2023.6.12

積水ハウス、高卒“住宅技能工”の育成・採用を大幅拡大

25年に133人を採用、30代年収を約1.8倍900万円に

積水ハウスグループの積水ハウス建設は、新施策により高校卒業予定者を中心とした“住宅技能工”の育成・採用を大幅に強化する。また給与をはじめ待遇も大幅に改善、職方として働く魅力を向上させて全国的な採用増加で地方の雇用を創出する。

大村本部長は、「家づくりに携わるクラフターの仕事は、やりがいのある仕事。彼らの仕事に敬意を表して、大幅な処遇改善に取り組んでいく。一生涯安心して働ける環境を整備し、クラフターのなり手を増やしていきたい」と話す

建設現場での職方の高齢化や若年就業者の減少の加速に加え、年間時間外労働の上限の制限が2024年4月1日から適用される「2024年問題」がある一方で、国内の底堅い住宅需要への対応と、高い耐震性・断熱性を備えた良質な住宅ストックの形成に向けた担い手の創出が強く求められている。積水ハウスの大村泰志 常務執行役員 積水ハウス建設事業本部長は、「このまま住宅技能工が減り続ければ、当社が培ってきた品質・安全が失われる懸念もある」と話す。

こうした背景がある中で積水ハウス建設は、住宅建設の担い手となる高卒“住宅技能者”に対して新たな施策を導入して育成・採用を大幅に強化し、同社で働く魅力の向上に一層の取り組みを推進する。

24年4月入社では今期の2.4倍にあたる年間95人、25年4月入社では3.4倍にあたる年間133人の採用と、大幅な採用増員を計画。グループ8社(東北、上信越、関東、東京、中部、関西、中国四国、九州)での採用強化により、地域雇用を創出する。

加えて、積水ハウス建設ではこれまでの「施工技能者」という名称を改め、基本の技術を習得する「ホープ」、施工を担う「クラフター」、チームを統率する「チーフクラフター」、技能を伝承する「マスタークラフター」という4つの職務等級に変更した。また、職方の役割やスキル、キャリアの見える化を図るとともに、基礎から建方、内装という工程を一棟丸々担うことができる多能工人財の育成を一層図っていく狙いから、専門能力の高まりや拡がりをタテ・ヨコ軸で示す「スキル・マトリックス」による新たな客観的評価を導入した。クラフターから工程管理・品質管理を行う工事責任者への職種変更も可能となる。新たな人事制度と評価制度の導入とともに、積水ハウス建設の全国8拠点に新たに採用専任者を置き、新卒クラフターの採用を一層強化する。

また、処遇の大幅改善を軸とした人材への積極投資を行う。高卒新入社員の初任給について、月収・年収ベースで11%の引き上げを23年4月に実施。月収17万9000円とした。また、24年4月の新人事制度導入から、チーフクラフターの待遇を大幅に改善し、30代で現在年収500~600万円から、最大約1.8倍にあたる約900万円まで引き上げる。

高度なスキルを持つ一方で、体力の低下により高所作業などが難しくなる50代~60代のクラフターには、年収600万円前後の処遇で、技能を伝承する「マスタークラフター」という役割で活躍し続けてもらえるように配慮した。

働くクラフターの魅力を高める取り組みの一環として、ユニフォームも一新した

現在、一般的には大工の働き方として、30代、40代になり、一定のスキルを身に付けた大工は、より高い処遇を求めて、一人親方として独立してしまうケースが少なくない。同社としてもそうした意志があれば拒むことはしていないという。また、50代、60代の高齢になると、体力的な問題から現場で作業することが難しくなるケースが少なくないため、年収も若い時に比べ下がっていくのが現状だという。こうした状況に対して、今回の処遇の大幅改善により、クラフターが仕事に集中して働きやすく、一生涯安心して良質な住宅建築に貢献できる就業環境の整備を目指す。

現在、積水ハウス建設グループ8社に所属するクラフター社員は481人。建設現場では、協力関係を結ぶ地域の工務店などと連携により、工事を進めるが、全現場の大工、職人に占めるクラフター社員の割合は6%。これを今回の積水ハウス建設のクラフター社員を全国で増やすことにより、25年までに11%にまで増やす計画だ。協力工務店の大工、職方の減少が進んでいることに対して、積水ハウス建設でクラフター社員の雇用を増やすことで、全体の大工、職人の充足を図る。積水ハウスは、労務費も含めて協力工務店に工事を発注している。クラフター社員の人件費は、積水ハウス側の原価に入るため、今回のクラフター社員の大幅な処遇改善分を賄うために、収益バランスに大きく影響を与えることはないという。

業務事平準化で働き方改革をさらに推進

働き方改革にもさらに力を入れる。建設業ではまだ完全実現が少ない「4週8休」、「年間休日120日」、「完全週休2日」、「男性育休取得率100%」はすでに実現しており、引き続き実施する。建設現場で働く技能者の福利厚生を充実させるには、仕事の量に凸凹がなく、安定的に一定の量があることが重要になる。大村本部長は、「積水ハウスグループの大規模な工事数を生かして、業務のピークを平準化することができている。業界をリードする働き方改革を一層推進していく」と話す。

また、今回の採用計画に合わせ、現場でのイメージアップと社員の満足度向上を図るため、ビームスのユニフォームブランドに依頼し、ユニフォームの制作を行った。夏冬用、防寒服、空調服などの一式を2024年春から全国の“住宅技能工”が着用する予定だ。