活用できない空き家が増えている 所有者が躓くポイントに対応するサービスを提供

クラッソーネ 川口哲平 代表取締役CEO

60を超える地方自治体と協定を結び、空き家所有者に向けて解体費用のシミュレーションなどのサービスを提供するクラッソーネ。
空き家解消に向けた取り組みの現状や課題について川口代表取締役CEOに聞いた。

クラッソーネ 川口哲平 代表取締役CEO

──空き家問題の現状をどのように認識していますか。

行政だけではなくメディアが大きく取り上げたこともあり、所有者が何とかしなければいけないという課題感を持ち、具体的な行動に移る方が一定数出てきました。空き家対策が風潮として高まってきたと思っています。

空家対策特措法が制定され、自治体が自身の権限で行政代執行、管理の指導などができるようになったことが始まりだと思います。特定空家まで行かなくとも、程度の低い空き家の除却に関しても一定程度の補助金が出ます。そして21年に住生活基本計画が見直され、明確な成果目標が示されました。また、特定空家だけでなく管理不全空家にまで広げて固定資産税の減税措置を解除するなど、対策の広がりとともに所有者の意識にも変化が出てきていると考えています。

──空き家増加の根本的な理由、また、これまで活用や除却が進まなかった理由はどこにあると考えますか。

産業構造の変化に伴う人口移動が一番大きな理由だと思います。高度経済成長のなか、地方から都市部への人の流れが進んだ。製造業で発展していこうと工場を作り建物を作り、労働者の受け皿として団地が作られた。それがだんだんと第三次産業に転換していき、さらに都心へと人口が集中するようになった。それまで地方に存在した住宅は使われなくなり、二次産業のために作られた建物も使われなくなりました。確かに人口は減っていますが、空き家数の増加を説明できるほど減っているわけではありません。それよりも産業変化に伴う人口の移動、東京一極集中が一番大きい。需給バランスが崩れ、誰も住まない建物が増えているのです。

活用が進まなかったのは、産業の変化の中で住みたい街が変わってきたことが大きいと思います。例えば、古民家で使えるものはカフェやセカンドハウスにしたら良いと言いますが、田舎ならどこでも良いというわけではありません。「空き家」という言葉で一括りにされがちで、地域的な違いが考慮されていないのです。建物の状態もそうですね。物件によって状態は大きく違い、建築的な価値がある物件は一部にしか過ぎません。これらすべてを「空き家」として一括りにして捉えてきたことに課題があったのではないでしょうか。

一方、除却が進まないのは不動産の出口の問題が大きいと思います。売却益に対して解体費用が逆ザヤになってしまっている、つまり売却益のなかから解体費用を捻出し手元にいくら残るかということです。住みたいエリアが一次産業の農村地域、二次産業の郊外、三次産業の都市部と移るなか、販売価格が解体費用を賄えないほど落ちているエリアが一定数存在し、かつ増えてきている。だからそのまま放っておく、先延ばしにする、そんな意思決定になってしまったということだと思います。

──多くの自治体と協定を結んでいます。その狙いは。

私たちは空き家問題を自治体と一緒になって解決すべき非常に重要な課題だと捉えてきました。そうしたなかで我々の事業が国土交通省の21年度「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」として採択されたこときっかけに、自治体との連携が広がり、現在、61の自治体と連携しています。

ただ、自治体の考え方は一様ではありません。「空き家」は、とりあえず人が住まなくなったという状態から管理不全となり最後には特定空家へと、状態の良いものから悪いものへと変わっていく。そのどこを解決すべきか、自治体によって異なっているのです。

例えば、愛知県の南知多町は愛知県で一番空き家率が高い最も深刻なエリアです。このように空き家率が近隣に比べて高く、深刻な状況にある自治体には特定空家が一定数存在し、そこを緊急に解決しながら、管理不全空家を減らしていかなければなりません。

一方で、横浜市、神戸市、川崎市、札幌市など、それほど空き家率が高くはない自治体とも協定を締結しています。こうした自治体でも「その他空き家」はどんどん増えており、放置されれば管理不全空き家となり、特定空家になっていきます。早めに対策をしておかなければどんどん街が廃れていってしまうという危機感を持ち、管理、処分、活用などをしていただくことが街づくりとしても重要だと考え、早めの情報提供に取り組んでいます。

──自治体に対してさまざまなサービスを提供しています。

活用が進まない、除却が進まないという一段階前に、そもそも活用なのか除却なのかを所有者が判別できない、迷っているという状況があります。自治体との協定は、主にそうした所有者に向けての取り組みとなります。

空き家所有者は、まず、どのような選択肢があり、どのように進めていけば良いのか分からない。次に、壊すのならばいくらかという値段の話になり、何とか実現できそうだとなると誰に頼めばよいのかとなります。私たちは「解体費用シミュレーター」や「すまいの終活ナビ」など、こうした悩みに応えるサービスをパッケージとして自治体に提供しています。売る、手放す、壊すなどそれぞれの費用が分かるようになっており、これを自治体の窓口に相談に来た方が活用したり、自治体のウェブサイトに掲示して活用するなど、色々な方法で使っていただいています。

また、誰に頼むかという部分はマッチングサービスとして解体工事会社を紹介します。売却についても相談に乗ってほしいという自治体もあり、不動産会社を紹介します。

この協定からさまざまな事例が生まれています。例えば、行政代執行になりかけていた空き家について、私たちのサービスを通じて施主が対策を進めたという事例があります。また、所有者不明空き家を隣地の方が解体費用を負担してもらい受けたという事例もあります。これまでなら税金を使って対策を取らざるを得なかった問題が解決されており、相応の手応えを感じています。

ただ、日本の空き家問題を解決するという視点からは、もっと早いペースで取り組みを進めなければならないと感じています。一定の成果が出てはいますが、それよりも空き家の増加スピードの方が早いのが実態で、取り組みをより加速させていきたい。

具体的には、空き家処分について所有者が躓くポイントがあるので、そうした点に対応できるサービスをより拡充していくことが大事だと考えています。「クラッソーネならばワンストップで対応が可能です」と、そう言えるところまで拡充することが重要です。

ただ、自治体との連携は1年で解決するというものではなく継続的な取り組みだと考えています。セミナーなど住民に対する継続的な啓発活動を続け、所有者の方の意識を高めていく必要があります。

──空き家対策は除却と活用が大きな2本柱ですが、この2つをどのように位置づけていますか。

活用できるのであれば活用した方が良いと考えています。空き家が何らかの役に立つという意味で、それが大前提です。ただ、活用できない建物がどんどん増えているのが現状です。そうした状況にしっかりと目を向ける必要があります。それが除去であり解体です。

解体というと無駄なことをしていると捉えられがちです。壊したら廃棄物としてゴミになると思う方が多いようですが、実際には重量ベースで95%以上がリサイクルされており、新たな資源を取り出す作業、エコな取り組みともいえます。

使えるものは使いましょうというのがリユース、これが空き家活用です。それができなければリサイクル、つまり解体です。そのような優先度で捉えています。

空家対策特措法が制定された頃は活用が前面に出ており、解体という言葉があまり使われていなかった。解体して新築するよりも、まずリノベーションして活用しようというものです。国もリフォーム市場を拡大させ、それを流通させる取り組みに力を入れてきました。しかし、この10年間の動きのなかで、リユースだけでは解決できず解体やリサイクルをセットで考えていくべきだと変わってきているのではないでしょうか。

建物の状態、その地域の状況を踏まえ、活用できるものは活用し、できないものはリサイクルして次の流れに持っていく、それが重要だと考えています。

(聞き手:平澤和弘)