屋根の変化から見る通気・換気

各社が考える最適解とは

住宅デザインのトレンドに合わせ、屋根材にも大きな変化がでている。そうした変化への対応を求められるのが屋根の通気・換気部材だ。屋根の通気・換気は選択肢が多いが、今、最適な通気・換気の方法とは何なのか―屋根形状や素材の変化と合わせて紹介する。

変化する屋根形状と断熱に
通気部材はどう対応すべきか

屋根は住宅に必要不可欠な部材であることは言うまでもない。この屋根が長期にわたり健全な状態で役割を果たすために必要なのが、躯体の通気・換気部材だ。きちんとした通気・換気が行われていないと、屋根内部に浸入した雨水が野地板を腐らせ、屋根の劣化につながる。一方で、近年の屋根市場は大きく変化を遂げている。

(独)住宅金融支援機構(JHF)が、令和5年度(2023年度)のフラット35仕様実態調査の結果を公表している。【フラット35】の検査を受けた一戸建て木造住宅の仕様について、約5年おきに調査するものであるが、この結果から、屋根の大きな変化が見てとれた。

まず、屋根の形状では、「片流れ」が徐々にその存在感を大きくしており、前回調査の平成29年度(17年度)から、11%増の41.5%となった。次点で割合が高いのが「切妻」の31.5%で、「片流れ」と「切妻」の2パターンで、全体の7割以上となっている。一方で、「寄棟」は調査年度ごとに少しずつ割合が減っており、今回の調査では13.2%であった。

屋根葺き材では、金属屋根材である「ガルバリウム鋼板またはジンカリウム鋼板」の伸びが顕著で、全体の52.3%と、半数以上を占める。前回調査からは14.7%の増加だ。

こうした中で、メーカー各社の通気・換気部材にも変化が求められている。

【日本住環境】
2寸勾配以下なら水上側にも設置可能
片流れに全周設置できる製品に伸び

日本住環境の営業統括本部 総合企画部 小林輝久部長は、近年の住宅の屋根形状について「ビルダーからは、寄棟屋根の普及を期待しているという話を聞く」とする。この理由として、寄棟の形状は切妻に比べ外壁の面積が小さくなるため、コストを抑えられるのではないかとみており、切妻の中でも緩勾配が人気であるのも、同様の背景があるのではないかと考える。
また、天井または屋根における断熱では、天井断熱が減少し、屋根断熱が着実に増加していることがフラット35仕様実態調査でも明らかになっているが、これについては、「住宅の熱環境としては屋根断熱の方が適しているといえる。しかし、(独)金融支援機構では、屋根断熱の際の通気・換気の指標が設けられていないため、明確な指標のある小屋裏断熱の方が通気・換気については行いやすい面はある」(小林部長)と住宅の高断熱化が進むなかでの、通気の難しさをにじませた。

同社では、屋根断熱の際の換気提案として、全周換気を推奨している。屋根に通気層を設ける場合、垂木によって区切られたレーンすべてに空気の流れがなければならないからだ。

こうした全周換気に対応していて、条件によっては片流れ屋根の水上設置もできる通気部材が「REV‐15」だ。特に、近年人気の片流れ屋根で軒―軒換気を行おうとすると、水上側に雨が入りやすい形状のため、漏水のリスクが高まる。そのため、片流れ屋根の水上側に設置できる軒裏換気材は限られており、販売数は年々伸びているという。

「REV‐15」は、独自のハニカム形状で2寸勾配以下であれば、水上側に設置できる。野地板のカバー材と一体の形状のため、施工性が良いこともポイントで、作業手間が掛からず通気を取れる。

さらに注目されているのがデザイン性の高さだ。破風レスでスタイリッシュに仕上がるため、デザイン性の高い住宅建築を目指す工事店に人気だという。「太陽光発電の普及が進められる中で、架台を取り付けやすい金属立平屋根は今後も増加していくだろう。かつては寒い地域でのものだった金属屋根がオシャレなものとして受け入れられるようになり、通気部材の製品群も変わってきている」(小林部長)と、今後も同製品の伸びに期待する。

REV-15の採用事例。全周換気に対応できるだけでなく、破風レスでスタイリッシュな住宅外観に仕上げることができる。(写真提供:ARRCH)

【トーコー】
軒ゼロ住宅対応の軒先給気部材で
軒―棟換気を推奨

棟換気部材でトップシェアを誇るトーコーは、住宅の高断熱、高気密化で屋根換気の需要が高まる中、「換気方法は、軒―棟換気を推奨している」(竹由一繁 執行役員・営業部部長)とし、棟からの排気部材だけでなく、給気部材の販売にも力を入れる。

そのひとつが軒ゼロ住宅に対応した給気部材の「エアーフレッシュ」だ。08年に発売して以降、10年頃から販売数が伸びてきた。現在は、年間約9200本の販売数を誇り、累計販売数は70万9000本となっている。

