2022.10.4

JFE鋼板 異常気象に対抗する金属屋根 暴風などによる屋根材の飛散リスクを低減

もう「想定外」で終わらせない

JFE鋼板は、金属屋根「プレーゲル」が住宅の長寿命化や防災性能の向上に貢献することを、実証実験などを通して明らかにした。甚大化する暴風雨などによって屋根材が飛散するといった被害が問題視される中、こうしたリスクを低減する屋根材として訴求していく方針だ。

「プレーゲル」は、およそ40年前に発売した金属屋根で、累計販売数量500万㎡を超える実績豊富な超ロングセラー商品だ。北欧の雰囲気と日本瓦の風格を合わせもつ波型のデザインなどが市場で高い評価を得ている。重さは屋根材の中では最軽量クラスの約6㎏/㎡。瓦の約8分の1の重さで、構造体への負担が少なく耐震性も優れている。そして、新たに住宅の長寿命化や防災性能の向上にも貢献することが、実証実験などによって明らかになった。

独自の波型デザインで下地材の腐朽を抑制

年に一度レベルの異常気象が毎年のように起こる昨今、暴風などによって屋根材が飛散したり、剥がれ落ちてしまう被害が多発している。

こうした被害の要因のひとつが、野地板の腐朽による屋根材の固定強度の低下だ。一般的に野地板という下地材にビスを打って屋根材を固定するが、木質系の野地板は含水率が増えると腐朽しやすくなり、強度も低下する。一般的に野地板の上には防水用としてルーフィングと呼ばれる下葺き材などを施工するが、何らかの理由で屋根内部に浸入した雨水がビスや釘穴からルーフィングの下の野地板に到達し、この状況が長期に渡ると腐朽が進む懸念がある。腐朽した野地板にビスで固定された屋根材は固定強度が低下し、暴風などによって飛散するリスクが高まる。また近年のゲリラ豪雨や線状降水帯を例とする際立つ多雨の増加がリスクを押上げる可能性は否めない。経年劣化が進む住宅ではこうした状況が発生しやすい事に加え、外部から確認する事が難しい。野地板の乾燥状態を維持することが住宅の長寿化という観点だけでなく、災害リスクを抑制するという点でも重要になってきているのだ。

JFE鋼板の「プレーゲル」は、透湿性ルーフィングと組み合わせる事により、野地板の乾燥を促す機能を発揮する。特徴でもある波型デザインは、屋根材と野地板の間に高さ30㎜、幅130㎜の空隙を創り出す。野地板の湿気は透湿性ルーフィングを透過してこの空隙に移動し、この空隙が通気層として湿気排出の役割を果たすことで、下地材の乾燥状態の維持に貢献する。

野地板の乾燥状態を維持する方法としては、桟木によって野地板と屋根材の間に通気層を設けるものが一般的だ。しかし桟木を施工する手間が発生してしまう。「プレーゲル」は、屋根自体に通気層があるため桟木を施工することなく通気層を作ることができ、屋根の軽量化と施工の効率化にも貢献する。また、同製品は高い意匠性を備えつつ、最小2/10の低勾配に対応可能な高い防水性を誇っているが、低勾配の金属屋根で通気ができるものは珍しいという。

実証実験により野地板の乾燥効果などを確認

JFE鋼板では、「プレーゲル」の野地板の腐朽を抑制する効果を明らかにするため、東洋大学の土屋喬雄名誉教授の監修のもとで実証実験を実施してきた。

屋根の通気層については、「あった方がいいとは思うが、定量効果が分からない」という声が聞かれるという。そもそも屋根材や野地板の耐久性は、年月が経ってから屋根材を撤去して確認するしかないので、効果の立証は現実的には難しい。フラット35の木造工事仕様書などでも浸入雨水による屋根下地の劣化軽減対策として紹介されているものの、メリットが伝わりにくいという問題があったのだ。

ハウスメーカーなどを中心に高耐久なフッ素樹脂塗装鋼板の金属屋根が選ばれるようになるなど、屋根材自体の耐久性には目が向けられるようになってきたが、屋根材の長期間の固定強度にまで踏み込んで材料を選択することは多くない。JFE鋼板建材事業部建材企画部の下方担当部長は、「屋根メーカーとして、長期に渡って台風などにもより強い屋根を提案していきたい。今回の実証実験では、確かな効果を示すことができた。今後、少しでも多くの方に屋根材と野地板を合わせた屋根構造の耐久性を考えるきっかけとなれば」と語る。

約9日で野地板の含水率40%減
温度低減効果も実証

実験では、含水率60%に水を含ませた野地板を2/10屋根勾配の実験棟に設置し、野地板の含水率の変化と、通気層の温度を測定。結果、「野地板の乾燥効果」及び「通気層内部の温度低減効果」が確認された。注目すべきは、野地板が乾燥するまでの速さだ。低勾配にも関わらず野地板の含水率が建築基準法やJASにおいて木材が強度を発現できる20%以下まで下がるのにかかったのは約9日。通気がない場合のシミュレーションでは、野地板の含水率が60%から20%まで低下するには、少なくとも半年程度かかるとの結果が出ており約20倍の速さで下地材が乾燥していることになる。

実験を監修した東洋大学の土屋名誉教授は「通気工法の良し悪しは、乾燥の速さで決まるが、プレーゲル通気工法は通気効果が非常に高く、仮に野地板等が多くの水分を含んだ場合でも速やかに気乾状態に戻す効果が確認され、屋根構造としての高耐久・長寿命化に繋がるものと確信している」とコメントしている。

多発する異常気象により、これまでの想定以上の耐力が住宅に求められようとしている。もはや「想定外」では済まされない状況だ。しかも、長期優良住宅の考え方などの普及に伴い、住宅をより長く使っていこうという時代に突入している。

「良質なストック形成が進み、中古流通も活性化し家をより長く使う時代が到来する。それだけに想定外の自然災害にも耐える耐久性が大事になっている。長い目で見た際に屋根が『プレーゲル』であることが付加価値となるようにしていきたい」(下方担当部長)と、普及を促進していきたい考えだ。