高橋建築、パッシブハウス仕様のアパートを建築
海外基準に合わせた住宅提供を推進
パッシブハウス仕様のアパートを秩父市内に建築した。UA値0.21W/㎡Kと高性能戸建住宅と同等以上の断熱性能などを有しており、賃貸として供給することでパッシブハウスのさらなる認知拡大を図りたい考えだ。
高橋建築(埼玉県秩父郡小鹿野町、高橋慎吾代表取締役)が設計・施工を行ったパッシブハウス仕様のアパート「PASSIVE HEIM Chichibu(パッシブハイムチチブ)」が2023年8月に秩父市内に完成した。
同社は年間12棟を手掛ける地域工務店。秩父地域周辺で地域密着型の事業を展開しており、戸建住宅において多数のパッシブハウスの認定実績を持つことが最大の特徴だ。
パッシブハウスとは、ドイツのパッシブハウス研究所が確立した省エネ住宅の概念のこと。断熱性や気密性、一次エネルギー消費量などの住宅性能に厳しい基準を設けており、日射熱などの自然エネルギーも考慮した住宅設計が求められる。
同社がパッシブハウスの建築を始めたきっかけは、高橋代表が(一社)パッシブハウス・ジャパンの森みわ代表理事が設計したパッシブハウス(鎌倉市)を見学した際に、その性能の高さに衝撃を受けたからだという。その後、高橋代表はドイツに渡り、パッシブハウスの考え方や建て方を学び、小鹿野町内に「秩父パッシブハウス」という戸建のパッシブハウスを建築した。今では高橋代表もパッシブハウス・ジャパンの理事を務めており、日本を代表するパッシブハウスの第一人者となっている。
「秩父地域は断熱の地域区分で言えば5地域に相当するが、山間部のため冬場の早朝は冷え込みがとても厳しい。パッシブハウスは外気温がマイナス10℃でも室内は暖房いらずで快適に過ごせ、これこそが省エネ住宅のあるべき姿であると実感した。それ以降、パッシブハウスをもっと世に広めていかなくてはと思うようになった。一昔前までは日本でパッシブハウスを建てるのはやり過ぎだという声も聞かれたが、最近ようやく理解が得られるようになってきたと感じている」(高橋代表)とパッシブハウスへのこだわりや想いを話す。
日本の住宅性能は時代遅れ
早期にパッシブハウスの一般普及を
そしてこのほど、一般消費者にパッシブハウスをより広く認知してもらおうと建築したのがパッシブハウス仕様のアパート「PASSIVE HEIM Chichibu」だ。木造2階建てのメゾネット型で、21.25坪の2LDKの住戸4戸で構成、延べ床面積は281.54㎡となっている。25.6kWの太陽光発電パネル(1戸あたり6.4kW)を搭載しており、駐車場にはEV車用の充電設備を後付けできるようにした。
具体的な住宅仕様は、断熱が床下にXPS100㎜厚、基礎立ち上がり部の外周にEPS75㎜厚、同内側にネオマフォーム45㎜厚を使用した基礎断熱に加え、壁は105㎜厚のロックウールを充填し、付加断熱として外側に90㎜厚のネオマフォームを組み合わせた。屋根についてもロックウール155㎜厚の充填にネオマフォーム90㎜厚の付加断熱で対応している。開口部にはYKK APのトリプルガラス樹脂サッシ「APW 430」を採用した。UA値は0.21W/㎡Kと5地域での断熱等性能等級7(UA値0.26W/㎡K)を超えている。
また、C値0.10程度、暖房負荷9.0W/㎡、冷房負荷12.5W/㎡を実現しており、6畳用エアコンで住戸全体をカバーできるなどアパートでありながら高性能な戸建住宅と同等以上の性能を確保した。
さらに、日射や風通しについても海外基準で緻密な計算を行い、自然エネルギーを最適に活用できるような工夫を施した。例えば、日射については周辺の建物環境を踏まえた上で夏場、冬場それぞれの日差しの角度を計算し、的確に遮蔽および日射取得ができるような工夫を施した。メゾネット型を採用し、主な居住空間であるリビングを2階に設置したのもその工夫の一つで、リビングに設けたメインの開口部から冬場の低い角度の日射を確実に取得することで自然エネルギーを中心とした快適な暮らしを実現している。
家賃は12万円/月と秩父地域の平均相場の8万円/月よりは割高だが、パッシブハウスは光熱費の負担を大幅に軽減できるほか、同物件では太陽光発電による自家消費も見込めるため費用対効果が非常に高く、長く住み続けるほどにそのメリットを実感できるという。
このアパートのオーナーは、その建設にあたりしっかりとした建物として高めの賃貸料を設定することを望んだ。これまで賃貸アパートは収益性が重視され、建物にコストを掛けないきらいがあった。性能は二の次とされ、入居者も単身者や若年夫婦など、持ち家までの仮住まいというイメージが持たれてきた。しかし、近年では空室対策もあり、居住者に長く住み続けてもらえるようにと高性能な物件の建築を希望するオーナーも出てきている。周辺物件よりも高い家賃設定とすることで、比較的生活に余裕がある子育て世帯などの入居を狙う意図もあるようだ。
高橋代表は、「アパートだからと言って、住宅性能を度外視していい理由にはならない。アパートにこそパッシブハウスが必要だと考えている。多くの人が当たり前にパッシブハウスに住めるようにしていかなければならない」とパッシブハウスの普及の重要性を話す。
23年9月末時点でパッシブハウスの認定を申請中で、同10月中にも取得できる見通しだ。8月に完成したばかりだが、既に2戸は入居済みと消費者からの関心も高い。
また、高橋代表は「海外では低所得者向けの公営住宅がパッシブハウスで建てられるケースなども出てきており、特に中国では国レベルで政策が進められている。日本は25年度からようやく省エネ基準の適合義務化され、30年度にZEHレベルへ引き上げる予定だが、海外から見れば遅れており、一刻も早く海外基準に追いつくことが重要だ。22年に断熱等性能等級6・7が新設されたことなどを受け、最近では建材も高性能のものが市場に出回ってきた。以前よりパッシブハウスを建てるハードルは着実に下がってきているので、ハウスメーカーなどをはじめ多くの事業者にパッシブハウスの建築に挑戦してもらいたい」と今の日本の状況への危機感を募らせた一方、今後のパッシブハウスの普及への期待感もあらわにした。
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