住宅の多様化が巻き起こす 屋根の通気・換気部材の新提案
住宅のデザインが多様化し、求められる性能も高まるなか、屋根の通気・換気部材においても、これまでにない性能が求められてきている。各社は、自社の強みを生かしながら幅広い需要に応えられる新商品の提案を進める。
通気・換気部材の新商品提案が活発化している。住宅のデザイン変化や、性能向上、防災など様々な条件から、これまでにない商品が求められているためだ。
独特のシャープなデザインや軽さが評価を受け、金属屋根市場が急拡大している。(独)住宅金融支援機構が公開している「フラット35仕様実態調査」では、2017年時点で、金属屋根のシェアは粘土瓦、スレート瓦を抜いて約4割を占めている。現時点ではさらに金属屋根のシェアは拡大していると予想され、住宅市場の6割程度に上るのではないかとの声もある。
また、性能面では、高気密・高断熱化が図られ、小屋裏換気の重要性が高まる一方で、設計のデザイン上の都合から、屋根断熱がとられるケースも増えてきた。
激甚化する災害への対応も迫られる。全国の1時間降水量100㎜以上の平均年間発生回数は、統計期間の最初の10年間(1976~85年)と最近10年間(2013~22年)でおおよそ2倍に増加しており、強い風雨に耐える性能の必要性が増している。
こうした災害は今後も厳しさを増す予測で、環境省の「気候変動による災害激甚化に関する影響評価結果」では、地球温暖化が進行した場合、台風がより発達した状態で上陸し、降雨量の増加や風が強まることでの風害が懸念されている。
こうした市場や環境の激変に対応するため、通気・換気部材の新商品提案が加速している。
関東でも立平屋根の人気が急増
様々なケースに合わせた商品が必要に
【日本住環境】
日本住環境は「これまでは比較的九州・四国エリアに多かった緩勾配の立平屋根が、関東を始めとして全国的に増加してきた」(営業本部 マーケティング部 小林輝久部長)と、立平屋根の需要増を背景にラインアップの拡充が必要になったという。立平屋根は金属の一枚屋根のため、施工性が良いことに加え、シンプルなデザインで0.5寸勾配から使用できる緩勾配への対応力が近年の住宅外観のトレンドに合っており、人気を得ているのではないかとみている。
また、屋根自体が軽く、太陽光パネルが乗せやすい形状であることも特長だ。屋根同士を嵌合させるための凸部に太陽光パネルの架台を取り付けることで、屋根本体へのビス留めが不要となり屋根材を傷める心配がない。そのため、東京都で太陽光パネルが義務化される2025年以降、さらに需要は高まるのではないかとみている。
一方で、住宅外観のニーズの変化に換気量の計算基準が追い付いていない現状がある。例えば、(独)住宅金融支援機構でフラット35の融資を受けるためには小屋裏換気の換気量計算が必要だが、軒―棟で吸排気を行うか、軒―軒での吸排気を行うかでは必要な開口面積が大きく異なる。軒―軒で吸排気を行う場合、有効換気孔面積の合計は天井面積の1/250以上であることが求められるが、軒―棟で吸排気を行う場合は、吸気孔の面積が天井面積の1/900以上、排気孔の面積が天井面積の1/1600以上となっている。屋根の水上部と水下部の高低差が900㎜以上ある場合は軒―棟での計算方法を取ることができるとしているが、近年急増する軒ゼロ住宅の場合に軒と棟をどのように判断するか、片流れ屋根ではケラバを軒として扱うかなどの問題がある。こうした基準については地域の行政によって判断が異なっているため、「様々なケースを考えて製品を展開する必要がある」(小林部長)と、基準のグレーゾーンに対応するための商品展開を行っている。
同社は、22年6月に軒ゼロ住宅のケラバなどに取り付けて換気を行う「SEV‐15」と、緩勾配屋根の水上に取り付けて換気を行う「REV‐15」をバージョンアップ、従来品より開口面積を28%向上、短い長さで必要な開口面積が取れるため狭小住宅など、より幅広い住宅に採用できる。SEV‐15は、外壁施工業者の施工向け、REV‐15は屋根施工業者の施工向けで、施工手順などに合わせて住宅事業者が選択できる。軒ゼロ、軒アリのどちらの屋根でも使用でき、住宅の形状によっては屋根周りを1周カバーできるなど、汎用性の高さが強みだ。特に、REV‐15は野地板キャップと一体の形状から、施工性の高さが好評を博し、前年から大幅な伸びとなっている。
