設計者、工務店が集まり考えたAIへの期待と不安
訪れるシンギュラリティ プロが果たすべき役割は!?
徐々に我々の暮らしや産業に影響を及ぼしつつあるAI。
今後、住宅業界に何らかの影響をもたらすことは間違いない。
しかし、どのような影響をもたらすかが漠然としているために、食わず嫌いになっている部分もあるのではないか―。
そこで、設計者、工務店、さらにはAIを活用したシステム開発者を迎え、AIの可能性などについて議論をしてもらった。
“当事者たち”の声を通して、AIの住宅分野での可能性などを考察していく。
2つのAI利用システムの「結婚」で誕生するモンスターツール
大型パネルの委託製造によってオープンな形での住宅建築の工業化を推し進めるウッドステーションでは、PDFの図面データをアップロードするだけで、拾い出しと概算見積の作成をAIで自動に行う概算AIシステムの開発を進めている。
ウッドステーションでは、工務店や設計事務所から提供された図面を基にして、サッシや断熱材が一体化された大型パネルを製造するための情報を生成し、連携する大型パネル生産パートナー会員などを通じて製造するという事業を進めている。
この事業を通じて蓄積してきた膨大な量の設計データや部資材の拾い出しなどに関する知見を活用し、概算AIシステムを開発しようとしている。
同社が開発を進めるシステムは、どのようなCADで作った図面であっても、PDF形式であればAIが自動で各部位の面積などを算出し、その情報をもとに必要となる部材を拾い出していくというものだ。
当初は建物の外皮を中心に拾い出しを行っていたが、現在では室内、造作部材の拾い出しまでもAIが行い始めている。図面をもとに手作業で各部位の面積などを計算し、そこから部材の必要量を拾い出し、その情報をもとに見積を行うという作業が一気に短縮されることになる。
この概算AIシステムの特筆すべき点が、AIが拾い出した情報をもとに概算見積まで作成できる点。既に構造材に加えて、サッシや断熱材などの流通価格の情報を収集しており、このシステム上でだけ概算見積が完成してしまう。最終的には1棟まるごと積算を目指している。
また、大型パネルを用いた工法だけでなく、在来軸組、2×4工法、さらにはCLTなどを用いた工法への対応も図っていく方針だ。
つまり、建材販売店などに見積依頼をすることなく、概算での金額が分かってしまうというわけだ。
既に大型パネル生産パートナー会員や一部の工務店に無料でシステムを利用してもらっているが、かなり精度の高い概算見積が作成されるという評価を得ている。
業務の効率化という点だけでなく、ある意味でブラックボックス化された建材価格情報を透明化していくという点でも、今後の住宅業界にもたらす影響度は大きくなりそうだ。
一方、アーキロイドでは、「建築家なしの建築」という世界観を具現化するためにAIを活用しようとしている。同社では、「デジタル標準化住宅」というクラウド型の住宅設計システムの開発を進めている。設計に関わる全工程を自動化し、間取り情報から構法設計、構造設計、温熱環境、法規適合判定、プレカットデータ生成、部材数量拾い出し、積算までの作業をシームレスに行うことを実現しようとしている。
このシステムを突き詰めていくと、映像コンテンツがYouTubeなどによって一般消費者に開放されたように、設計という行為が広く開放されていく可能性を秘めている。
前出のウッドステーションとアーキロイドでは、お互いのシステムの連携を図ろうとしている。ウッドステーションの塩地博文会長は、この連携を「結婚」と表現する。
ウッドステーションの概算見積AIでは2次元のPDFデータから3次元の立面図を生成し、拾い出しなどを行う。そのデータをアーキロイドのシステムに渡すと、自動で構造躯体が組み上がっていき、構造計算や温熱計算などを行うことが可能になる。
極端なことを言うと、2次元の図面さえあれば、概算見積だけでなく構造計算や温熱計算まで自動でAIが行ってくれるというわけだ。
「我々が建物レントゲン写真を生成し、それをもとにアーキロイド側で肉体を生成していくようなイメージ」と塩地会長は説明する。
逆のベクトルもある。アーキロイドの「デジタル標準化住宅」を利用して設計したデータを、ウッドステーションの概算AIへと渡すことで、概算見積が自動で作成される。
この2つのシステムは、いずれもSaaS型のツールである。スタンドアローン型のソフトウェアが利用者のパソコン内で業務をこなすのに対して、クラウド上で業務をこなしている。そのため、データの受け渡しがより容易になる。
この2つのシステムに限らず、クラウド上でデータをやり取りし、そのデータをAIが〝食っていく〟という状況を生み出すことができれば、あらゆる領域で既存の業務を大きく変革するモンスターツールが生まれる可能性さえある。
この2つのシステムの「結婚」は、その可能性を示そうとしているのだ。
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