エアーフレッシュの特徴は、屋根の軒先に取り付ける部材であるという点。軒先全体から給気できるため、空気が流れやすく良好な小屋裏環境が維持できるほか、軒天の給気部材が使えない軒ゼロ住宅でも、軒からの給気ができることが強み。軒アリ、軒ゼロどちらの住宅にも使用できるが約9割は軒ゼロ住宅での採用だ。

軒ゼロ住宅に対応した給気部材「エアーフレッシュ」。累計販売数は70万9000本を誇る

このため、都市部の狭小住宅で採用率が高いそうだが、近年は郊外でも軒ゼロ住宅が増えてきているという。背景にあるのが、資材価格の高騰だ。コストを抑える策として片流れの規格住宅提案を行うハウスメーカーが増えている。「販売単価が上がると、これまでターゲットにしてきた層が購入できなくなってしまう。ニーズに応えるため、土地がある郊外でも土地を小さくしたり、軒ゼロにしたりするケースがある。低勾配金属屋根の軒ゼロ住宅はデザイン性も高く、エンドユーザーへの提案も行いやすいのではないか」(竹由部長)と、郊外でのエアーフレッシュの認知度向上を目指す。

ブリッジ形状で開口が見えないほか、軒先兼用のため、施工性が良い点でも評価が高い。

また、「エアーフレッシュは屋根部材となるため該当する防火認定制度がない。一方で、しっかりとしたエビデンスがないと採用することを不安に思う事業者もいる」(竹由部長)というニーズから、軒天の換気部材と同様の防火試験を受け、一般的な仕様で26分、防火仕様で30分の遮炎性能を確認した。

さらに、都市部では太陽光設置住宅の増加に伴い、同社の「入線ユニット」が好調。24年度のグッドデザイン賞も受賞した。こうした部材と併せて換気部材の提案も行っているとした。

【ハウゼコ】
デネブエアルーフを各地域で強化
急勾配の軒ゼロ水上側に設置できる新商品も

ハウゼコは、昨年から通気機能を一体化した立平葺き金属屋根材の「デネブエアルーフ」のライセンス生産を開始している。津熊鋼建(大阪府大東市)、秋喜(和歌山県田辺市)、亀井サンキ(愛媛県松山市)で販売を開始しているほか、中国地方で中国地方シェアトップの鋼板製屋根材・壁材卸売企業である島屋(広島県広島市)、同じく山陰地方でシェアトップのタブチ(鳥取県鳥取市)などと契約が完了している。戦略的に各エリアのトップへの働きかけを行うことで、採用数を伸ばしているという。地域によって野地板の板厚が異なる場合があるが、デネブエアルーフは、通気リブの形状効果で0.35㎜、0.4㎜どちらの板厚でも同じ強度を得ることができる。

21年に発売した同商品は、独自の形状に加工した通気リブと野地合板の上に施工する透湿ルーフィングの組み合わせで野地面の含水率を20%以下にするもの。「金属屋根は、もともと板金加工業者が施工を行っていた。しかし、板金加工業者は屋根に詳しくないため、屋根の通気・換気まで考えて施工することは少ない」(神戸睦史代表取締役社長)。そのため、毛細血管現象によって野地板や軒先に雨水が浸入して漏水事故につながってしまう。また、吸い上げられた雨水によって軒先唐草のない上部の野地板が腐り、台風などの災害時に屋根が飛んでしまう恐れもあるという。

11月1日には、神戸社長が理事長を務める(一社)住まいの屋根換気壁通気研究会で「実物大モックアップで学ぶ換気・通気部材施工実技研修会」を開催。兵庫県三田市にある同社の工場で、座学と様々な屋根、外壁の施工実習を行い、約50名が参加した。通気・換気についても、雨仕舞とどう両立するのかなどを研修したそうだ。「デネブエアルーフの施工も行ったが、職人の方から普通の立平屋根と比べても全く遜色ないと言っていただけた」(神戸社長)という。また、4月からは「デネブエアルーフ小屋裏漏水保証」を開始、施工業者、工務店を対象に、新築後10年の換気棟からの漏水に対して最大500万円の補償を行う。

さらに、25年の新商品として、6.5寸勾配までの水上側に設置できる通気部材「デネブウォータープルーフ モールディングB水上仕様」を業界で初めて発売する。急勾配屋根は価格帯の高い住宅で採用されることが多いというが、太陽光パネルの設置面積を多くとれる片流れ屋根は、今後も増加が見込まれており、注目度の高い商品となりそうだ。

「デネブエアルーフ」を採用した急勾配屋根。デザイン性と通気・換気性能を両立した

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資材価格の高騰など、屋根の形状変化は住宅市場の影響を色濃く受けている。屋根形状などによって仕様が異なる通気・換気部材もまた、その影響を受け人気商品が変化しつつある。住宅の長期耐久に欠かせない通気・換気部材の今後の動向に注目したい。