2024.7.9

住友林業/京都大学、世界初の木造人工衛星が完成

宇宙での木材利用の第一歩に

宇宙木材プロジェクト」の一環で開発を進めてきた世界初の木造人工衛星「LignoSat」の1号機が完成した。10月にも宇宙空間での利用を開始する。

住友林業と京都大学が共同で開発を進めてきた世界初の木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」の1号機が完成した。

両者は宇宙での木材利用の可能性を探るため、「宇宙における樹木育成・木材利用に関する基礎的研究」に共同で取り組む研究契約を締結、2020年4月から「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」に取り組んできた。

完成した木造人工衛星「LignoSat」の打ち上げ実機

「LignoSat」の特徴は、そのコンパクトさだ。木材は高周波の電磁波や地磁気を透過する性質を持ち、従来外部に取り付けていたアンテナや姿勢制御装置が衛星内部に設置可能となったことで、衛星本体のサイズ縮小に寄与。1辺が100㎜角の「キューブサット」と呼ばれる超小型衛星化することに成功した。

また、環境負荷の軽減効果が見込めることも木造のメリットだ。人工衛星は、その運用が終了すると宇宙ゴミ化することを避けるため、大気圏に突入させて燃焼処分することが国際ルールになっている。しかし、一般的な人工衛星の主な構成材はアルミニウムであり、燃焼時にアルミナ粒子という酸化アルミニウムを放出する。これが大気汚染の原因となり、地球に悪影響を及ぼすことが懸念されている。一方で、木造衛星は大気圏で燃え尽き、燃焼の際に発生するものも水蒸気などのため地球大気への負担が少ないというわけだ。

そのほか、製造過程での脱炭素にも貢献する。アルミ製の人工衛星は製造に特別な工作機械を使う必要があり、その過程で二酸化炭素を多く排出していた。一方、木造人工衛星の構造体は、言わば木箱の立方体。木材同士の接合には、「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」と呼ばれる日本古来の伝統的技法を採用して強固に組み上げることで、ネジや接着剤を一切使用していない。そのため、ノコギリと鉋があれば簡単に製造可能で、製造過程での二酸化炭素排出量を大幅に削減できる。構造体には北海道紋別市にある住友林業の社有林から切り出したホオノキ材を使用している。

両者は、22年3月~12月の10か月間、国際宇宙ステーション(ISS)で木材試験体を宇宙空間に曝露する実証実験を実施し、温度変化が大きく強力な宇宙線が飛び交う過酷な宇宙の環境下において、割れや反り、剥がれ具合などの耐久性を確認。加えて、地上で実施した別試験において加工性や寸法安定性の高さなどをチェック。こうした数々の試験を経てNASAやJAXAの安全審査をクリアしたことで、宇宙での木材活用が公式に認められた世界初の事例となった。

今後、9月にフロリダ州ケネディ宇宙センターからスペースX社のロケットに搭載して打ち上げを行い、10月にはISSから宇宙に放出される予定だ。木材のひずみや内部温度分布、ソフトエラーなどを測定する。

京都大学は、今回の1号機のデータを活用しながら2号機の開発を進める。また、住友林業は今回の研究を通して得られた知見をさらに分析し、木材の劣化抑制技術の開発、高耐久木質外装材などの高機能木質建材や木材の新用途開発を推進していく考えだ。