2022.12.14

東京大学/大賀建設/M’s構造設計/YKK AP 産学連携で自立循環型住宅を建築

東京大学前研究室、大賀建設、M’s構造設計、YKK APの4者が共同で自立循環型住宅の実現を目指すAL-passプロジェクトのモデルハウスが竣工した。一年中快適に過ごせる住宅を目指ざし、学生と企業が一体となった家づくりを行った。

完成セレモニーには学生らのほかに東京大学の前准教授(右端)と大賀建設の須賀社長が出席した

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、家庭部門ではCO2排出量を2030年度までに2013年度比66%削減するなど大幅な改善が求められている。しかし、資源エネルギー庁によれば、2021年度の家庭部門のCO2排出量は153Mt‐CO2で、2013年度比26.5%減と3分の1強しか進んでいない現状がある。

こうした中、東京大学の前研究室を中心に、大賀建設(AlnetHome、アルネットホーム)、M’s構造設計、YKK APの4者は、共同で「自立循環型住宅」の実現を目指すAL‐pass(アルパス)プロジェクトに2021年6月から取り組んでおり、今搬、埼玉県久喜市にそのモデルハウスが竣工した。

自立循環型住宅とは、敷地条件を考慮した上で可能な限り自然エネルギーを活用するパッシブデザインの考え方を取り入れ、快適な住環境を提供する住宅のこと。例えば、夏期は開口部から差し込む太陽光を遮蔽することで室内への熱の侵入を抑制し、逆に、冬期は開口部から太陽光を取り入れることで熱を取得する。こうした工夫を凝らすことで高いコストをかけて住宅の断熱性能を高めずとも快適な空間を実現。冷暖房に依存することも避けられ、ガスや石油などの化石燃料由来のエネルギーの利用を抑えることができ、家庭部門のCO2排出抑制につながる。

プロジェクトの発足のきっかけは前研究室の学生らによる要望だったという。これを受け、同研究室の前真之准教授が、学生が日頃の研究成果を生かしつつ、設計に参加できる取り組みを模索したところ、まず、YKK AP、M’s構造設計の名前が挙がった。そこに、しっかりした構造の住宅を提供している企業としてM’s構造設計の加盟店である大賀建設が参画した形だ。

自然エネルギーを効率的に利用
断熱等級6相当の省エネ性能を実現

竣工したモデルハウスの外観

同プロジェクトでは、大賀建設が住宅のファーストプランを設計、その後、学生を中心に4者で①効率的な日射取得や太陽光発電のための建物形状、②潜熱蓄熱材(PCM)の導入効果、③空調室導入によるエアコン効率、の3点を検証しながら変更を加えていった。

建物形状に関しては、はじめに学生が壁面積算日射量を調べ、開口方位、壁面形状の見直しを図った。ファーストプランでは主開口方位が西南西に位置していたが、南側に近い方が日射取得では有利なためこれを南南東に移動したほか、ファサードの凹凸が日射取得を阻害していたことから当該面を平らにした。

また、袖壁の有無とバルコニーの形状についても日射取得との関係をシミュレーションした。その結果、西側袖壁の撤去とバルコニーの縮小を行うことで日射取得が増加することが判明し、デザインを考慮しつつ設計に反映した。

さらに、ファーストプランでは陸屋根が採用されていたが、屋根勾配と屋根方位の違いによる太陽光発電量の違いをシミュレーションし、勾配の付与と屋根方位の変更が発電効率を上げることを確認。今回のモデルハウスは屋根勾配を4寸、屋根方位を南とした。これにより、年間発電量が8327kWh(ファーストプラン比11.1%増)、暖房機の電気代削減費も8万645円(同23.0%増)と大幅に増加した。

なお、日射取得には開口部の性能も重要であるが、断熱性能との両立ができる窓・サッシをYKK APの製品群からシミュレーションし、「APW430」と「APW431」のLow-Eトリプルガラス+樹脂サッシの組み合わせが最も冷暖房負荷を軽減でき、総合的な性能が高くなるとして採用した。

太陽光を効果的に活用するための工夫は建物形状だけに留まらない。潜熱蓄熱材(PCM)は、効果的に利用することで室温の安定化が期待できる。

PCMとは、融解熱、凝固熱を利用して熱の吸収、放出ができる物質のこと。融解温度を特定の温度に設定でき、周辺温度がそれを超えると融解熱により余剰な熱を蓄熱、逆に周囲が設定温度以下になると凝固熱で蓄積した熱を放出する性質を持つ。この性質を利用し、昼間に太陽光を蓄熱、夜間などにその熱を放出することで冷暖房に頼らずに室温の安定化を図ることができる。

シミュレーションの結果、融点23度のPCM8㎜を床に施工した場合、10月から12月にかけての快適温度帯(18~28度)の時間は何も施工しない場合と比較して2.9%(64時間)増加することが分かった。

また、空調室の導入によるエアコン効率もCFD解析でシミュレーションし、快適な空調運用を図る空調室計画と快適性を確保する吹き出し口計画を実施した。効率的な空調利用には、リターン空気という居住域から帰ってくる空気がエアコンにスムーズに吸い込まれ、エアコンからの空気も空調室内のファン吸込口にスムーズに吸い込まれる空気循環の流れを作る必要があるが、その実現のためにリターン口とエアコンの位置関係を調整、リターン口の直下にエアコンを設置したことでこの循環を確立した。

このように自然エネルギーを効率的に活用する工夫を行うことで、コストを抑えながら断熱等性能等級6相当の断熱性を実現している。物件は今後、竣工後のデータとして室温などのデータ収集を行った後、一般向けに販売する予定だ。

大賀建設の須賀亮代表取締役社長は、「プランニングから学生が中心となり、産学連携を図ることで脱炭素時代の住宅の在り方を研究してきた。そこで生まれた知見やアイデアを結集したことでいい家ができた」と話した。4者は今回の取り組みを断熱等級6.7が住宅性能のスタンダードになるきっかけにし、ジェネリック化することでさらに広げていきたい考えだ。