大和ハウス工業 奈良・コトクリエで団地再生シンポジウムを開催
「生きる感動が育めるまち」の実現へ 8ネオポリスが参加、住宅団地再生の糸口を探る
大和ハウス工業は、(一財)高齢者住宅財団、(一社)高齢者住宅協会と共に、2024年1月27日、奈良市の同社グループ みらい価値共創センター「コトクリエ」で「団地再生シンポジウム~団地再生で未来を拓く~」を開催した。第1部「郊外住宅団地再生を考える講演会」と第2部「ネオポリスサミット2024~ネオポリスの再耕に向けて~」の2部構成で実施。会場では7つのネオポリスの代表者が登壇し、それぞれの地域が抱える課題、再耕に向けた取り組みなどを発表、郊外住宅団地再生の糸口を探った。
大和ハウス工業は1962年から郊外型の戸建住宅団地「ネオポリス」を開発、全国に61カ所存在し、総開発面積は3151ha、総区画数は6万8696区画にのぼる。しかし、開発から50年以上が経過し、住民の高齢化が進み、世帯が減少している。こうした状況を放置すれば、団地周辺の生活インフラ、交通インフラの維持も難しくなり、さらに団地外からの子育て世帯などの移住者も減少していく。悪循環を断ち切り、住み続けられるまちづくりを目指して、同社は2021年4月、リブネスタウン事業推進部を発足させた。「まちを【つくった責任】として、ネオポリスを『再生』するのではなく、再び『耕す』ことで『新たなまちの魅力』を創出」するというスローガンのもと、その再耕事業「リブネスタウンプロジェクト」を進める。「まちの魅力を高める仕組み」と「世帯循環の仕組み」を共創し、「生きる感動が育めるまち」の実現を目指す。
現在、全国61カ所のうち、所沢ネオポリス(埼玉県所沢市)、取手北ネオポリス(茨城県つくばみらい市)、上郷ネオポリス(神奈川県横浜市)、加賀松が丘団地(石川県加賀市)、豊里ネオポリス(三重県津市)、阪急北ネオポリス(兵庫県川西市)、緑が丘・松が丘ネオポリス(兵庫県三木市)、阪南ネオポリス(大阪府河南町)の8カ所で先行的にプロジェクトを推進する。
まず、第一ステップとして「まちの魅力を高める仕組み」の構築を目指し、団地住民との信頼関係の構築に取り組む。大和ハウス工業が戻ってきたことを知ってもらうところからプロジェクトを展開。具体的には、団地再耕の重要性を伝え、まちづくり協議会を発足させ、地域住民が主体となり、より長期にわたりまちづくりに主体的に取り組んでもらえる体制づくりを進めている。
郊外団地を考える講演会
有識者など3人が登壇
今回の「団地再生シンポジウム」の開催は初の試みとなる。住宅団地の現状と課題を明確にすると共に、同社が開発したネオポリスの地域住民が取り組むコミュニティ再生に向けた活動に着目し、住民、有識者、企業人による対話を通じて、持続可能な住宅団地の実現を目指した解決の糸口を探った。会場参加者合計は270人(7ネオポリスの住まい手約120人、関係者・来賓など約80人、大和ハウス工業社員約70人)。そのほか、取手北ネオポリスを含む計8ネオポリスのサテライトで住まい手約120人、講演会のみオンラインで約190人が参加した。
第1部「郊外団地再生を考える講演会」では、国土交通省 大臣官房審議官の宿本尚吾氏が「住宅団地再生に向けて」をテーマに登壇した。
住宅団地再生支援に向けて、法改正をして取り組んでいることなどを紹介。国は令和元年に地域再生法を改正、自治体がつくった団地再生計画を認定し、手続きの緩和をするなどのインセンティブを与える「地域住宅団地再生事業」を展開する。また、2024年度中に地域再生法を改正し住宅団地の用途規制の緩和に柔軟に対応していく方針だ。「空き家の増加などの課題を抱える一方で、インフラが整っている郊外住宅団地は面白い場所であり、新しい担い手の活躍の場になりえる。その担い手は団地をつくってきた人たちか、住まい手か、新しい第三者なのかはわからないが、団地再生を進めていく上で様々な人々が交流し議論、取り組みを進めていくことが重要ではないか。最後は人の問題になる」と述べた。
