売用途の約9割が床向けで、残りが壁、屋根向けとなっている。また、フェノールフォーム断熱材やウレタンフォーム断熱材に比べてコストパフォーマンスに優れていることも強みの一つだ。

同社のXPS断熱材全体の出荷は、新設住宅着工数減少の影響を受けたが、住宅高性能化の波を受けて一般品の「ミラフォーム」(熱伝導率0.028W/(m・K))から高性能品「ミラフォームΛ(ラムダ)」(熱伝導率0.022W/(m・K))への移行が進み伸長し続けている。24年度はミラフォームが前年度比数%減となった一方で、ミラフォームΛは前年度比2割以上の増加となった。25年の4月~7月もミラフフォームΛは前年同期比1割増と好調に推移する。

JSPの「ミラフォームΛ」。床断熱材にフルプレカットで先行し上位等級移行のニーズを取り込み、近年も販売を伸ばしている

同社は、約20年前に業界に先駆けて床断熱材のプレカットサービスを開始した。職人不足が深刻化し工期の遅延問題などが浮上する中で、床断熱材のプレカット加工の需要が増加しており、24年度は採用件数で前年度比1割弱の増加、重量ベースで前年度比1割増となった。建築土木資材事業部 東日本建材営業統括部 木村竜也部長は、「採用件数も厚みも増えている。プレカットは今年度も昨年度と同等のペースで増えると見込んでいる。かつては3尺(910㎜)×6尺(1820㎜)のサブロク板の断熱材を現場で加工していたが、現場の大工不足を背景に施工の簡便化が求められ、フルプレカットして現場に納入することが当たり前になってきている。近年はXPS業界全体でフルプレカット化を進めていこうという流れが強まっている」と説明する。

住宅の高性能化が進み、床の断熱材の厚みも厚くなっている。温暖地域(4~7地域)で、床断熱で断熱等級5をクリアするために厚さ75㎜、断熱等級6をクリアするために厚さ90㎜、100㎜のミラフォームΛが最適で採用が伸びている。床の断熱材の厚みが厚くなっていることも現場での加工がしにくくなることから、フルプレカット化に拍車をかけている。

デュポン・スタイロは、住宅高性能化に伴い、注目度が一段と高まっているとして、「基礎外側断熱工法」の提案に注力する。基礎外側断熱のメリットとして、外側からすっぽりと断熱材で住宅を覆うことで、床下環境の改善や結露リスクの低減などが挙げられる。「北海道など寒冷地から広がり、ここにきて本州の方でも徐々に広まってきている。断熱等級6以上は基礎断熱で検討したいという引き合いが増え、約3〜4年前に基礎外側断熱を選択する顧客が一気に増え、その後は微増の状態が続いている。特に断熱等級7レベルの断熱性能を目指す場合、床断熱では150㎜以上の厚みが必要になり現実的でないため、基礎外側断熱への転換が進んでいる」とする。

その基礎外側断熱に最適なのが「スタイロフォームAT」だ。安全性の高い防蟻材をスタイロフォームに混入した断熱材で、基礎コンクリートと同時打ち込み施工ができ、基礎外側断熱工法に適している。断熱材自体にシロアリの食害を防ぐ機能を持たせることで、断熱材が蟻道やコロニーになる可能性がほとんどない。また、防蟻材の現場塗布や土壌改良に比べて防蟻材の流出・拡散がほとんど生じない。

デュポン・スタイロは、防蟻性能を付与した「スタイロフォームAT」で基礎外側断熱の提案を強化する

26年10月末から評価方法が変更
基礎断熱の「任意評定」が鍵

基礎断熱については、26年10月末から評価方法が変更となることにも注意が必要だ。これまで暫定的に使用できていた旧計算式がまもなく使用できなくなり、基礎断熱WEBプログラムは、個別物件には使用できず、また「早見表」の数値は、標準的な基礎(適用範囲)でしか使用できない。何も対策を打たないと基礎断熱は床断熱よりも不利に評価される懸念がある。

