2023.5.8

「生物多様性国家戦略2023‐2030」を閣議決定

脱炭素と並びネイチャーポジティブも企業活動の前提に

政府は「生物多様性国家戦略2023‐2030」を閣議決定した。2030年の「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の実現を目指し、生物多様性・自然資本を守り活用するための戦略となる。現在、2050年の脱炭素社会の実現に向け、多くの企業が取り組みを加速させている。同様に、中長期的にはネイチャーポジティブも企業の事業活動の前提になると見られている。

2022年12月、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択、2030年までに、これまで減少傾向であった生物多様性の状態を回復軌道に乗せるというネイチャーポジティブを目指す目標が掲げられた。各国には、同枠組みを踏まえ、生物多様性国家戦略を策定・改定することが求められた。

こうした世界的な潮流を踏まえて、「生物多様性国家戦略2023‐2030」を新たに定めた。2030年のネイチャーポジティブの実現に向け、新たに5つの基本戦略として「生態系の健全性の回復」、「自然を活用した社会課題の解決」、「ネイチャーポジティブ経済の実現」、「生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動」、「生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進」を掲げた。また、基本戦略ごとに状態目標(あるべき姿)(全15個)と行動目標(なすべき行動)(全25個)を設定している。

事業者にとっても、生物多様性の保全に取り組む重要性が増していきそうだ。環境省がまとめた「生物多様性民間参画ガイドライン」では、「近年、短期的に得られる利益だけではなく、生物多様性配慮を含むESG対応をベースとした持続的成長性への期待が、企業の価値評価へ大きな影響を与えるようになりつつあり、生物多様性に対して何も行動をしないことは、経営上の大きなリスクとなる可能性を孕んでいる」と指摘。その上で、「まずは生物多様性への依存と影響が大きいプロセスや原材料を大まかに特定した上で、それらに絞ってサプライチェーンを詳細に把握していくこと」などの取り組みからスタートすることをすすめる。

世界経済フォーラムの報告書では、生物多様性の損失は生存基盤への脅威として、気候変動に次ぐ深刻な危機であり、世界のGDPの半分(約44兆ドル)以上は自然の損失によって潜在的に脅かされているとする。一方で、ネイチャーポジティブ経済への投資と移行で、2030年までに約3億9500万人の雇用創出と年間約1150兆円規模のビジネスチャンスが見込めるとする。

環境省が立ち上げたネイチャーポジティブ経済研究会は、日本に置けるネイチャーポジティブ移行による経済効果を2030年時点でのビジネス機会額は最大104兆円(波及効果を含め125兆円)と推計する。直近の実質GDP成長率約5~6年分となる。同研究会は、最終的な経済効果を盛り込み、2023年度中に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)」をまとめ、ネイチャーポジティブ経済への移行の実現に向け、ビジョンや道筋を明らかにする。住宅業界にとっても、ネイチャーポジティブへの取り組みは不可欠になるだけでなく、これからの時代の成長戦略を描く上で重要なキーワードになっていきそうだ。