New   2024.10.21

緑を住まいの価値にするために

住宅、エクステリア、植物のプロが協働

ポラスガーデンヒルズは、緑を住まいの価値にするための新たな取り組みを実施した。YKK AP、(一社)日本植木協会、(一社)緑のまちづくり支援機構などの協力を得て、2棟の分譲住宅でありながら、緑を暮らしに取り組むための提案を行った。

「遊ぶ庭」と「憩う庭」
趣の異なる2つの空間を提案

ポラスガーデンヒルズが手掛けた「モダンカーサ イクス 津田沼」(千葉県船橋市)は、「遊ぶ庭」と「憩う庭」という2つの趣の異なる外構空間を織り込んだ2棟からなる分譲住宅。

「遊ぶ庭」は、建物の前面に設けた2台分の駐車場スペースと建物の間にある庭で、2棟のカースペースに明確な仕切りを設けないことで、より広がりのある空間を創造している。

2棟の分譲住宅でありながら、質の高い緑化空間を実現している「モダンカーサ イクス 津田沼」

あえて境界線をあいまいにし、2棟の緑化空間を一体的に見せる工夫を施しており、少ない戸数の分譲住宅であっても、質の高い景観を創造することが可能であることを証明している。

一方の「憩う庭」は、坪庭のようなプライベート性が高い緑化空間。リビングからの眺望にも配慮しており、エゴノキなどを植栽し、季節も感じることができる植栽計画を施している。

また、この「憩う庭」は、隣り合う2棟の植栽空間を一体的に設計しており、お互いの敷地に植えられた植栽によって緑量などを確保するといった設計にも挑戦している。さらに、お互いの住戸の「憩う庭」が接しているため、緑を介して住民同士のコミュニケーションを促す仕掛けも取り入れている。

専門領域を持ち寄り
緑化空間の質を向上

建物の前面に設けた2台分の駐車場スペースと建物の間にある「遊ぶ庭」。あえて境界線をあいまいにすることで、広がりのある緑化空間に仕上げている

「モダンカーサ イクス 津田沼」の外構設計については、YKK APが協業している。同社では、エクステリアの製造・販売だけでなく、分譲住宅などの外構設計から商品提案を行う事業を進めている。より質の高い外構設計を施すことで、分譲住宅事業者や工務店などの差別化戦略に貢献しようという狙いがある。

さらに、YKK APが会員として参加している(一社)緑のまちづくり支援機構もこのプロジェクトに協力している。同機構は、緑豊かな街づくりの推進に向けて、緑化や環境設備など関連する異業種企業が集まり、それぞれの技術、製品を生かしたシステム商品の研究・開発、普及を図りながら、新たな緑化市場の開拓を進めている。

また、「PASSIVE GREEN DESIGN」というコンセプトを掲げ、気象緩和機能や生物多様性の確保といった緑の機能に着目した緑化デザインを推進しようとしている。

モダンカーサ イクス 津田沼」では、この「PASSIVE GREEN DESIGN」の考え方を踏まえながら、植物のプロである(一社)日本植木協会 コンテナ部会が植栽選定に協力している。

(一社)日本植木協会 コンテナ部会は、(一社)緑のまちづくり支援機構にも参画しており、そのつながりから植栽選定を行うことになったという。

隣り合う2棟の植栽空間を一体的に設計した「憩う庭」。お互いの敷地に植えられた植栽によって緑量などを確保している
リビング空間からの眺望も考慮し、植栽配置などを検討したという

選定に当たっては、(一社)緑のまちづくり支援機構と(一社)日本植木協会で検討を行い、「遊ぶ庭」と「憩う庭」という2つの外構空間のコンセプトを踏まえながら―
①葉が薄く小さい
②病害虫に強い
③低コスト
④大高木にならない
⑤素直な樹形(出来るだけ株立ち)
―という基本的な考え方に基づき適切な樹種を選んでいった。

ポラスガーデンヒルズ設計部シニアマネージャー兼街並デザイン室の松井孝治室長は、「植物のプロの意見を外構設計に活かしていくという試みを通じて、多くの気付きを得ることができた」と話す。

「モダンカーサ イクス 津田沼」は、住宅、エクステリア、植物という専門領域のプロが同じテーブルに着くことで、より質が高い緑化空間を実現できることを示した好例であり、住宅に新しい価値をもたらす取り組みという意味でも注目できそうだ。

