表参道徒歩3分の場所に再生建築「ミナガワビレッジ」

一から図面を起こすなど様々な工夫で再生 新築では作れない価値、文化が地域に波及

東京・表参道交差点から徒歩3分。多くのビルがあるなかで、一歩入ると緑と木々と石畳の庭のある木造を主体とした二階建ての「ミナガワビレッジ」がある。1階と2階に4つの部屋を持つ。延床面積は425.96㎡。

道に面したところにはガラス張りで中の空間がみえるカフェ「HIGUMA Doughnuts & Coffee Wrights」があり、海外客を含め多くの人で賑わっている。その横が緑に囲まれた通路で中庭に繋がる。庭の横には木の露わになった天井の高いラウンジがあり、ここは入所している会社の共有スペース。商談や会議に利用され、時折、イベントも開催されている。冬には餅つき、春は和菓子の会、夏は夏祭り、秋は月見なども行われ、多くの人が集い、コミュニケーションの場として活用されている。庭には共有のキッチンもあり、レンタルスペースとして一般にも開放されている。

中庭に立つ神本豊秋さん(中央)、チーフアキテクト飯島康太郎さん(右)、広報アシスタント能村嘉乃さん(左)。左後ろは再生の際に元の位置のまま新築を行った建物。右は書庫を改装したキッチン

建物には、カフェの他に4つのクリエイティブな会社が入っている。和のデザインを現代に生かした服やグッズなどを展示販売する生駒芳子さんプロデュースのブランド「HIRUME」。元プロサッカー選手、槙野智章氏が立ち上げたメンズコスメとアスリートのセカンドキャリアをサポートする「HALTEN JAPAN LIMITED」。映像の作成を手掛ける「ジンプク」。

このミナガワビレッジの再生を手がけたのは、「再生建築研究所」(神本豊秋代表取締役)だ。再生建築の主に設計・企画などを手掛ける。建築の設計を行う傍ら運営管理も携わる。この建物の再生プロジェクトの建築と運営の実績から、都内のオフィスビルを始め、各地のホテル、店舗、住宅など様々な既存建造物再生のオファーが増え多くの案件を手掛けている。スタッフは約30名。

道に面したガラス張りのカフェ。手前に小さなベンチがあり記念撮影をする人も多い。右側が中庭への入り口になっている
中庭に面してある共有スペース。建物の中央部にある。かつての建物の躯体を活かしたもの。夏まつりでは多くの人で賑わった
中庭。左手は、小さい山になっている。奥はカフェ。元は半地下の駐車場だった。右手は共有スペース。1、2階に「再生建築研究所」がある

「ミナガワビレッジ」は1957年に建てられた。現在のオーナーが、叔父の皆川氏の個人邸宅を相続したもの。小さい頃に親しみ庭で走り遊んだこともある家屋の「記憶を残したい」という要望から、当時の雰囲気をできるだけ生かすことを目指した。しかし増改築でアパートとして使われていたこの建物は、違法状態だった。検査済証や図面も存在しなかった。そこで実測調査等を行い、そこから改装・改築を手掛け、違法だったところを是正し、検査済証を60年越しで初めて取得した上で新たに蘇らせた。当初は取り壊し新築するしかないと思われていた物件だった。

「建物を残しながら価値を上げようというプロジェクト。新築では作れない手作りの庭や書庫を残し、次の世代につなげていく。そういう建築を作りたいと思い僕らだったらチャレンジできると考え受けた。文化が残る建物が地域に波及する。再生する難易度の高い建物だったが、どうしても残したいという強い思いもあり実現することができた。古い建造物を上手く活用できない、特に、大手デベロッパーさんから依頼をいただくことが多く、他社だとこれはもうコンプライアンス上、壊すしかないという建築物を扱えることが強みになっています」と、神本豊秋さん。

再生するにあたりかなりの工夫がなされた。当時の基礎では現在の構造基準を満たさないため、一度、曳家により建物を隣に動かして基礎をやり直し、60年前の躯体を生かすようにした。昔からあった柱に補強を新しく入れた。さらに外断熱にして断熱性を高くし、魔法瓶のような構造にして快適に過ごせるようにした。耐火性の向上も図った。同時にかつての木造の構造を生かす工夫がされている。

「図面がなかったので一から実測し図面を起こしました。さらに、今のオーナーさんがスクラップで持っていた昔の図面を集めて起こしていく。そういうところにお金がかかり、なかなか理解が得づらいところもあります。逆に言うと、再生を機に、環境・防災などの機能を向上させることで、より良いものを残し後世に繋げられるということを我々も啓発して行きたいなと思っているところです」(神本さん)。再生建築という手法が今、大きな注目となっている。