こうした中で、メーカー各社は、基礎断熱の「任意評定」の取得に動いている。この評定を活用することで計算結果に不利な影響を与えることなく、基礎断熱を採用することができ、断熱等級6・7をクリアしやすくなる。

デュポン・スタイロは、「スタイロフォームAT」の拡販に向け、基礎の線熱貫流率の任意評定を取得し、24年6月から運用を開始した。

アキレスもキューワンボードの基礎断熱での需要増を見込み、24年1月、任意評定を取得。「評定を使い、上手に断熱等級6の達成を目指してほしい」とアピールする。

上位等級対応で付加断熱
大きな伸びしろに期待

上位等級の家づくりが広がりを見せる中で、付加断熱への注目度も高まっている。温暖地域の5~7地域において断熱等級6までは付加断熱なしの充填断熱だけで対応できるレベルである。とはいえ、やはり屋根、壁に相当な厚みで断熱材を充填する必要があり、施工、性能確保の面で課題があると言われている。

発泡プラスチックボード系断熱材メーカーは、付加断熱により、熱橋を補完でき結露発生を抑制し、住まい心地の向上にもつながること、また、省エネ性能の向上で光熱費の抑制にも効くといった様々な角度から付加断熱のメリットを訴求し、既存の充填断熱の仕様を生かしながら付加断熱を組み合わせベストなバランスを検討することをすすめる。

また、最高等級である断熱等級7の実現にはコスト、費用対効果、技術的な難易度など様々なハードルがある。特に全国で付加断熱が必須になることは大きな違いだ。

アキレスは、高性能硬質ウレタンフォーム断熱材「キューワンボード」を主軸に、断熱等級6以上に向けての提案を積極化している。キューワンボードは熱伝導率0.021W/(m・K)という高い性能が大きな特長。断熱等級6であれば同社製品の外張断熱だけでもクリアすることが可能だが、4~7地域であれば充填断熱+付加断熱というW断熱の提案をするケースが多いという。

24年のキューワンボードの販売実績は前年比でプラスを維持した。高断熱住宅へのニーズが高まるなかで、付加断熱への採用が徐々に増えている。断熱材も厚手化している。また、断熱リフォームでの採用増も大きな要因となっている。

GX志向型住宅やGX ZEHが示されたことで、等級6以上の住まいづくりが広がり、強力な追い風となっている。GX志向型住宅に関するセミナーを開催し、案内から1週間で約800人が申し込み、累計で約2800人が参加するなど、大きな反響があった。このセミナーでは、断熱材メーカーとしてアキレス、窓メーカーとしてYKK AP、計算サポートとしてエヌ・シー・エヌ、設備メーカーとしてパナソニック、リンナイなどが協力し、GX志向型住宅の要件を満たすための総合的な提案を行った。

GX志向型住宅の補助事業が打ち出された当初は、まだ実際に取り組んだことのある住宅事業者が少なかっただけに、断熱性能(UA値)をクリアするための厚みや仕様の選択よりも、BEI値(一次エネルギー消費量)を達成するハードルが高かったようだ。特に設備面では、エコキュートやハイブリッド給湯器の選択が重要であり、地域によって最適な組み合わせが異なる。今回のセミナーでは、エヌ・シー・エヌが一括で外皮から一次エネルギーまで計算するサポートサービスを紹介し、各設備メーカーが自社製品について説明するワンストップ形式であることが好評であった。断熱資材販売部の本田俊裕 課長は、「BEI基準値をクリアするためにどのように設備機器や太陽光発電を組み合わせればいいのか、どのくらいのコストがかかるのか、ということへの関心が高かった」と話す。

アキレスとしてはこのセミナーで、寒冷地になるほど暖房負荷が大きくなるため、断熱等級6と7の間の、6.5を目指すことで、GX住宅で求められるBEI0.65をクリアしやすくなることなどを解説した。そのほか、断熱等級6・7水準の家づくりに向け、屋根面の断熱性能確保の方法として気密性能が確保しやすくなると「桁上断熱」を推奨。曲げ強度の強いキューワンボードは条件により下地合板なしで桁上に直接張ることができ、高い断熱・気密性を確保できる。屋根断熱には「キューワンボードRZ」を使用すれば、曲げ強度が強いため下地合板は不要で、防滑加工が施されているため、滑りにくく高所での作業も安全だ。