さらに23年6月には、SEV‐15の防火品として準耐火構造45分の防火認定を取得した「SEV‐15FD」を発売、SEV‐15と同様の施工方法で軒ゼロ住宅に使用でき、関東圏での立平屋根の需要増に対応する。
また、住宅デザインが多様化するなかで、断熱材を入れる場所も様々になっているとし、近年増加傾向にある屋根断熱へ向けた新商品も発売した。寄棟屋根で屋根断熱を行う際、軒換気だけでは隅棟の空気が抜けていかず不十分だとし「Wベンツ」を開発、別売りの「オープンボード」と併用することで、隅棟の換気を行える。
小林部長は今後の製品開発について「屋根形状ごと、地域ごとに対応していくと一つひとつのマーケットはとても小さくなり、どれだけの出荷量を見込めるかの判断が難しい」と、市場の様子を見ながら棟換気材などで新商品を検討していくとした。
顧客に応えるフルラインアップ戦略
デネブエアルーフのエリア拡大にも力
【ハウゼコ】
ハウゼコは、通気機能を一体化した立平葺き金属屋根材「デネブエアルーフ」の販売拡大に力を入れる。
一般的な金属屋根は、透湿抵抗が高い野地板やアスファルトルーフィングに密着した施工となり、毛細血管現象により軒先や野地合板に雨水が浸入しやすい。これに対し、デネブエアルーフは、独自の形状に加工した通気リブと野地合板の上に施工する透湿ルーフィングの組み合わせで野地面の含水率を20%以下にし、木材の腐朽リスクを低減する商品で、21年1月に販売を開始している。
金属立平屋根は、かつては鉄鋼二次問屋のみが扱っており、メーカーのない特殊な商品であった。しかし、太陽光パネルの設置が普及するなかで、光を取り込みやすい片流れ屋根が増加、軽量で太陽光パネルを載せても屋根が重くなりにくい特徴なども相まってシェアが急激に拡大した。神戸睦史代表取締役社長は「私が住宅業界に入った約30年前は、壁換気の概念がなかったが、現在では外壁については通気層を取るのが当たり前になっている。屋根材に関しても換気の考え方を変えていかないといけない」と、屋根材のなかで大きなシェアを持つ立平屋根のほとんどが野地板やアスファルトルーフィングへの直貼りとなっている現状を変えていく必要があるとした。
デネブエアルーフについては、ライセンス生産を開始、各地の鉄鋼二次問屋と協力し販売を行っていく。これまで滋賀工場で製造をして各地に搬送していたが、立平屋根の形状から運搬を行いにくく輸送費が大きな負担となっていた。加えて、いまでも地域の鉄鋼二次問屋が販売していることが多い立平屋根は価格競争が激しい。こうした背景を受けて、OEMによる販売拡大を目指す。既に和歌山県の秋喜(田辺市、谷中義典代表)で販売を開始、12月には関西を販売エリアとする津熊鋼建(大阪府大東市、津熊浩司代表取締役社長)からも販売を開始する予定だ。
また、23年の通気換気部材の新商品として、施工が簡単なデネブゲイボを中大規模木造の増加に合わせて耐火60分仕様にした「デネブゲイボ60」を投入、そのほかEPDMの雨仕舞い緩衝材付きでシーリングを不要にしたパラペット用商品「アンタレス・ホールレスパラペットキャップⅡBSL」や、流れ幅をスリム化し意匠性を向上した「ベガフラットスリムBSPlus」も新発売した。
一方、意匠性の面で安定した人気を誇っているのが「デネブハフレス」だ。破風を使わず準耐火45分を実現しており、軒天現しなど軒天周りをすっきりと見せたいデザイン住宅の施工者から評判が良い。さらに、セットでの使用を推奨しているケラバの換気部材「デネブウォータープルーフパッキンB15」は、サイディングの裏から小屋裏へ空気を通すため、表からは換気部材が一切見えず、熱膨張材などを使わずに防火認定を受けているため価格面でも競争力があり「年間2万棟くらいで採用されている」(神戸社長)という。
