住まいのスタンダード設備となる宅配ボックス

2024年問題、防犯対策、環境負荷の低減など

物流業界の2024年問題や環境負荷の低減、さらには防犯対策といった観点から、宅配ボックスに寄せられる期待がさらに膨らんでいる。もはや住まいのスタンダード設備になりつつあると言ってもいいだろう。

国土交通省の調べによると、2022年度の宅配便取扱個数は50億588万個で、前年度と比較して5265万個、約1.1%の増加となった。宅配便の取扱個数はこの5年間で約9.3億個(約23.2%)も増加している。

こうした状況で深刻化しているのが再配達問題。同省が実施した再配達率のサンプル調査によると、2022年10月時点での再配達率は11.8%となっている。一時期は15~16%で再配達率が推移していたことを考慮すると、状況は改善されている印象がある。しかし、深刻なドライバー不足であることを考えると、さらなる取り組みが求められている。

ちなみに、約1割の再配達を労働力に換算すると、年間約6万人ものドライバーの労働力に相当するという。
また、配達のトラックから排出されるCO2の量は、年間でおよそ25.4万tと推計されており、環境負荷の低減という観点でも、再配達の抑制が重要になっている。

2024年問題で約14%の輸送能力が不足

今の状況に追い打ちをかけるように、2024年問題が再配達問題をさらに深刻化させる恐れがある。

建設業界や物流業界などの一部の業種を除き、既に時間外労働時間の上限規制が適用になっている。これは、36協定が締結された場合であっても、年間の残業時間の上限を720時間にするというものだ。そして、2024年4月から建設業界と物流業界もこの残業時間の上限規制の対象になる。トラック運送業については960時間が上限になり、他の業種よりは緩やかな規制内容になっているが、ただでさえドライバー不足に悩まされている物流業界にとっては、「今まで通りモノが運べない」という状況に直面する懸念があるのだ。

また、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の見直しも行われ、2024年4月からトラックドライバーなどの1年間の拘束時間の上限が3516時間から原則3300時間へと短縮されることも決まっている。

民間シンクタンクであるNX総合研究所の試算によると、こうした法改正などによって、14.2%の輸送能力が不足し、4億トンもの営業用トラックの輸送量が不足する懸念があるという。

政府は再配達率の半減を目標に
新たにポイント制度などを創設

物流業界の2024年問題に対応するために、政府では今年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表した。この中で、再配達率を半減するための緊急的な対策を講じる方針を打ち出している。具体的には、消費者が置き配や宅配ボックスの利用、コンビニなどでの受け取りを選択すると、ポイントを付与する事業などを実施する。消費者の行動変容を促し、多様な荷物の受け取り方を浸透させたい考えだ。

国土交通省:「令和4年度住宅市場動向調査」より

防犯面でも荷物の受け取り方法が問題に

警察庁と佐川急便、日本郵便、ヤマト運輸の物流大手3社は、受取人が希望する場合、対面せずに置き配などを行えるようにすることで合意した。これは、東京都の稲城市や中野区などで発生した宅配業者を装った強盗事件を受けての取り組みだ。

こうした犯罪を防止するために、インターフォンなどで受取人が非対面を希望した場合、置き配を行い、業者がいなくなったところで荷物を受け取ることができるようにした。

超高齢化社会が到来する中で、高齢者の単身世帯などを狙った犯罪が多発する危険性もあるだけに、防犯という観点でも宅配便の受け取り方法を見直す時期に来ているようだ。

諸問題の解決へ宅配ボックスへの期待感が高まる

再配達問題の解消や防犯性能の向上といった問題を解決するものとして期待感が高まっているのが宅配ボックス。
宅配ボックスを設置することで、当然ながら再配達の心配がなくなるだけでなく、対面での荷物の受け取りも不要になる。

ECサイトの普及に伴い宅配需要が高まる中、宅配ボックスの普及は着実に進んでいる。国土交通省が実施した2022年度の住宅市場動向調査によると、分譲集合住宅では宅配ボックスの設置率が92.4%にも達している。

その一方で戸建住宅については、分譲住宅で36.4%、注文住宅では28.4%に留まっている(ただし、分譲住宅は3大都市圏、注文は全国平均)。

さらに、既存の集合住宅では50.2%となっているが、既存戸建住宅の設置率は17.6%という状況。民間賃貸住宅でも設置率が34.2%であることを考慮すると、新築、既存ともに戸建住宅への設置が遅れていることが分かる。
こうした中で、宅配ボックスを販売する各メーカーでは、戸建住宅用の宅配ボックスの商品バリエーションなどを拡充しており、機能やデザインなどの選択肢は確実に広がってきている。既存住宅への設置も視野に入れた商品も充実してきている。

2024年問題や防犯などのことを考慮すると、対面での荷物の受け取り方法だけに頼るわけにはいかない。国土交通省でも、宅配ボックスの設置部分を容積率規制の対象外にすることを明確化したほか、様々な補助制度も打ち出している。

再配達問題の解消、環境負荷の低減、さらには防犯性能の向上といった社会課題を解決するためにも、宅配ボックスを住宅のスタンダード設備にし、宅配便の受け取り方法の多様化に貢献することが強く求められている。