ポラスガーデンヒルズ
設計部シニアマネージャー兼街並デザイン室 室長
松井 孝治 氏
「工業製品と自然を調和させるために」

当社では、分譲住宅開発の計画段階から営業担当者の意見も聞きながら、より豊かな外構空間を提案しています。住宅という箱の各種性能を向上していくことは住宅事業者としては当然ながら取り組むべきことですが、暮らしのストーリーのようなものをお客さまに描いてもらうためには、箱の性能だけでは不十分だと考えています。

その際に重要になるのが外構です。緑の本質的な部分に着目しながら、より豊かな空間を演出していくことで、住宅にストーリー性を付与することができ、結果的に暮らしを豊かにし、当社にとっても他社との差別化につながると考えています。

今回、様々な領域の方々とコラボレーションさせていただいたことで、気付きがありました。建物、エクステリア、植栽を調和させることは、非常に難しい作業です。工業製品で構成された建物やエクステリアと、自然のものである植物を融合させていくわけですから。それだけに、エクステリアや植物のプロの方々と協働していくことが重要だと感じました。

「モダンカーサ イクス 津田沼」では、樹形などにまでこだわって植栽を探し、九州から取り寄せたものもあります。こうした植栽を積極的に活用していくことで、さらに豊かな空間を提供できるのではないかと考えています。それだけに、山採りのように、個性的な樹形の植栽に関する情報などが簡単に入手できると有難いです。


YKK AP
エクステリア本部
クリエイティブデザインLAB
統括部長 クリエイティブディレクター
粟井 琢美 氏
「五感に訴え精神性を刺激するような外構空間を創る」

当社ではエクステリア商品のメーカーとして、植物と外構商品をどう調和させていくかということを追求しています。植物は植えたら終わりではなく、当然ながら生長していきます。本来であれば、その生長していく姿もイメージしながら、外構空間のあり方を検討していく必要があります。

また、住宅で使用されている植栽の中には、以前は住宅用植栽に適していると言われていたが、生長の様子などが分かってくると、維持管理が難しく住宅用途としては適していないという評価に変わることもあります。温暖化の影響などで、想定していた以上に生長スピードが速かったり、逆に思ったよりも生長しなかったということもあります。こうした点については、やはり植物のプロの方々の知恵をお借りすべきではないでしょうか。

その一方で、例えば住宅内からの景色をどう演出していくのかといった点は、建築側の方々や当社のような外構設計ができるプレイヤーの方がイメージしやすいのかもしれません。

緑が住宅をより豊かにしていくことは間違いありません。居住者の五感に訴える価値観を創出できるだけでなく、華道や茶道のような精神性のようなものを演出できるのではないかと考えています。

こうした緑がもたらす価値を住宅に落とし込んでいくことができれば、より訴求力を高めていくことができるはずです。当社としても、外構商品の提供だけでなく、外構設計にまで踏み込みながら、住宅事業者の方々がそうした価値を創造するためのバックアップをしていくつもりです。


(一社)日本植木協会
コンテナ部会長
吉澤 信行 氏
「植物の特性などに配慮した植栽選定を」

住宅用の植栽については、流行り廃りもありますが、特性なども考慮しながら使用するものを考えていく必要があります。例えば、シマトネリコですが、常緑で葉の形も柔らかいので、住宅用の植栽としては適しています。ただし、植えてから5、6年すると急激に生長する樹種でもあります。そのため、ある程度のメンテナンスが必要になります。その一方で環境さえ整えれば、カブトムシが飛来してくるという一面もあります。昆虫好きの子供達にとっては嬉しいのではないでしょうか。

キンバイカという常緑樹も人気があるようです。ヨーロッパ原産の樹種で、ハーブのような香りを楽しむことができます。ただし、使用する際には、日当たりが良く、水ハケが良い場所を好むということに注意が必要です。

ブルーベリーを利用している住宅も目立ちますが、ブルーベリーには温暖地に適した品種と、寒冷地に適した品種があります。寒冷地に適した品種であれば、北海道でも大きな実を付けます。

本当であれば、植木生産者の圃場から移植する時期にも注意する必要があります。例えば、落葉樹であるモミジは、葉が生い茂る時期に移植してしまうと枯れてしまうリスクが高まります。そこで事前に春先に根切りをして夏場の移植に耐えられる状態にします。引き渡し時期などの問題があり、なかなか難しいかとは思いますが、植物のことを考えると、こうした点にも配慮する必要があるでしょう。

どうしても常緑樹が使われることが多いようですが、落葉樹も混ぜながら季節による変化を感じることができるような庭にして欲しいですね。また、自生種を使うことも重要ですが、自生種だけで構成しようとすると、どうしても重たい感じの庭になってしまいます。その当たりのバランスも大切ではないでしょうか。