アキレスは、断熱等級6・7の上位等級の家づくりの最適な「キューワンボード」を主軸に提案、販売を強化する

フクビ化学工業は、熱伝導率0・019W/(m・K)と優れた断熱性能を持つフェノールフォーム断熱材「フェノバボード」を展開する。建材事業本部 成長市場営業統括部 断熱事業推進室は、「フェノバボードの、外張り断熱で他の断熱材に比べて薄くできるということを全面に出して営業し、高断熱への仕様変更を提案してきた。2、3年前までは、コスト面のハードルもあり、提案数に対して採用数が見合わない状況だったが、昨年あたりから、GX志向型住宅の登場もあり、工務店の高断熱に対する意識が大きく変わってきている。高断熱への意識が高まり採用が一気に増えている。GX志向型住宅に関して工務店から『つくり方がわからないから教えてほしい』という問い合わせが増え、『まずはモデルハウスと同じものを建ててみよう』という案件も増えている」と話す。

また、付加断熱だけでなく、床の断熱材も以前は厚さ45㎜の製品が主流であったが、一昨年頃から厚さ63㎜、90㎜といった厚みのある製品の採用が増えている。これは、長期優良住宅などの高性能住宅を目指す場合、より厚い断熱材が必要になるため。分譲系のビルダーは、様々な間取りや窓配置に対応できるよう、最初から厚めの断熱材を選ぶ傾向があるという。

着工数減少の影響はあるものの高性能化の流れにより採用率が上がり、25年4月~8月の販売は前年同期比20%増で推移する。10月以降は、新規採用ビルダーの増加により、さらに伸びるとみる。

モデルハウスの活用にも注力する。23年7月、(一社)高性能住宅コンソーシアムがフェノバボードを使った等級7の体感モデルハウスを茨城県小美玉市にオープンした。(一社)高性能住宅コンソーシアムは、省エネ住宅の申請サポート業務などを手がけるフォワードハウジングソリューションズ(井上賢治代表取締役)ほか、フクビ化学工業などの建材メーカーなどが加盟し、優れた省エネ性能と耐震・制震を備え、ZEHを超える性能を持つ住宅を「S‐ZEH」として提案している。「モデルハウスを活用し、住宅会社の社長など権限を持つ方に実際に体感してもらう方法が効果的で、新規採用につながることが多い」という。

断熱事業推進室は、会社の成長戦略の一環として断熱事業を拡大する役割を担い25年4月に新設された。生産側との調整や、営業マンのサポートを担当する。「急激に市場が変化するタイミングで、大きなビジネスチャンスととらえている。付加断熱の需要が増加し、床だけでなく壁の断熱材も採用が増えると、出荷枚数が3倍以上になる可能性があり、生産体制の強化を検討していく必要がある。製品ラインアップについては、厚みや種類が多様で、効率的な生産のため商品の集約・合理化も進めていく必要がある」とする。また、木造住宅関連ソフトを使った仕様提案や、営業マンのスキルアップのための研修も強化していく方針だ。

熱伝導率0.019 W/(m・K)と優れた断熱性能を持つフクビ化学工業の「フェノバボード」。新規採用ビルダーの増加により、さらに販売は伸びると予測している

JSPは強みを持つ床断熱材のフルプレカットだけでなく、壁においてもミラフォームΛを使用することで付加断熱の厚みをできるだけ薄くできる点を訴求し、販売拡大につなげていく考えだ。「床ほど爆発的な伸びは期待できないが、断熱等級6・7へ移行が進み、付加断熱が増えていくニーズにもしっかり対応していきたい」考えだ。

同社は現行のミラフォームΛよりもさらに性能の高い製品(熱伝導率0.020W/(m・K))の開発も進めている。技術的には既に可能であるものの、生産体制の見直しや市場投入のタイミングについては慎重に検討している段階だという。

