竹中工務店、生体指標と位置情報の組み合わせでオフィス空間を評価
企業の生産性向上を支援
生体指標と位置情報の統合データを基にオフィス空間を評価するシステム「GISTA」を開発した。生産年齢人口の減少により人的資本の最大化が求められるなか、「GISTA」を活用して企業の生産性向上を支援したい考えだ。
竹中工務店は、建物利用者の生体指標と位置情報を組み合わせた統合データを活用してオフィス空間を評価するシステム「GISTA(ジスタ)」を開発した。
従来、オフィス環境が生産性にもたらす影響を調べる方法は、オフィスワーカーへのアンケートといったヒアリング調査が主流であり、定性的にしかその影響を把握できていなかった。
こうしたなか、竹中工務店は生体指標と位置情報の2つに着目。この2つは、近年の技術の進歩によって精度の高いデータが取得できるようになってきており、組み合わせることで、「誰がどこにいて、どのような身体状態にあるのかがリアルタイムで定量的に分かるようになる」(設計本部 アドバンスデザイン部・伊勢田元環境設計コンサルティンググループ長)と考えた。
竹中工務店は、こうしたデータをもとに建物所有者に対して生産性向上に向けたオフィスの新築・改修提案を進めていきたい考えだ。システムの運用は同社が行う。既に、社内やグループ会社内でのテスト運用を数度にわたって実施しており、これまでに1000人以上のデータを計測してきた。外部企業から導入に関する問い合わせも寄せられており、24年2月頃には社外での実測が行われる予定だ。
シンプルな仕組みで
ワーカーの負担なくデータ取得が可能
「GISTA」の利用方法はいたってシンプルだ。オフィスワーカーにリストバンド型の心拍計を装着してもらい、心拍データを測定。生体ビッグデータの解析事業などを行うWINフロンティア(東京都世田谷区、板生研一代表取締役社長兼CEO)と連携し、同社の独自技術を用いて心拍データから集中度やストレス度、リラックス度、トータルパワー(活力度)といった生体指標を算出する。加えて、オフィスワーカー各人のスマートフォンにインストールした位置情報アプリからそれぞれの位置情報を取得し、これと生体指標を「GISTA」のサーバー上で紐づけるだけで、オフィスエリアごとに生体指標がどのように変化するのかを可視化できる。つまり、オフィス内での働く場所(環境)が生体指標に与える影響がひと目でわかるのだ。リストバンドとスマートフォンさえあれば利用できるため、オフィスワーカーに負担をかけることなく手軽にデータの取得・分析ができることがポイントになっている。
「GISTA」を使うことで、例えば、オフィスエリアごとの集中度について調査・比較することが可能になる。これにより、「ワークスペースが本当に集中できる空間として機能しているのか」といったことが、科学的な根拠に基づいた定量的なデータとして見えてくるというわけだ。
ユーザーへのフィードバックで
自発的な取り組みを促進
オフィスワーカー各人は、「GISTA」で取得・分析した自分の生体指標データを、システムの一部に組み込まれているスマートフォンアプリを介してリアルタイムで確認することができる。また、アプリには日付や時間帯、執務場所ごとに生体指標を確認できる振り返り機能や、現在の集中度、ストレス度などに応じて働き方のアドバイスを行う機能も搭載。一人ひとりが自分に合った働き方を見つけることができる。
例えば、集中度についてみていくと、これが高まる場所や時間帯といった条件は個人によって様々ある。アプリからのフィードバックによって自分の集中力が高まりやすい条件が分かれば、その時間帯などに焦点を絞って効率的に作業ができるため、生産性の向上につながる。
さらに、同じオフィス内で同システムを使用する他のワーカーの平均集中度と自分の集中度を比較できる機能や、集中度が高い上位10人をランキング形式で表示する機能なども備えており、ワーカー各人はゲーム感覚で楽しみながら自発的に集中度を高めていくことができる。
なお、ランキング機能などにおいて自分以外の個人の生体指標・位置情報を見ることはできず、表示される名前もニックネームとなっているため個人が特定される心配はない。
生産性を高める働きやすい環境づくりを
現在、日本では少子高齢化によって生産年齢人口の減少に歯止めがかからない状況が続いている。総務省統計局の人口推計によれば、2023年6月時点の生産年齢人口は約7400万5000人。これが、内閣府の「令和5年版高齢社会白書」では、32年に7000万人割れの約6971万人、70年には約4535万人にまで減少するとみられている。生産性をいかに向上させるかが日本企業全体の課題と言っても過言ではない。
伊勢田グループ長は、「生産年齢人口は、今後ますます減少していくことが予測される。そのため、人的資本の最大化によって企業の生産性を高めることは、国際社会で日本が生き残る上で不可欠だ」と話す。
また、海外展開も見込む。23年7月にアメリカ・カリフォルニア州のサンディエゴで開催された国際カンファレンスで「GISTA」を発表したところ、非常に好評だったという。特にニーズが大きいと見込んでいるのがアジア圏の新興国だ。シンガポールのとある企業からは「今すぐにでも導入したい」との声掛けがあったほど。世界中で使われるシステムになることを目指し、24年春頃にも海外展開に向けて本格的に動き出す予定だ。
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