長谷工と細田工務店 ロボット工学の石黒教授らと未来の理想住宅
コンセプトは「生命を宿した人と調和する家」
「ivi house」は、先端技術を駆使しながらも、住宅の内と外とのつながりを深め、自然のなかにいるような豊かな暮らしを提案する未来住宅のプロトタイプだ。ロボット工学の石黒教授などとコラボし、「生命を宿した人と調和する家」を目指した。
長谷工コーポレーションと細田工務店が、未来の住まいを創造する「ivi prohect(アイヴィプロジェクト)」の第一弾となる「ivi house(アイヴィハウス)」(東京都杉並区)を完成させた。長谷工グループは、大阪・関西万博における「いのちの未来」館を協賛、同館のテーマ事業プロデューサーで、ロボット工学の大阪大学大学院・石黒浩教授と関係性を深めるなかで、石黒教授が描く未来の理想の住宅をつくろうと「アイヴィプロジェクト」を立ち上げた。そのプロトタイプが「アイヴィハウス」である。プロトタイプを作るにあたり、多くの社外メンバーとコラボしたことも特徴。全体の空間演出ではクリエイティブディレクターの菊池あかね氏、音響デザインではサウンドアーティストの佐久間海土氏、照明デザインでは内原智史デザイン事務所の川口尚輝氏と中田充咲氏というメンバーだ。
曲面を生かす室内など 自然の中にいるような家
アイヴィプロジェクトにおいて人と住まいの関係性、それを構築する思想面をリードしたのが石黒教授である。「アイヴィハウス」は「生命を宿した住まいが人と調和する」がテーマ。「人は自然のなかで色々なものと触れ合うと心豊かに感じる。生きている家と関わりながら、家のなかで自然を感じることができれば、豊かに生活することができるはず」(石黒教授)という考えだ。
「アイヴィハウス」の外観でまず目をひくのが、建物を柔らかく包み込むように吊ったルーバーだ。コンピュテーショナルデザイン(設計プロセスの一部をコンピュータが行う手法)を用いて角度や粗密など制御する要素を加えて設定、「日本の住宅で大事なのは外と内を緩やかにつなげ、互いに気配を感じられる程度に区切ること」(石黒教授)と、生垣を想起させる。
一方、内部は、床・壁・天井など各所に曲線的な造形を施す。全体的に角を削ぎ落し「あたかも家が身体性を持ったような有機的なデザイン」(菊池氏)で、自然の風景のなかにいるように感じさせる。曲面を多用ししたことで、自然光の柔らかさが広がり、広く感じられるという効果も持つ。「人は曲線に沿って歩く性質があり、実際に歩いてみたくなる。そうした人の行動を誘発する〝アフォーダンス〟(環境が与える意味や価値)が大事」(石黒教授)という狙いだ。
あたかも家が生きているように 音、光、香りを自動制御
「アイヴィハウス」は、音、光、香りという五感で体験する刺激を各所に組み込んで設計した。「生きている家」のコンセプトのもと、すべてあらかじめプログラミングされ、センサーなどで制御する。一日の時間の変化や人の動きによってコントロールし、人が関わらないためスイッチなどは一つもない。
具体的には、人の動きや時間帯によって小鳥のさえずりや雨音などが流れ、室内にいながら自然に包み込まれているような心地良さを体感できる。家全体に16個のスピーカーを設置、32 chの音源を実装。家のなかのどこにいても、その空間で本来感じられる以上の響きを提供する。「実際の部屋のサイズよりも広く感じられるよう、また、無音による不快感を徹底的に低減した」(佐久間氏)ことがポイントだ。システムは国際標準通信規格のDALI規格で開発、オーディオライブラリーや照明との連動など、すべてアイヴィプロジェクトのオリジナルで開発した。
この音と連動した光の制御もポイント。人の動きや時間帯に応じて、室内外の照度が変化する。人がいる場所だけでなく、行動を読んで動く先の空間も含めて連続的に制御されている。また、照明の点灯・消灯も、人が訪れるとゆっくりと点灯し、一度揺らいで再度点灯するなど、あたかも家自体が生きているように自然に点灯・消灯する。
また、室内で過ごす場所や時間帯に応じて香りが変化するシステムも組み込み、自然な香りを演出する。
iviをブランド化
マンションや戸建てへの導入も
同グループでは、今後、アイヴィプロジェクトをさらに推し進め、そのブランド化を図り、長谷工コーポレーションのマンション、細田工務店の戸建住宅に取り入れていきたい考え。「プロトタイプの要素をフルに入れるものもあるだろうし、ここで培った技術、ノウハウなどの要素の展開も考えていきたい」(堀井規男常務執行役員)と抱負を語った。
住宅のスマート化の取組みが加速するが、アイヴィハウスはこれらとは一線を画すものといえる。長谷工グループも「サステナブランシェ本行徳」(千葉県市川市)でIoT機器やAI技術を生かす検証を行っているが、堀井常務は「アイヴィハウスは方向性が異なる。〝生きている家〟とは、先進技術はバックグラウンドに隠れていて、暮らす人はそれを感じない。OSで制御するようなものとは方向性が違うものをアイヴィハウスで実現できたのではないか」と語る。先端技術をどのように住宅に落とし込み、豊かな暮らしを実現するか︱︱アイヴィハウスは新たな一つの方向性を示したといえよう。
テクノロジーで日本の伝統を推し進める

石黒浩 大阪大学大学院教授
人間は自然と関わりながら生活してきた。その自然との触れ合いにおいて安心や安らぎを感じる。しかし、そういうものが現在の家にはほとんどない。むしろ自然から人間を断絶し、外の世界とは別の世界を箱の中に作ってきたのではないだろうか。日本の伝統的な家は、障子や縁側などにより緩く外と中がつながり、常に外の自然を感じ、人の気配を感じられる。この自然と調和した暮らしが日本の伝統であり、非常に大事なことだと思っている。
ロボットやAI などのテクノロジーの進化により、こうした日本の伝統をさらに推し進め、家の中で自然を感じることがもっとできるようになると考えている。今後は、テクノロジーの力で、住む人が自然を感じられるような豊かな生活ができるような、そんな家が増えていくはずだ、そんな想いで「ivi house」を作らせていただいた。
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