デュポン・スタイロは、「基礎外側断熱」の提案強化の一環として「等級6plus」というモデル仕様をつくり、ビルダーなどに対して、従来から取り組む充填断熱の仕様を生かしながら、付加断熱を組み合わせる提案を強化している。付加断熱としてスタイロフォームFGの厚さ30㎜などを使用する「等級6plus」、さらに、付加断熱としてスタイロフォームFGの厚さ50㎜などを使用する「等級6plus外張仕様」の2つをモデル仕様として用意した。

「温暖地域では、充填断熱だけで断熱等級6をクリアすることができる。そこにただ基礎外側断熱の採用をごり押ししても響きにくい。基礎外側断熱の採用により、床下空間が室内に取り込まれることで、床が低温化しにくくなり、室内環境が向上することを差別化戦略として訴求し、まずは等級6plusの仕様からすすめ、段階的に等級6plus外張仕様への移行を促している」。

発泡スチロール協会は、長年にわたって性能が落ちないことが大きな特徴であるEPS断熱建材を付加断熱で使用する場合の防火認定の取得を進めている。例えば、繊維系断熱材にEPS断熱建材で付加断熱を施し、木製外装材で仕上げた仕様で認定を取得。軸組だけでなく、枠組み壁工法でも認定を取得している。加えて、窯業系外装材仕上げでも認定を取得した。こちらも軸組だけでなく、枠組み壁工法でも認定を取得している。そして、現在進めているのが、型物と呼ばれる製品の認定取得だ。EPSは、金型を使って特定の形状に成形しやすい。こうした特徴を生かし、様々な形状に加工をした製品もある。こうした型物製品の防火認定を取得することで、様々な用途でEPS断熱建材を採用しやすい環境を整える。

WEBサイトの充実にも力を入れている。住宅高断熱化の動きに対応して、地域、部位別のEPS断熱建材の各製品仕様基準(製品名と厚みの一覧)を公開しているほか、防火認定の認定書をWEB上でダウンロードできるようにするなど、より実務者が利用しやすいコンテンツを整備している。

EPS断熱材は長年にわたって性能が落ちないことが大きなポイント。
性能が安定しているので長く住み続けても設計通りの暖かさ、涼しさを保ち続けられる

高断熱化が進むほど気密確保が重要に

住宅の高断熱化が進む中、改めて気密への関心も高まっている。一般的に、住宅の性能が上がるほど、少しでも隙間があれば、結露を引き起こすリスクが高まると言われている。気密施工に対する厳しい品質管理が求められる。その点、現場発泡断熱材は、優れた柔軟性、接着性を備えており、吹きつけるだけの一工程で、断熱・気密化を図ることができるという強みがある。

BASF INOAC ポリウレタンは、現場発泡ウレタンフォーム「フォームライトSLシリーズ」を展開。現場発泡なのでどのような構造体にも隙間なくぴったりと密着し、木材の膨張・収縮に追従するため、高い気密性により長期にわたり断熱性能を維持する。また、顧客ニーズから付加断熱の共同防火認定取得も積極的に行っている。

現場の大工が不足する中で、同社は原料メーカーとして認定施工店と協力関係を持ち、材工併せて全国対応が可能であることも強みだ。また、季節ごとに配合を微調整する季節処方や現場の声を反映した原料開発にこだわり、施工のしやすさにも現場レベルから定評がある。

「市場では気密への関心が高まっており、顧客が数値で性能を求める傾向がある。一般的に気密性能はC値0・5以下が基本となり、高性能を追求するビルダーでは0.2レベルまで達成している。気密性の高さや施工の容易さから、以前はグラスウールを推していたビルダーも選択肢として現場発泡ウレタンフォームを持つようになっている」という。

BASF INOAC ポリウレタンは、高気密・高断熱な現場発泡ウレタンフォームで包まれた住まいを「マシュマロ断熱の家」として訴求する

断熱等級6・7の上位等級対応のニーズも高まっている。「30年までに断熱等級5が義務化される見通しから、より高性能な断熱材への需要が高まっている。大手ビルダーが高性能な断熱材を求める傾向があり、断熱等級5よりも断熱等級6や7レベルの断熱性能が求められている。また、顧客は断熱性能のUA値を比較して選ぶ傾向があり、性能が高い方に加えて、断熱等級に記載がない気密性能がより高い方を選ぶことがトレンドになっている」という。

