2023.10.4

セレンディクス、政令指定都市から90分に3D住宅のまちづくり

施工時間短縮で外構の引き合いも

3Dプリンター住宅を通じて、住宅ローンの返済負担などの課題解決を目指すセレンディクスが、まちづくりに向けて動きを見せている。

22年度の「フラット35利用者調査」を見ると、注文住宅における予定建設費と土地取得費の合計、そのほかの新築・中古住宅の購入金額を示す所要資金は、上昇傾向が続き、22年度は全ての融資区分で前年度から上昇している。また、1か月当たり予定返済額を世帯月収で除した総返済負担率も3年連続で上昇しており、住宅購入への負荷が大きくなっている。

開発を進めるserendix70のイメージ図(Clouds AO / serendix)

こうした課題を解決するために3Dプリンターによる住宅づくりを進めているのがセレンディクスだ。同社は「30年ローンに縛られることなく、高性能かつ安価な家を誰もが手に入れられる社会の実現」を目指している。現在、同社が扱う3Dプリンター住宅は、球体型で10㎡の「serendix10(スフィアモデル)」と一般住宅に近く50㎡ある「serendix50(フジツボモデル)」の2種類。スフィアモデルは球体にすることで構造的な強度を持たせた住宅で、別荘や災害時の活用を想定。スフィアモデルの完成を受けての問い合わせは3000件以上あったが、その多くが「ローンを払い終えたばかりなのに、リフォーム費用が高額で困っている」、「一生賃貸でいいと思っていたが、高齢者への貸し渋りが起こっており住む場所を探している」といった悩みを持つ高齢者で「一般住宅向けに、夫婦2人で住めるものをつくってほしい」という要望があった。これに応えて慶應義塾大学の田中浩也教授と共同でフジツボモデルを開発。23年7月に1棟目を44時間30分で完成させており、10月から6棟を先行販売する。今後は、延床面積70㎡の「serendix70」の開発を急ぐ。

「都心部に住む土地を持っていない人は、3Dプリンター住宅で家が安く手に入っても土地代で長期ローンを組まなくてはいけなくなる。こうした人が移住できる町をつくろうと考えた」(緒方海斗CTO)と、同社は、3Dプリンター住宅によるまちづくりを計画している。公共交通機関の発達などに伴い、これからは実測距離よりも時間距離が重要になってくるとし、政令指定都市から90分のエリアでまちづくりを進める。例えば、東京都中央区では100㎡の土地は約5億3000万円するが、同社の研究所がある大分県日田市では約20万円で、土地取得のコストを抑えられ、土地付きでも気軽に買える住宅を実現できる。

住宅づくり・まちづくりにおいては、地方工務店や不動産事業者などと連携して取り組む。23年8月にはヤマイチ・ユニハイムエステートとの業務提携を開始し、投資物件として企業が自社の遊休地に3Dプリンター住宅のまちを建設した際の住宅の管理運営を委ねるとした。また、セレンディクスの株主であり、北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」周辺の街づくりを行った日本エスコンから助言を受けながら進めていきたいという。

外構への挑戦も視野に入れる。大阪万博が2年後に迫るなか、建設工事の遅れが問題となっている。このような状況下で「建設時間のかからない3Dプリンターで外構などを出力できないかと相談を受けている」(緒方CTO)と、別プロジェクトで開発への検討を進めており、こうした技術をまちづくりにも反映していきたい考えだ。