また、東京大学大学院工学系研究科建築学科専攻の大月敏雄教授は「住民主体の団地再生に向けて」をテーマに登壇。東京都八王子市・めじろ台で支援している住宅団地再生の取り組みなどを紹介し、「すでにあるまちを未来に向けてより良くしていくために、ハードからソフトまで今ある資源を総動員して計画的に使い、未来をデザインしていくことが求められている。まちを抜本的に変える裏技が望めないとするならば、少しずつみんなで扉を開き合い、ちょっとずつ譲り合い、取り組みを進めていく必要があるのではないか」と述べた。
さらに、大和ハウス工業リブネスタウン事業推進部 東日本統括グループ長の作田千佳氏は「大和ハウスグループの将来の夢」をテーマに登壇。リブネスタウンプロジェクトを開始した当初、再び戻ってきたハウスメーカーの再耕の取り組みに困惑する住人は少なくなかった。しかし、同社社員が何度もまちに通い、そのまちに住み、直接住人と会い対話を重ねる中で、徐々に信頼関係を築き、今ではまちづくりに積極的に参画する住人も増えているという。「既存事業とは異なるスタンスで、社会価値を長期で生み出すロードマップをもとにリブネスタウンプロジェクトを推進している。全国には3000を超える住宅団地がある。それぞれのまちの特性に合わせた団地再生の仕組みを提供することができれば、日本のまちが輝き続ける、そんな夢が実現するのではないかと考えている。『生きる感動が育めるまち』の実現に向けて多様な方々との対話を重ねていきたい」と述べた。
7つのネオポリス代表が取り組みを発表
課題を共有、次のアクションに
第2部の「ネオポリスサミット2024~ネオポリスの再耕に向けて~」では、7つのネオポリスの代表者がそれぞれのまちの再耕の取り組みを発表した。ファシリテーターを東京大学大学院の大月教授と、前消費者庁長官の伊藤明子氏が務めた。7ネオポリスの発表は以下の通り。
所沢ネオポリス
所在地: 埼玉県所沢市
面積: 13.2ha
区画数: 676区画
入居開始: 1970年
2022年、自治会で調査した、75歳以上の後期高齢者世帯率は37.4%。免許返納する高齢者が増えていること、買い物に不自由する高齢者が増えていることを受けて、コミュニティバス(1日4往復)を導入。2023年5月から、コミュニティワゴン(1日12便)の実証実験を開始している。
また、祖父母が所沢ネオポリスに在住、子供の頃に祖父母の家によく遊びにいっていた大学生の寺本春花氏は、ネオポリス内の空き家などを活用して不登校児を受け入れ居場所としてもらう構想を示し、「子どもの居場所をつくり、世代を紡ぐことで持続・発展するまちに成長させたい」と発表した。
横浜上郷ネオポリス
所在地: 神奈川県横浜市
面積: 45.8ha
区画数: 845区画
入居開始: 1972年
住宅団地の多くが第一種低層居住専用地域であるため、住宅以外の用途の建物を建てるハードルは高い。地域住民の合意を取りまとめ、行政などと連携することで、特例として住宅以外の用途の建物を建てることは可能だが、時間がかかるのがネックだ。上郷ネオポリスにおいては、2年間にわたり横浜市などと協議を重ね、特例としてコンビニエンスストア併設型コミュニティ施設「野七里テラス」建設の許可を受けた。地域住民よりサポートメンバーとして、ボランティアを募集し、施設内外の美観整備やイベントの企画・運営を行う。こうした取り組みが評価され、(一財)住宅生産振興財団の「第19回 住まいのまちなみコンクール」において、「住まいのまちなみ優秀賞」を受賞した。ネオポリスサミットの発表では、まちづくりに担い手の世代交代の課題に触れ、「第一世代による活動から、第二、第三世代を加えることで、『飛び続けられるまち』をつくることを『幸せの鳩構想』と名付け、新しい取り組みを展開していく」とした。
