2024.7.25

長谷川萬治商店、坂茂氏設計のDLT仮設住宅プロジェクトに参画

ローテクを駆使、汎用性の高いモデルに

石川県珠洲市、輪島市で、世界的な建築家、坂茂氏が設計した仮設住宅建設が進んでいる。構造材に長谷川萬治商店が開発したDLTが採用され、木材調達から現地関係者のコーディネートまで、同社がプロジェクト推進を後押ししている。

2024年6月、珠洲市の公園内に、坂茂氏が設計した応急仮設住宅、木造の2階建て集合住宅が完成した。この仮設住宅の構造材として長谷川萬治商店が開発した木質パネル「DLT」が使用された。DLTは、木材を木ダボで接合した木質パネルで、接着剤は使わずに木材に深孔をあけて木ダボを通すという簡易な方法で製造できる。製造方法がローテクでシンプルなため、大型の製造設備が不要で、中小の製材所なども地域材を活用してコストを抑えてつくることができる。これまでは、その木質感あふれる意匠性を生かして天井現しの床パネルなどとして使用された実績はあったが、主たる構造材として使用されたのは今回が初となる。

館林工場で製造したDLT。パネルの上下端部に「櫛の歯」のような加工を施している
珠洲市に搬送したDLT、「櫛の歯」のように加工した箇所を、嚙合わせるように接合、ビスで固定し、正方形の枠に組み立てている

坂茂氏が手掛ける建築に共通するコンセプトは、その土地の特性を生かし、いかに家の中と外を連続させ、気持ちのいい空間をつくるか、ということ。使用する構造材もユニークだ。例えば、再生紙の紙筒「紙管」、ビールケース、海上輸送用コンテナ、布、竹など、様々な身の回りにある素材をもともとの用途とは違う方法で使用することで、コストを抑えてつくりやすくする。今回のDLTも、全国に豊富にあるスギ材を使用することができ、場所を選ばず、ローテクな技術でローコスト、短工期で建設できる点などが坂茂氏の琴線に触れたようだ。

コンテナ型住居の木造版
現地で簡単に組み立てが可能

今回のDLT仮設住宅の建設に先立ち、約2年前から坂茂建築設計事務所のリードでDLTを使った仮設住宅を検討してきた。23年には、同社の群馬・館林工場の敷地内にプロトタイプを建設し技術検証を進めていた。陶器浩和 滋賀県立大学 環境学部教授らに協力してもらいプロトタイプの構造安全性を検証し十分な構造強度を持つことも確認していた。

クレーンを用いて正方形のDLT枠を持ち上げ、基礎の上に建てていく

そして24年1月1日、能登半島地震が発生。プロトタイプの開発、検証を進めていた実績を踏まえて、2月からDLT仮設住宅を実際に建てるプロジェクトが怒涛のスケジュールでスタートした。全国各地から急ピッチでスギ材を館林工場に集め、通常の10倍の稼働ペースで大量のDLTを製造し珠洲市に搬送した。

現地でDLT仮設住宅の建て方は次の通りだ。珠洲市に搬送された幅30㎝のDLTは、パネル上下の端部が「櫛の歯」のようにすでに工場で加工されている。建設現場で、施工者が、地上でその「櫛の歯」の部分がかみ合うように直角に接合しビスで固定する。これを4カ所繰り返し、正方形のDLT枠をつくる。DLTパネルの幅を30㎝に抑えているのは、ひとつは軽くすることで作業しやすくするため、また、一般流通するビスが使用できる厚みを考慮したためだ。

DLT のコンテナを市松模様に積み上げ、コンテナとコンテナの間に大開口のサッシを入れる
完成したDLT 仮設住宅の外観、仕上げは、金属製の縦葺屋根材や、窯業系サイディングで仕上げ、内部空間は、DLT 現しとしている

さらに、クレーンを用いてこの正方形のDLT枠を持ち上げ、コンクリートの基礎の上に、本棚に本を並べるように、正方形の枠同士の間に隙間が生じないように建てていく。基礎と正方形のDLT枠はプレートで固定する。この工程を繰り替えし行うことで、DLTで囲まれたコンテナ型の空間、ハコが生まれる。

このコンテナを市松模様に積み上げ、コンテナとコンテナの間に大開口のサッシを入れることで、開放的な空間を創出した。十分な遮音性能も確保でき、隣室、上下階の音漏れを抑えられる。

なお、今回珠洲市でDLT仮設住宅を請負ったのは、石川県内の住宅会社8社で構成する(一社)石川県建団連(羽田和正会長)。県が募集する応急仮設建設のコンペには一企業では参加することができないため、(一社)石川県建団連にプロジェクトの主体となってもらうことを依頼。新しい構法、材料を使う未知のプロジェクトであるにも関わらず、率先して引き受けてくれたという。

DLT仮設住宅は、1棟当たり9坪、12坪、15坪の間取りを組あわせた全15戸の住戸からなる。珠洲市では全9棟のDLT仮設住宅を建設し135戸を供給する計画だ。6月中旬時点で全9棟のうち6棟が完成し、既に被災者の入居が始まっている。さらに、輪島市においてもDLT仮設住宅(31戸)の建設を進めている。仮設住宅としての利用後は、復興住宅として転用できるように計画している。新しい仮設住宅のモデルとして注目を集めそうだ。