見えてきた!! 完全オフグリッド住宅の実現可能性
ライフラインに縛られない暮らしは夢ではない
U3イノベーションズ(東京都港区、共同創業者・代表取締役:竹内純子氏、伊藤剛氏)は、インフラに縛られない暮らし方の実現可能性を示そうとしている。もはやライフラインに縛られない暮らしは、遠い夢ではなく、近い将来に実現する新たなライフスタイルになりそうだ。
U3イノベーションズは、社会インフラ領域のイノベーション推進と新産業創出を目指し、2108年に創業した。エネルギー分野と他の産業をマッチングすることで、新たな社会システムを実現しようとしている。
その一環として取り組んでいるのが、完全オフグリッド環境での生活実証施設「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」を使った実証実験。山梨県北杜市に設置した完全オフグリッドの暮らしを実現する住宅を活用し、ライフラインに縛られない暮らし方を具現化しようとしている。
電力、上下水道を必要としない住宅
「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」は、ドーム型の生地を空気によって大きく膨らませて、内側からウレタン材を吹き付けたインスタントハウスを5棟で構成している。電気、上下水道などのライフラインを接続しない形で実際に暮らしながら実験を行っている。このインスタントハウスは、名古屋工業大学大学院工学研究科の北川啓介教授とLIFULLが設立した「LIFULL ArchiTech」で開発されたもの。
電気については、ネクストエナジー・アンド・リソース社のソーラーカーポート「Dulight」とオフグリッドシステムによって賄う。具体的には、カーポートの屋根に10kWの太陽光発電を設置し、合わせて32kWhの蓄電池を導入している。また、PHVからの電力供給も行える。
生活排水は、ワイズグローバルビジョン社の小型淡水化装置「MYZシリーズ」により浄化し、施設内で循環利用している。「MYZシリーズ」は海水淡水化装置の小型化に成功したもので、海水からでも真水を作ることが可能だという。また、脱塩、塩分除去だけではなく、濁水などもろ過し、厚生労働省が定める水道法の基準値をクリアするレベルの真水に変えることができる。
下水にはバイオトイレを導入し、微生物の力で排せつ物を分解・処理する。
実験開始から1年以上が経過
ライフライン無しでも問題なし
実験は2022年3月から開始しており、2~3名が入れ替わりでインスタントハウス内で生活を行っている。自身も実証実験に参加しているU3イノベーションズの川島壮史ダイレクターによると、「実際に暮らしてみての感想は、技術的には問題なく通常の暮らしがおくれるということでした。今回の実験棟ではそれほど複雑な技術は導入していません。既存の技術だけでも、組み合わせ次第でオフグリッドな暮らしは実現できるということではないでしょうか」と語る。
飲料水以外の上水については、3カ月に1回程度、新たな水を補給するだけで問題なく循環利用が行えるという。飲料水として活用しても問題ないレベルの水が供給されているが、法制度の問題などもあり飲料水だけは購入したものを使用している。なお、生活水は1人当たり100~150ℓを使用するという前提で小型淡水化装置を選択したそうだ。
下水についても、バイオトイレだけで対応できている。
電力については、大きな問題なく使用できるそうだ。ただし、実験棟が建つ地域は冬場になると日照量が減少し、逆に暖房に使うエネルギーが増えるため、太陽光発電だけでは賄えない日もある。その場合、PHVから電力を供給している。
「PHVは動く発電所としての役割を果たすことができます。今回の実験を通じてオフグリッドな暮らしが可能であることを証明できれば、自動車を生活の場として活用するという可能性も広がるのではないでしょうか」(川島ダイレクター)。
好きな場所で簡単に現代的な暮らしを
空家問題、防災対策などへの貢献も期待
U3イノベーションズでは、様々な分野と協業しながら、オフグリッド住宅の社会実装を目指していこうとしており、住宅分野では既にMUJI HOUSEの実証実験に参画することが発表されている。
川島ダイレクターは、「最終的には自分が住みたい場所でより簡単に現代的な生活が行えるような状況を創造することで、新しいライフスタイルの選択肢を提供していきたい」と述べている。
住宅にとってライフラインは必須である。”ポツンと一軒家”のような住宅であっても、その住宅のためにだけにライフラインを維持する必要がある。そのための社会コストが増大していけば、「暮らす場所としては不適切な場所」として、ライフラインを切断せざるを得ない状況が発生する懸念さえある。
しかし、住宅がライフラインから独立できれば、二地域居住の場所として、”ポツンと一軒家”が人気を得るということも起こり得る。
さらに言えば、防災対策という観点で言うと、例えばオフグリッド状態の避難所があれば、地域の自助能力は格段に向上するはずだ。
少し視点は異なるが、ライフラインが整備されていない途上国において、「住宅さえ建築すれば、すぐに現代的な暮らしを実現できる」という状況を生み出すことも可能になるかもしれない。
住宅がライフラインから自由になることで、様々な社会課題の解決にも貢献することになりそうだ。
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