加賀松が丘団地
所在地: 石川県加賀市
面積: 60.9ha
区画数: 1460区画
入居開始: 1976年
2003年に町内会体制を変更し、連合会(1区~8区)を発足、専任で置く事務局員が広報の作成、理事会/総会の準備、住まい手との会話・対応、各種イベントの準備などの業務を担っている。2021年から大和ハウスと連携し、全7回の住まい手会議を開催、こうした取り組みの成果として、4年ぶりの夏祭りの復活を実現した。また、高齢者の団地住民を対象としたワークショップなども実施し、高齢者の孤立化を防ぎ、見守り機能を備えた住まいを増やす取り組みを進めている。2024年3月に北陸新幹線が延伸、開通される「加賀温泉駅」から徒歩数分圏内であるため、新しい人の流入、関係人口の増加にも期待する。
豊里ネオポリス
所在地: 三重県津市
面積: 166ha
区画数: 2500区画
入居開始: 1980年代前半
地域住民が主体となり豊が丘地区自治会連合会を組織し、地区夏祭り、自主防災活動、敬老事業、ふれあい事業、体育文化振興活動にほか、ライフネット事業(福祉バス)、青色回転灯活動(パトロール)などの事業を展開している。将来にわたり安全・安心して暮らしていくことができるように、治安悪化につながる恐れのある老朽箇所の洗い出しなども行っている。豊が丘地区自治会連合会の活動を継続していくため、大和ハウス側に連携強化を求めた。
阪南ネオポリス
所在地: 大阪府南河内郡河内町
面積: 74.0ha
区画数: 1984区画
入居開始: 1972年
分譲開始から50年以上が経ち、高齢化、人口減少の課題が顕在化。地域住民が参加する「大宝まつり」や「とんど祭り」も担い手が不足するようになり、ほとんど開催されない状況であった。大和ハウスのリブネスタウンプロジェクトをきっかけに、大和ハウス側と地域住民との意見交換を重ね「みんなの意見報告会&まちづくりセミナー」などを開催し、地域住民の声を拾い上げ、今の時代に合った形で地域行事を再構築していく取り組みを進めている。実際にコロナ後、「大宝まつり(プレサミット)」などを実現している。
阪急北ネオポリス
所在地: 兵庫県川西市
面積: 172.5ha
区画数: 3950区画
入居開始: 1967年
住宅団地を囲むように5つの駅があり、大阪・梅田まで1時間圏内と交通アクセスの良さなどもあり、子供の人口が増えている。特に子育て世代にとって公園が重要な場所になることから、自治会が主体となり、特色ある公園のルールづくりワークショップを開催。市が管理する公園から、地域住民で支えていく公園へと変えていくことで、利用者の増加、多世代交流の活発化、新たなコミュニティの創出につなげようとしている。町内活動に関心を持つ人を増やし、まちづくりの担い手発掘にもつなげていく。
緑が丘・青山ネオポリス
所在地: 兵庫県三木市
面積: 304.3ha
区画数: 5600区画
入居開始: 1971年
約8000人の住民が暮らし、高齢化率40%を超える「緑が丘地区」において、中間法人を組成し若者世代の流入および地域の活性化を目指した取り組みを開始している。住民を主体とした自立運営ができる中間法人として、みらまち緑が丘・青山推進機構を設立、「多世代の住民が快適に永続的に循環しながら住み続けられるまちづくりを支援」することを目的とし、サテライト拠点を通じた交流促進、見守り・医療福祉サービスの提供、相談窓口での対応などを行っている。
空き家をリノベーションし、住民同士の交流を促す場の創出も行った。リノベしたのは、以前は茶道の先生が住んでいた住まいで、地域の人たちが集まる場所であった。先生の名前にちなみ「たかはしさんち」と命名。誰もが気軽に集まることができるようにバリアフリー設計を取り入れ、明るく開放的な空間とし、通りかかった人にも声をかけやすいように工夫している。
