子育て賃貸の取り組みが熟成 「ヘーベルメゾンBORIKI」訪問
価値観共有のコミュニティ形成が評価、グッドデザイン賞も
旭化成ホームズと旭化成不動産レジデンスが手掛ける子育て共感賃貸住宅「へーベルメゾンBORIKI」が2024年グッドデザイン賞を受賞した。12年前から続くコミュニティ形成の取組みは子育て世帯に高く評価される。
入居者が協力し合い、自主イベントを開催
10月31日の夕暮れ時。東京都練馬区内にある賃貸住宅「へーベルメゾン BORIKI しゃくじいこうえん」の中庭では仮装したこどもたちが駆けまわっていた。この日は恒例のハロウィーンイベント。共有スペースには、入居者同士で協力して作られたオレンジや紫色のきれいな飾り付けもされていた。ここでは、各家庭の古くなった服やおもちゃを持ち寄ったフリーマーケットなど、定期的に自主企画のイベントを行っているという。「居住者みんながつながるグループLINEがあるので、誰かが企画すれば自然と協力して、集まります」と入居者の女性。子どもを中心とした密なコミュニティが形成されている。
BORIKIは、子育てしやすい環境を提供するために作られた賃貸住宅で、多様化するニーズに応える賃貸住宅の1つの形として、2012年からスタートした。子育て世代に好評を得て、24年現在、東京23区内、関東地区、大阪を合わせ35棟展開している。実績を元に今回初めてグッドデザイン賞に応募したところ、集合住宅そのものの付加価値向上を実現した好例として受賞した。重視しているのは「『お互い様』と言えて、大変なことも喜びも共感し合えるようなコミュニティ形成」(旭化成ホームズ マーケティング本部 集合住宅事業推進部 横田竜氏)。そのためにハード、ソフト両面での工夫を図っている。
空間設計での大きな特徴が、自然な交流を生む共用の中庭だ。各戸の玄関やリビングを中庭側に向くようにプランし、中庭には「遊び場砂場」と「見守りステーション」を配置。公園に行かずとも子どもたちはそこで遊ぶことができ、親同志は子どもを見守りながら情報交換や交流をすることができる。庭で誰かが遊んでいれば、その声が聞こえてくる。そんな「長屋暮らしの現代版をイメージしている」と横田氏。室内も乳幼児期に便利な和室を必ず備え、建具の開閉で自由にアレンジ可能にするなど、子どもの成長に合わせたフレキシブルな間取りにしている。
住民同士が気持ち良く過ごせるためのソフト面の支援も充実させている。入居者同士のコミュニティ醸成を図るため、定められているのが住民憲章「子育てクレド」、助け合いや積極的なコミュニケーションなど、ともに暮らすための共通認識と基本ルール7つが記されており、この憲章に賛同した場合のみ入居可能としている。このハードルを設けることで、「同じような考えを持つ人がいるという安心感につながっている」(旭化成不動産レジデンス仲介・賃貸営業本部 営業推進部PM推進室 楯智也子氏)。この憲章に賛同し、乳幼児を持つ人であれば入居は誰でも可能で、シングルファーザー、シングルマザーや外国籍の居住者もいるという。入居後も、コミュニティ紙「BORIKI新聞」を発行し、スポーツや防災の交流イベントを開催するなど、コミュニティ形成を継続的にサポートしている。
子どものコミュニケーション能力が自然にアップ
「へーベルメゾン BORIKI しゃくじいこうえん」の居住者に住み心地を聞いてみた。9年間住んでいるという女性は「前に住んでいた賃貸物件では、子どもの声に苦情が来てしまった。声をおさえるために朝から晩まで子どもを怒っていて、精神的にきつかった。ここでは音を気にしなくていいし、外に出てもみんながお互いを知っているから安心。毎日の気分が違う」。夫の転勤により、大阪から引っ越してきたという女性は「まったく土地勘のない場所に来てどうしようかと思っていたが、偶然ここを見つけて、引きこもってしまいがちな育児が明るいものになっている」。幼稚園児のいる女性は「あるお母さんから、『ここ(BORIKI)に住んでいる子たちはコミュニケーション能力が高いね』と言われたことがある。毎日いろんな大人に話しかけてもらえるので、自然と信頼感を持てるのでは」。子どもたちが伸び伸びと生活できるだけでなく、子育て中の親にとって精神的なメリットが大きいことが分かる。
BORIKIの取り組みは着実に形となり居住者の好評を得ているが、横田氏は「常に時代に合わせてアップデートしていく必要がある」とも話す。「『母(ぼ)』を主体とした「BORIKI」という名称自体を変更すべきという案もある。家族の形も変化していく中で、対応できるようにしていきたい」と、ニーズを捉えながら進化させていく考えだ。
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