森林鉄道があった!/森林鉄道、復活の兆しも
森林鉄道があった!
日本で鉄道が開業してから今年の10月14日が150年ということで、新聞、TVなど鉄道150年特集が賑やかだった。利用者の減少などで赤字線が増え、廃線論議が高まるなかでの鉄道人気は不思議だ。失われゆくものの郷愁ゆえか。大体、小説や映画・TVから鉄道モノが失くなったらどれだけ味気ないことか。
ところで講談、森の石松ではないが、鉄道でもう一つ忘れてほしくないのが“森林鉄道”だ。今でこそ姿を消したが、明治の世から昭和のもとで殖産振興、経済成長を支える資材として木材生産の拡大が叫ばれ全国に木材の伐採、運搬のために狭い軌条の森林鉄道が張りめぐらされた。全国の営林局が主導して建設し、明治37年(1904年)の高野山森林軌道(延長3347km)を皮切りに、実に1230路線、総延長8803㌔㍍におよぶ森林鉄道ネットワークが形成された。だが、隆盛を誇った森林鉄道もやがてトラック性能の向上や自動車道整備が進むなかで、鉄道輸送の非効率化が指摘され、次々と廃止への運命をたどる。そして昭和50年(1975)の長野県王滝森林鉄道の廃止で、森林鉄道による本格的木材輸送は終了する。この間、約70年。これを長いとみるか、短いとみるかは人それぞれだろうが、70年間という人間の寿命に近い歳月のなかで、森林鉄道が走っていたという記憶は、郷愁や感傷にとどまらない日本の産業の近代化のシーンとして深く刻まれていいのだと思う。
森林鉄道が描かれた小説として思い浮かぶのが、水上勉の“飢餓海峡”だ。そしてこれを名匠・内田吐夢監督が映画化、名作として今に語りつがれる。戦後の貧しく、混乱した時代、昭和22年(1947)の10号台風、洞爺丸沈没事故に、北海道岩内町の質屋強盗放火殺人を絡めた犯人の逃避行と執念の刑事の追跡という長編サスペンスだ。津軽海峡を小舟で渡り、たどり着いた青森県下北半島の仏ケ浦から始まる犯人の逃走に使われたのが森林鉄道。「トロッコとも汽車とも名のつけようがない鉄鎖のついた枠だけの車輪と屋根のない箱をつないだ軌道車」だ。犯人はこれに乗り込み、さらに新たな部落で連絡する別の森林鉄道に乗り換えて本線の川内駅に着く―。この描写だけでも、下北半島には森林鉄道がいくつも張りめぐらされていたことがわかる。
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