「ネオポリスサミット2024宣言」を採択
各ネオポリスからの発表の後に行われたパネルディスカッションでは、各団地の参加者から、「大和ハウスからもっと大きなボールを投げてもらえれば受け止めやすい」、「かつては団地内に個人商店がたくさんあったが、そのほとんどがつぶれ、買い物難民を生み出さない方策が必要」、「高齢化が進み、バスに乗れない方も増えている。福祉対策も含めて考えていく必要がある」、「各ネオポリスのメンバーがつながっていけばもっとサミットはよくなっていくのではないか」といった率直な意見が交わされた。
最後に、当日の発表、議論を踏まえ、「私たちのまちづくりは、『すべての住まい手が主役になる』、『企業や大学、行政などの多様な主体と共に進める』、『地域の個性を活かす100年後も住み続けられるコミュニティを育もう‼』」を柱とする「ネオポリスサミット2024宣言」を採択した。
夢と感動を与えるまちづくりで
「つくる責任」を果たし続けていく
大和ハウス工業 代表取締役社長
芳井敬一 氏
SDGsの17の目標の12番目に「つくる責任、つかう責任」があります。私が2017年に社長になり、その「つくる責任」を見た時に、「私たちは、まちを、ネオポリスをつくったよね。そのつくった責任はどうなんだろう、今まちはどうなっているのだろう」、そういう想いがどんどん湧いてきました。自分たちがつくったまちをいかにもう一度自分たちが戻って再び耕せるのかということをやってみたいと思いました。これは我々だけでできるものではなく、やはり主役は住民の皆さんです。そしてその地元自治体と共に歩んでいかなければならない。
ネオポリスの住民の皆様が、私どもがつくったまちを再び耕そうと一生懸命取り組まれていることに関しまして改めて感謝申し上げます。また、弊社の社員がネオポリスに入り、皆様との間で会合を開き、絆を築きつつある、そういった活動に対してご理解いただいていることに感謝申し上げます。この再興をしているチームは、専門でやっているメンバーもいますが、なかなかそれだけでは担い手がいないため、社内の副業制度を利用して参加する社員も多くいます。社内の中で副業を募集するとあっという間に集まります。社会のために役に立ちたいという社員たちが非常に多い。今日の発表を聞き、改めて自分たちが見ている方向に間違いはないと思いました。今日のこの日は、私には忘れられない日になります。再び皆さんと共に、今日より明日、明日より明後日へと、夢と感動を与えるまちづくりを精一杯心を込めてやり続けます。
団地再生に地域経営の視点を
多様な主体の連携が不可欠
前消費者庁長官
伊藤明子 氏
各ネオポリスの発表を聞いて、地域の共通の課題がある一方で、それぞれ違う課題を抱えているということも改めて感じました。地域再生法の「住宅団地再生事業」の法改正は、私が担当した思い出深い仕事です。一つ反省の弁を述べさせていただくと、あの法改正は市町村がいろいろと計画をつくり頑張ってもらうということですが、いや、これは市町村だけでなくて、市町村を動かす住まい手の人にも、もっと積極的に参加してもらわなければいけないということをしみじみ感じました。また、住宅団地の再生には地域経営の視点を持ち、芯となる経営主体がしっかりいて、連携していくことが重要になります。大学はじめ、関係人口、交流人口も含めて、そうした様々な人たち、あるいは大和ハウスのような民間企業など、多様な主体が連携していかないと問題解決は相当難しい、こういうことを改めて感じました。
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