商品カタログには主力商品を用いた上位等級対応の仕様例を掲載することにより、採用が増えている。「フォームライトSL‒100」(熱伝導率0.040W/(m・K)以下)という基本タイプと、「フォームライトSL-50α」(熱伝導率0.026 W/(m・K)以下)というハイグレードタイプをラインアップする。SL-100は空気による断熱層を形成するウレタンフォームなので吹き付けの厚みをつけやすい。SL-50αはSL-100に比べて断熱性能を35%向上、厚みを薄く抑えることができる。また、透湿比抵抗が高いタイプでありながら、木材への追従性を持たせた現場発泡ウレタンフォームであり、寒冷地を中心に、更なる差別化として採用引き合いが増えている。

特に屋根部分では厚みを増やしやすく、最近の傾向として、壁にSL-100、屋根にSL-50αを使用するという組み合わせが増えており、ビルダーが差別化を図るために採用している。壁施工の際の厚みに限界がある一方で、屋根部分では厚みを増やしやすく、断熱等級6・7レベルの断熱性能を達成するために300㎜以上の厚みで施工するケースも増えてきている。

住宅着工数の減少が続く一方で、上位等級の広がりの追い風を受けて、25年の販売は横ばいだが、高気密高断熱の流れもあり、来期は反転すると見込む。「夏の暑さ対策としても断熱材の重要性が認識されつつある。一方で、高性能な断熱材の良さは理解されているものの、価格上昇が懸念材料となっている」という。

また、25年内に新製品「FORMLITE・Bio Meguru SL-50e」を発売する。植物由来の原料を使用しバイオマスマークを取得した、木造住宅向け現場発泡ウレタンフォーム原料を使用。石油由来原料の比率が下がり、環境意識の高い顧客向けの製品として位置づける。

エービーシー商会は、住宅の高断熱化に伴い、隙間処理、気密施工の重要性の認知度が高まる中で、エービーシー商会が展開する1液型の発泡ウレタンフォーム「インサルパック」の販売も好調に推移している。「高断熱住宅では気密処理が不可欠であり、特にサッシ周りや配管貫通部などの処理が重要になっている。どんなに良い断熱材を使っても隙間があれば意味がないという認識が広まっており、正しい発泡ウレタンフォームの施工方法の指導や情報提供が重要になっている。営業担当者が現場に出向いて施工指導や、YouTubeなどで情報発信を行っている。また、気密測定を行うビルダーが増えており、これに対応した製品開発やサポートも行っている」。

付加断熱の需要増加も追い風だ。特に断熱等級6や7を目指すビルダーでは、付加断熱が標準になりつつあり、これに伴い切り欠き部分や穴埋めなどの処理が必要で、「インサルパック」の採用、使用量が増えている。

GX志向型住宅の補助制度の影響で、特に断熱等級6などの基準を満たすために、床断熱から基礎内側断熱への仕様変更が増えていることも「インサルパック」の施工箇所が増え、需要増に寄与している。基礎断熱のスカート部分(下部)の長さを伸ばす施工が増えており、これが断熱計算に有利に働くという。

製品トレンドとしては、使い捨てのノズルタイプから、繰り返し使用可能なガンタイプへの移行が進んでいる。使う回数が増えるとともに、日をまたいで使用することも増えているため、ガンタイプのニーズが高まっている。環境負荷への配慮や作業効率の観点からもガンタイプの出荷数量が伸びている。また、一般的なウレタンフォームだけでなく、窓周りの気密施工に最適な低発泡の「エラスティックフォーム」や、防蟻効果を持つ「防蟻フォーム」、防火性能を持つものなど、用途特化型の製品需要も増加している。

