三井ホーム、2×4工法で国内最大級の5階建て特養を建設
スギ約7000本分の炭素貯蔵効果
枠組壁工法において国内最大級となる木造5階建て特別養護老人ホームを竣工した。2176㎥の木材を使用。炭素貯蔵量は1774t‐CO2(スギ約7000本に相当)でカーボンニュートラルに貢献する。
施設は、特別養護老人ホーム「新田楽生苑(しんでんらくせいえん)」で、医療福祉施設専門の設計事務所、メドックス(東京都新宿区)が設計監理者、同社が施工者となり、足立区が所有する中学校跡地に建設した。社会福祉法人、新生福祉会(広島県尾道市)が運営主体となる。
建築地は区からの借地で、足立区が特別養護老人ホーム等の用地として公募を行った結果、同事業が選定された。東京都と足立区から特別養護老人ホーム等施設整備に関する補助金の交付を受けており、全170室の入所用居室とデイサービスセンターなども備える大型施設となる。
新国立競技場を上回る2176㎥の木材を使用
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、再生可能な循環資源である「木材」を利用する木造建築への期待が世界各国で高まっている。木造建築とすることで、長期間炭素を大気に戻さず建物内に固定化(貯蔵)できるため、脱炭素への寄与が期待されている。
日本においても2021年「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(改正木材利用促進法)」の施行により、木材利用を公共建築物だけでなく民間建築物に拡大していく方針が示された。木材利用を前面に打ち出した大規模ビルの建設が相次いでいる。
今回の施設においても、脱炭素への貢献を優先し、施設の大部分を木造とした。1階はRC造、2~5階の4層を1時間耐火構造の木造(枠組壁工法)で建設した。建築面積は2180㎡、延べ床面積は7826㎡。うち木造部分の延べ床面積は6181㎡。枠組壁工法で国内最大級の木造建築物となる。
「ゼネコンや設計事務所が先導する木造建築では、仕上げに木材を使用することが多いが、今回の施設では、〝実〟を取り、2176㎥もの木材を使用した。木材利用で注目を集めた新国立競技場と比べても、建物の大きさは25分の1程度だが、木材の利用量では上回っている」(同社)。同社の試算によると、炭素貯蔵量(CO2換算)は1774t‐CO2、これはスギの木(35年生)換算で7116本に相当する。
鉄骨造やRC造と比べ軽量で加工・運搬が容易
そのほか、木造は鉄骨造やRC造と比較して軽量であり、加工・運搬が容易であるため、建築時における様々な負荷軽減につながった。また、枠組壁工法を採用し、床・壁等の構造躯体をパネル施工することで、工期短縮・コスト削減にも寄与した。
なお、同施設は隅田川と荒川に挟まれた中州にあり、足立区洪水・内水・高潮ハザードマップによると河川氾濫時には5m以上の浸水が想定されるため、1階RC部分の階高を通常より高くし、浸水時の入所者の安全を確保した。
施設入所者の暮らしやすさや、スタッフの働きやすさへの工夫も取り入れた。2階から5階は、共同生活室をすべての居室から出入りしやすいようフロアの中央に配置。平常時、機能維持訓練に利用する5階の多目的ホールは、河川氾濫による緊急時には、2階入所者の避難場所として利用する。西側道路に面する開放的な1階の地域交流スペースは、事業主の地元である「瀬戸田レモン」の色を基調とした明るくにぎやかな内装色でデザインとした。また、屋外広場と隣接させ、イベントや交流スペースとして地域にも開放する。
木造中高層化の技術を蓄積
様々な用途で木造化を推進
枠組壁工法として国内最大級の建築物を実現するため、これまで蓄積してきた木造建築中高層化の技術を活用した。中層木造建築物では、地震や台風により水平力が作用すると非常に大きな浮き上がり力が耐力壁に生じるため、既存のホールダウン金物に代わる同社が開発したオリジナル金物タイダウンシステム「ロッドマン」を採用。通常の3階建て以下で使用しているホールダウン金物の10倍以上の強度を有する。建物の中でより高い強度を求められる部分で使用した。
「改正木材利用促進法の追い風もあり、企業など建築主の木造建築への関心が高まってきていることを実感している。これまで介護・福祉施設、文教施設などが中心であったが、ここにきて医療施設や商業施設などの木造化・木質化の事例も徐々に増え始めている。今回の施設を含め、5000棟を超える木造施設建築の実績を訴求して、様々な用途での中層大規模建築物の木造化・木質化を推進していきたい」(同社)考えだ。
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