2023.8.3

エネルギーを使わない熱暑対策 放射冷却素材で熱を宇宙に放射

SPACECOOL

SPACECOOL(東京都港区・宝珠山卓志社長)が開発した放射冷却素材「SPACECOOL」がエネルギーを使わずに熱暑対策を行える素材として、様々な分野で注目を集めている。

放射冷却素材「SPACECOOL」は、大阪ガスが開発した高性能・高耐久の光学フィルム。大阪ガスのエネルギー技術研究所に在籍していた末光真大氏(SPACECOOL CTO)は、ガスを燃焼することで得られる熱を太陽電池が発電できる波長の光に変換し、太陽電池の発電効率を向上させる「熱光発電」を研究していた。

その研究から派生する形で「SPACECOOL」の実用化に成功したという。

太陽熱のインプットを最小限に抑え、
アウトプットを最大化する

SPACECOOL」の原理は、「熱エネルギーを遠赤外線へ変換し、マイナス270度の宇宙へと放射することで、日中の温度上昇を抑制しようというもの」(末光氏)だという。熱が高い方から低い方へと移動することで発生する放射冷却を利用している。

遮熱、断熱材とSPACECOOLの違い
新たに発売したマグネットシート式の「SPACE COOL」

日中温められた自動車のフロントガラスが、夜間から早朝にかけて熱を放射することで霜が発生することがあるが、これも放射冷却によるものだ。

しかし、一般的に放射冷却は気温が低下する夜間や朝方に発生することが多い。対して末光氏は、熱エネルギーを遠赤外線に変換することで、日中でも放射冷却を発生させる技術を開発した。

遠赤外線である8~13マイクロメートルの波長帯は、「大気の窓」とも言われており、大気の透過率が非常に高く、大気に邪魔されることなく熱が伝わりやすい。

遠赤外線を用いたヒーターなどの熱が伝わりやすいのは、大気に邪魔されることなく熱が伝わるため。

太陽からの熱を遠赤外線に変換することができれば、熱は高い方から低い方へ移動するため、宇宙に向かって熱を放射することができる。こうした発想から生まれたのが「SPACECOOL」。加えて約95%の熱を反射する性能も備えている。

「熱を反射することで太陽エネルギーのインプットをできるだけ少なくできます。しかし、それだけでは温度は低下しません。ここに放射によってエネルギーのアウトプットを増やす機能を加えることで、温度を下げることができるのです」(末光氏)。

蓄電池などの屋外に設置する電装機器などへの採用に期待

実証実験の結果などから「SPACECOOL」を用いることで、昼夜ともに外気温と比較して2~5℃温度低下できることを確認している。

全くエネルギーを使わずにこれだけの温度低減効果を得られるのだ。

既に「SPACECOOL」を使ったフィルムや膜材料などを商品化しており、様々な分野での活用が進みつつある。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)でも、(一社)日本ガス協会が出展するパビリオンで、「SPACECOOL」を用いた膜材料が採用されることが決定している。

屋外に設置する電装機器などへの利用も期待されている。住宅分野でも、リチウムイオン蓄電池やエネファーム、さらには電気自動車の充電機器など、屋外に設置する電装機器が増えている。

こうした熱を発する電装機器に夏場の直射日光があたることで、機器の温度が過度に上昇し、性能や機能が低下する懸念もある。実際に電気自動車の急速充電器では、気温の上昇に伴い充電速度が低下することもあるという。

こうした機器を「SPACECOOL」で覆うことで、エネルギーを使うことなく温度上昇を抑制することができる。

こうしたニーズを踏まえて、マグネットシート式の「SPACECOOL」も7月から発売している。

「基本的には空を遮るものがない場所であれば効果を発揮する」(末光氏)という「SPACECOOL」だが、今後の住宅・建築分野での活用にも期待が集まりそうだ。