2023.10.20

住友林業、“新世代”の耐火被覆用合板を開発

納期の短縮などを追求し、現場ニーズに対応

タブレット状の難燃薬剤を埋め込んだ新世代の耐火被覆用合板「耐火-ガイナー」を開発した。性能安定性や納期・工期の短縮を追求し、中大規模耐火木造の建設現場ニーズに応える製品に仕上げた。

従来、木造の耐火被覆材には石膏ボードが主に使用されてきた。石膏ボードは価格の安さや高い性能安定性などに強みを持つ反面、現場被覆が一般的で、その重さや水濡れへの弱さなどから、中大規模建築においては搬入、間配り、水濡れ対策などに手間がかかり建設現場の負担増につながることが課題となっていた。また、石膏ボードに代わる耐火被覆材として難燃薬剤水溶液を含浸処理した木材や合板、LVLが用いられるケースも増えてきた。だが、薬剤含浸にはムラが生じやすいこと、薬剤乾燥の時間の分、製造に時間がかかることなど、性能安定性や納期における課題が次第に浮上してきた。特に納期の面では、製造に時間がかかることを見越して、物件によっては最終仕様が決まっていない段階で先行して製造加工を開始しておく必要があるなど、発注管理の難しさが指摘されていた。

耐火-ガイナー」の断面図

こうしたなか、建設現場ではそれらの課題を克服した“新世代”の耐火被覆材が求められており、住友林業は2018年からその開発に着手。5年の開発期間を経て完成したのが「耐火-ガイナー」だ。24㎜厚構造用合板の表裏面に直径10㎜、深さ15㎜の孔を20㎜等間隔であけ、そこにタブレット状の難燃薬剤を埋め込むことで耐火性能を持たせた新たな製造仕様の耐火被覆用合板。燃焼時に難燃薬剤がガラス化することで化粧層の木材も含めて強固な炭化層を形成し、火の粉の飛散リスクを軽減する。23年3月、同合板2枚と9~15㎜の化粧木材層を重ねて柱や梁に被覆した仕様で、1時間耐火構造の国土交通大臣認定を取得した。基材は全層スギ単板を含む構造用合板であるため、強化石膏ボードと比較して軽いほか、タブレット状の薬剤を均質に埋め込むことで、薬剤ムラの防止や乾燥工程の削減による納期短縮が見込める。さらに、集成材工場などであらかじめ被覆して、接合金物を取り付けてから現場納入することも可能で、建て方後の現場作業軽減につながり工期短縮も期待できる。

燃焼試験後の柱断面。「耐火- ガイナー」が炭化し、燃えどまり層となることで荷重支持部にはダメージがないことが確認できる

薬剤開発を担った信越化学工業は、塩化ビニルやシリコンなどの素材で世界トップシェアを持つ国内大手の化学メーカー。建物の木造化において耐火性能担保は人命に係わる非常に重要な要素であることから、木質化分野の耐候性担保において、木材保護塗料の開発でタッグを組んだ実績のある、信越化学工業との共同開発に至ったという。木材建材事業本部・事業開発部R&Dグループの門田賢一チームマネージャーは、「従来使われてきた耐火被覆材での現場課題を解決するひとつの選択肢として、提案していきたい」と話す。

現在、那須塩原にある信越化学工業の協力会社の工場で生産している。しかし、その生産能力は5㎥/月ほどであり、一部マニュアルによる加工工程が残ることから、含浸による難燃処理木材よりも価格が割高となっている。今後、同工場に全自動化設備を導入することで生産能力を100倍の500㎥/月程度に拡大し、将来的には難燃処理木材と同等以下の価格帯(薬剤含浸量により異なるが、おおよそ100~200万円/㎥程度)を目指す。納期や工期の短縮、性能安定性の高さなどを軸とした「価値売り」で木造中大規模建築に取り組むゼネコンを中心に提案を進めていく計画だ。