データ基盤統合で一気通貫のサービスを可能に
ANDPAD × Digimaが創出する新たな価値
クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を運営するアンドパッドが、マーケティングオートメーションツール「Digima(デジマ)」を運営するコンベックスと株式譲渡契約を締結、グループ会社化した。なぜシステム連携、事業連携ではなくグループ化なのか、どのような効果を見込むのか―。稲田武夫・アンドパッド代表取締役、美里泰正・コンベックス代表取締役に聞いた。
─今回のグループ化に至った背景、目的は?
稲田 ANDPADはさまざまな会社とオープンに連携していますが、今回、一歩踏み込んでコンベックス社と一緒になりました。それは明らかにDigimaが一番良いプロダクトだからです。良いプロダクトだからお客様が使う、お客様のアクティビティが高いので連携する価値が互いにあるということです。
ANDPADを導入しているハウスメーカー、工務店、ビルダーなど、さまざまなユーザーは施工管理、原価管理、顧客管理などでANDPADを使っているのですが、集客の管理や営業の成約率の向上といったテーマに対してANDPADと連携してDigimaを使いたいという声が強かった。住宅業界ではここ2年くらい集客が落ちており、出会えたお客さんをどれだけ商談につなげられるか、商談意欲を高めるための見込顧客の育成に関する要望が強くなっており、マーケティングを管理するシステムが重要になっています。しかし、ANDPADを使っている住宅事業者でそうしたシステムを使っていない住宅事業者は非常に多い。
お客様が何を求めているか、突き詰めて考えると一元管理です。どういう経路から受注に至ったのか、どういうお客さんが完工までの生産性が良いのかなど、川上から川下まで連携して管理したいというものです。
ANDPADはアプリマーケットというものがあり、そこで他システムと連携して使うことができます。しかし、Digimaと一緒になることで、より深く、スピーディにソリューションを提供することができます。ANDPADの施工中のデータと商談までのデータを一つに統合し、経営者が可視化できる状態にするためには、連携だけではなくデータ基盤自体も一つのものにする必要があると考えました。また、両社のカスタマーサクセスのチームが連携してお客様に向き合う体制を作った方が一気にソリューションを広げて質の良いサポートができるとも考えました。
一方、一歩先を見ると、引き渡し後のお客様の管理、接点の強化といったテーマについてANDPADもDigimaもそれぞれで考えていた。だったら連携して取り組んだ方が良いものが早くできます。
美里 アンドパッド社から声を掛けていただいた時、一番最初に考えたのは顧客のためになるのかということ。この点については議論の余地はない。もともとANDPADを使っているユーザーは非常に多く、連携したいという話は常にありました。二つ目がコンベックスのメンバーのためになるかということ。アンドパッド社と組むことで、メンバーの活躍のステージを増やせ、キャリアアップにもつながると考えました。この二点が非常に大きかった。そして最後に、自分がワクワクするか。かなり大きな話ですし、まったく考えていなかったことなので、正直、最初はお断りする心づもりでした。しかし、稲田さんと住宅業界の未来にどう貢献していけるかと話していくうちに、これは共に目指すべきだと考えると同時にとてもワクワクしていました。
コンベックスは「世界中に良縁を。」をミッションに掲げ、テクノロジーを通じて工務店と施主の出会いと絆を深めることを実現したいと事業を展開してきました。そのミッションを突き詰めていくと一元管理になります。顧客管理をしてスマートなアフターフォローにつなげていくところまでカバレッジしないと、そもそもミッションを実現することができません。私たちは集客、来場誘致を得意としており、ANDPADとの相互補完はある意味、必然です。
M&A=買収、買収=エグジット、エグジット=社長を辞める、と捉えた方々から「いつまで社長をやるの」と連絡をいただいたのですが、「いやいや、やめませんよ」と。成長戦略を描くグループジョインなのですから、やめるはずがありません。これからのビッグビジョンをともに実現する最高のパートナーと深い、濃い関係になれたことは極めて幸運だったと考えています。
─連携だけでなくデータ基盤まで一体化するとの話がありました。そのメリット、背景にある課題感は?