同社は、6800の登録商品に加え顧客の要望に応じた特注に対応、新築住宅着工戸数が落ちるなかでも売上を伸ばしている。独自のロジスティクス網で、約5000の納入先にリードタイム8時間ほどで商品を納入し、今後の物流問題に向けては、より小型の貨物自動車で運搬を行えるように商品の2m化を進める。「2m品であれば都心の狭小住宅への施工負担も軽減できる。23年の新商品についても、一つひとつは地味な変更に見えるかもしれないがそれをやることで現場の職人からの評判は良くなる」(神戸社長)と、ニーズに細かく応えていくことで現場からの評価が高まり結果として売り上げにつながっているとした。
耐火75分をフラッグシップに
防火性能をアピール
【城東テクノ】
城東テクノは、住宅によって様々な要素が求められるようになってきているとし、その中で同社の強みとして性能の高さを押し出していきたいとした。
同社はもともと住宅の土台水切りを製造しており、通気や防火といった性能の確保が大前提だという考えを根本に持っているという。屋根の換気部材についても性能面を重視した開発を行っている。特に、軒の部分については防火が最も重要であるとし、対応を進めてきた。「認定を取るにはコストがかかるので、選択肢が少なくなりがち。そのため、住宅事業者側は住宅ごとに適した防火性能の商品を探すにあたり非常に苦労する」(マーケティング部戦略企画課 商品企画チーム 本多孝太郎チーム長)と、防火認定品を増やしていく必要があると考え、防火商品の拡充に力を入れてきた。
そのひとつが「防火対応 軒天換気材」だ。軒アリ住宅の準耐火構造認定は軒天換気材と軒天材を組み合わせて使用しなければいけないため、指定軒天材の種類ごとに認定を取った。そのため、同じ耐火時間でも複数の品番が用意されており、住宅事業者は使用したい軒天に合わせて商品を選択できる。
また、22年10月から「防火対応 軒天換気材(軒ゼロタイプ)」で、業界初となる75分準耐火構造認定を取得した商品を発売。19年に建築基準法の一部が改正され、防火地域、準防火地域であっても3階以下でのべ床面積が3000㎡以下(戸建住宅は200㎡以下)であれば、外壁や軒裏などの外殻の防火性能を75分準耐火構造にすることで、内部を45分準耐火構造(事務所などは60分準耐火)で建築することが可能となった。一方で「法律は改正されたものの対応できる商品がなかったため、ひとまず収益性は度外視して開発に踏み切った」(本多チーム長)としている。少ない層に向けての開発だったため、納まりの確認などのヒアリングに苦労したというが、同製品を開発することでフラッグシップ商品として同社の換気部材への取り組みをアピールする材料の一つになればとした。
「防火対応 軒天換気材(軒ゼロタイプ)」においては、役物についても、23年10月に勾配や屋根形状への対応力を向上したマルチタイプを発売。ひとつの役物で1~6寸、12.5寸勾配の全周に使用できるようにした。
需要の高い破風レス納まりへの換気部材でも性能の確保に重点を置く。破風レス換気材の場合、通常に比べ破風のぶん換気材と外壁材が屋根側に移動する。そのため、換気材のすぐ上に野地板がある納まりになり、雨仕舞における弱点となっていた。これを改善するため「鋼板製 軒天換気材(軒ゼロタイプ 破風レス対応)」は、本体にEPDM止水材を付属、止水材を野地板に圧着させて施工することで、野地板と換気部材の隙間を埋め、雨仕舞を強化した。水上側、ケラバ側を含め全周で使うことができる。
一方で、性能を第一で開発してきたため意匠面には少し課題があるとし、意匠性についても力を入れていく。枠の幅や見付けを小さくすることで、デザインにこだわる施工者への訴求力を高め、同社の土台水切り商品で、デザイン性について高い評価を受けている「WM 防鼠付きシャープ水切り」とセットで販売していきたい考え。
また、「換気の性能については可視化が難しく、業界的にも基準が正確に定まっていないため、屋根の形状によっては開口部率などの決められた数字を守っても性能が足りない場合がある」(本多チーム長)と、今後、原因を追究して解決できる部材を開発できないか検討したいとした。
グッドデザインも受賞
高い品質を販売力に繋げる
【トーコー】