そのほか、1本で簡単に外断熱用のボードが施工できる専用接着剤「PU 010」も安定した人気を誇る。ガンで吐出するだけで、すぐに断熱材を貼り付けることができるため、固定に手間がかからず手軽で簡単に施工が可能。現場を汚さず作業ができる。従来のモルタル施工に比べて作業時間を大幅に短縮できる。RC造、木造どちらにも使用することが可能で、新築だけでなくリフォーム市場でも需要がある。

エービーシー商会の「PU 010」は、外断熱用のボードが施工できる専用接着剤。RC造、木造どちらにも使用することが可能で、新築だけでなくリフォーム市場でも需要がある

CO₂排出量開示へ
EPD取得の動きも相次ぐ

地球温暖化対策、脱炭素社会の実現へ一層の取り組みが求められる中で近年、建築の分野では、建築物のライフサイクルCO2を減らそうとする動きが加速している。運用段階の「オペレーショナルカーボン」だけでなく、建材がつくられて、運ばれて、施工されて、修理されて、壊されるまでの「エンボディドカーボン」を含むライフサイクル全体でCO2排出量を減らそうとする動きだ。こうした中で、断熱材メーカーの間でも、環境ラベル「EPD」(製品環境宣言)取得に向けた動きが活発化してきている。EPDは、建物のライフサイクルアセスメント(LCA)評価の中で、定量的に製品の環境情報を開示するもので、製品単位のライフサイクル全体でのCO2排出量をはじめ、様々な環境負荷を知ることができる。

国の環境整備も進む。内閣官房に「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」が設置され、国土交通省は28年度を目途に、建築物の計画から施工、運用、解体までのライフサイクル全体において排出されるCO2を含む環境負荷を算定・評価する「建築物LCA」の実施を促す制度の導入を目指している。

企業への要求も強まっている。2027年3月から、時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業約70社に対し、スコープ3(サプライチェーン全体での間接排出)を含む気候関連情報の開示が義務付けられる見通しだ。

こうした中、JSPは、業界に先駆けて「ミラフォーム」シリーズで、環境認証ラベルEPDの一つである「EPD Hub」を取得した。24年8月に「ミラフォーム」、10月に「ミラフォームΛ」で取得。アイルランドの検証機関EPD Hub社によって認証された環境製品宣言だ。「将来的にはサプライチェーン全体でのCO2排出量開示が求められるようになり、建材選定の重要な基準になる可能性がある」とする。

アキレスは25年8月、「アキレスボード」において、(一社)サステナブル経営推進機構が運営するSuMPO環境ラベルプログラムのSuMPO EPDを、国内の発泡プラスチック系断熱材で初めて取得した。「今後、サプライチェーン全体でのCO2削減の要求が高まっていく。大規模建築から始まり、徐々に戸建て住宅にも波及していくのではないか」と見る。

こうした勢いに乗り遅れまいと動きを注視しているのが、発泡スチロール協会だ。発泡スチロールは、環境負荷を考える際に逆風に立たされやすい。しかし、リサイクルのしやすさなどを考慮すると、ほかの素材より優れた側面もある。同協会は、24年2月に公表した「EPS(ビーズ法発泡スチロール)製品の設計・製造に関する環境配慮ガイドライン」で、EPS製品の設計・製造にあたり配慮するべき事項をまとめた。

また、EPS断熱材のライフサイクル(原料採取から製造、使用、廃棄まで)における環境負荷物質の排出量や資源の消費量などを定量的に算出したデータ(LCI)の公開も進める。今年3月に更新された“原料EPSのLCIデータ”と、2008年3月公開のNEDO報告書「断熱部材のLCCO2評価・算定法の標準化調査」の成形時のデータから合算して、EPS断熱建材のLCIデータを公開している。

さらに、WEBサイトを利用して積極的に取り組むリサイクルについて訴求する。EPS断熱建材の原料となる発泡スチロールは、資源の有効利用率(リサイクル率にエネルギーリカバリー率を足したもの)が94.2%で、製造過程でも脱炭素化に貢献する。

断熱材市場は高性能化と付加価値競争の時代に突入している。上位等級の達成に不可欠な発泡系断熱材の需要増は必至だ。より高いレベルの技術力と提案力が求められている。