美里 今、DXによる色々なサービスがあり、その連携が進んでいます。システム構築には、分野ごと最適なソフトウェアを組み合わせる「ベスト・オブ・ブリード型」と、ソフトウェアなどを統一する「スイート型」がありますが、日本の住宅業界においては一つのシステムで一気通貫する「スイート型」が一番望ましいと考えています。グループジョインはただの連携ではありません。業界特化型としてはまだ誰もなしえていない、一気通貫によるサービス提供により現場の負担を下げることを目指しています。
API連携ならば通常のパートナーシップでも可能ですが、それは基本情報のやりとりだけにとどまります。経営統合ではデータ基盤全体を連携させる、すなわち、すべてのデータを統合することになります。Digimaが持つ店舗ごとの生産性、来場率、媒体ごとの広告対効果、営業担当者ごとの来場率やインサイドセールスの生産性など、全データがANDPADに集約されることになります。API連携とは分析できるレベルが違います。また、マーケティング、セールス、施工管理からアフターまで多方面からお客様をサポートすることが可能になります。同じ資本ですから、連携の深さが違うのです。これは絶対に経営統合しなければできないことです。
住宅事業者の最重要課題は、経営コストを下げ、全体的に最適化すること。今回のグループジョインは経営判断に重要な情報を可視化し、そのソリューションにつながると考えています。まずはAPIによる基本情報の連携からはじめ、データ基盤の連携へと段階的に進めていく予定で、最終的にはすべてのデータを統合しシームレスな形とします。年内には、第一弾の取り組みを明らかにできると考えています。
稲田 今、住宅事業者の多くは、顧客管理システム、施工管理システムなどそれぞれ別のシステムを入れていますが、どれか一つで完結した方が良いに決まっています。今、経営判断をしていく上で、成約率、ROI(投資利益率)、単価、といった数字を出そうとすると、それぞれ別のシステムから数字を集めてきてExcelで加工する必要があります。単に顧客情報が連携されているだけ、商談ステータスが連携されているだけでは、経営判断に必要な分析をすることは簡単にはできないのです。
データ基盤を共通化することでこうした分析が非常にやりやすくなります。ANDPADとDigimaが一緒になることで、こうした住宅事業者にとって一番のメリットを生み出すことができます。
Digimaは主に営業関係の受注棟数や売上に責任を持つ方々が使っています。一方、ANDPADは、色々な機能がありますが元々は施工管理や現場管理、つまり粗利責任です。経営者からみれば両方大事です。例えば、受注や着工を平準化しようとした時、タイミングによっては職人チームのキャパシティの課題があったりします。DigimaとANDPADが一つになることで、受注と納品の両方を見ながら議論することが可能になるのです。
また、システム開発の視点からみると、システム連携したとしても双方の会社は利害関係にあり、それぞれの会社の方針がありますから、お客様目線で最後まで足並みを揃えて開発するハードルは拭えません。一つのグループで、完全にお客様の方を見て開発することができる、そこが単なるシステム連携とグループジョインとの大きな差だと考えています。
─アンドパッドのこれからの方向性、考え方は?
稲田 住宅事業者はずっと一元管理を求めていましたが、システムプレイヤーがそれを実現できていないことを悔しく思っています。ただ、住宅事業者ごと、少しずつ要望が違います。受注単価も違いますし、分譲住宅なのか注文住宅なのかでも要望は異なります。そうしたなかで住宅業界に広く使っていただける一元管理システムとは何かを研究してきました。
一元管理を実現するには、グループ会社として一つになるのが一番良いというのが私たちの考えです。そうでなければ、お客様が求めるスピード感には答えられず、シンプルな一元管理はできない。その意味からも今後も、グループジョインを積極的に進めていきたいと考えています。
同時に、住宅業界向けのシステムはこれからも増えていくでしょう。お客様のためにシステムが磨かれていくことは望ましい。ただ、住宅市場が縮小に向かうなか、各社の戦略はシステムカバレッジを広げていくというANDPADと同じようになっていくのではないでしょうか。であれば、業界の全体のパイを広げるようなところにIT投資が広がった方が良い。その意味からも、グループジョインにより業界全体に対して新しい付加価値になる取り組みが進むことが望ましいと考えています。
例えば、アンドパッドは「ANDPAD AWARD」でDXの好事例をコンテスト形式で発表しています。システム連携、グループジョインにより、この場にANDPAD以外のものがどんどん出てくるといいなと思っています。業界にどんどん知見を還元できるようなグループ構想を作っていきたいと考えています。
(聞き手:平澤和弘)
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