トーコーは、年間降水量の増加や、多発するゲリラ豪雨への対策として、雨仕舞を強化している。近年は耐震性能を確保しやすいというメリットからも金属屋根の需要は高まっているとし、同社の金属屋根向け換気部材への引き合いも強い。そんななか、「屋根は集中豪雨の影響を受けやすいため、基準で求められる性能以上のものを開発していかなければならない」(開発営業部・楠木義正部長)と、高い水準で試験を行うことでしっかりとした性能の商品を提案する。
JASS12屋根工事の建築工事標準仕様書では換気部材について、平均風速20m/s、雨量は4L/㎡・min、時間10分の状況で散水試験を行うことを定めているが、同社が事務局を務める屋根換気メーカー協会ではそれ以上の状況下での試験を行っており、同社はその中でもさらに高いレベルで試験を行っている。また、試験の様子を動画で公開するなど、換気部材から漏水するのではないかという施主の不安を取り除くための取り組みも実施している。3年後には創業80周年を迎える同社は、長年の実績を生かした独自保証で「小屋裏あんしん保証 KARATTO」を20年より開始しており、登録料無料で新築住宅の竣工日から10年間、対象商品についての雨漏りに起因する不具合の補修・修繕を保証する。
同社は、他社に先んじて金属屋根専用の棟換気部材「i―ROOF」を発売して以降、金属屋根用の換気部材としては大きなシェアを獲得しており、住宅だけにとどまらず、公共施設をはじめとした非住宅の設計から指定されることも多い。
そうしたなか、近年の降水量の増加や緩勾配屋根の人気などに対応できるよう性能を高めた後継製品として23年5月に「i-ROOF Ⅱシリーズ」を新発売、10月には壁側の垂れ幅150㎜に向けた仕様として「片流れi-ROOF Ⅱ 150」の販売も開始した。
i-ROOF Ⅱシリーズは、両棟用の「i-ROOF Ⅱ」、片流れ用の「片流れi-ROOF Ⅱ」、雨押さえと呼ばれる屋根と壁との取合い部に設置する「雨押えi-ROOF Ⅱ」の3種類を用意。i-ROOF Ⅱは、独自のサイドウイング換気構造で、風の力を利用して負圧を発生させることで、小屋裏内から屋外へ空気を排出する流れを作り、高い防水性能と換気性能を両立させた。内部構造をシンプルにして開口を大きくし、施工性・意匠性にも配慮。片流れi-ROOF Ⅱは、同社のスレート屋根と金属緩勾配屋根に兼用できる「片流れ双快」に採用したスペーサーイン・フラット工法を用いることで、施工時の波打ちやたわみを抑え、意匠性を高めたほか「壁側スペーサー」の使用により、通常サイディングの施工が終わってから行うビス止めを不要にした。屋根施工業者がサイディング施工前のビスの仮止めと、施工後の本施工で2回現場に足を運ぶ必要がなくなり、効率性が向上するほか、2度手間を面倒がってきちんと施工が行われないリスクを排除する。
また、「開口部面積を大きくするほど少ない台数で足りるので、1社からの受託数は減ってしまうが、新規企業からの採用があるなど全体の出荷数量は増えている」(楠木部長)と、業界でもトップクラスの開口部面積へのこだわりも強みのひとつだ。こうした性能が評価を受け、i-ROOF Ⅱシリーズは2023年のグッドデザイン賞も受賞している。
同社は、もともと雨仕舞の板金の製造を行っており、そこから棟換気部材の開発を行うようになった。一方で、高気密・高断熱住宅が注目を集め、屋根換気の必要性が高まるなか、換気は給気と排気それぞれがあってこそだという考えのもと、棟からの排気部材だけでなく、給気部材についても開発を始めた。現在は、軒ゼロ住宅向けの「エアーフレッシュ」と、40分、60分の準耐火認定を受け23年2月に発売した「エアラインNZ」の2種類をラインアップしているが、今後はこの給気部材について商品拡充をめざす。また、「新築戸建の着工数が減少するなかで、リフォーム用にも力を入れていく」(楠木部長)と、需要に合わせて新商品を投入していくとした。
屋根の通気・換気部材は、住宅の躯体を腐朽から守るために欠かせない存在だ。ニーズが多様化し、住宅ごとに求められる性能が変わってくる中で、各社はさらに高い品質や性能に向けて新商品の開発を進めている。
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