2022.9.2

新たな価値提案が進む窓シャッター

防災から快適な住まいづくりへ

防犯を主な目的として利用されてきた窓シャッターが変わりつつある。台風の大型化、長期停滞化に対応するために、強風に耐えられるシャッターの開発・販売が加速。さらに、通風や日射遮蔽、IoT機能などの新たな価値提案により、窓シャッターは暮らしの快適性を高めるアイテムになりつつある。

YKK APが2020年に発売した「耐風シャッターGR」は前年から2.4倍の販売数となった

2018年9月4日、台風21号は「非常に強い勢力」で徳島県南部に上陸、近畿地方を通過し、日本海へ抜けた。台風が「非常に強い勢力」で上陸したのは、1993年以来、25年ぶりで、近畿地方を中心に最大瞬間風速50m/sを超える暴風と大規模な高潮をもたらした。翌年2019年には、台風15号、19号といった強い勢力の台風が日本に上陸し、15号は千葉市で最大瞬間風速57.5m/sを記録、7万4900棟を超える住家被害を発生させた。このようななか、メーカー各社は台風に負けないシャッターとして性能の強化を図った。

YKK APは耐風圧性能の高い「耐風シャッターGR」を2020年に発売、販売数は前年比2.4倍に増えた。台風対策を考えてシャッターをつける場合においてはより高い性能のものが好まれるようで、リフォーム用の「マドリモシャッター」は新築用よりも耐風圧性能の高いGRが選ばれるケースが多くなっている。昨年展開した「リモコンスリットシャッターGR」は同社の窓シャッターラインアップの中でも特に優れた耐風圧性能(負圧の風圧力で、正圧の2分の1)を有する。W6尺で1200Pa(風速換算62m/s相当)だが、着脱可能な耐風ポールを装着すれば2400Pa(風速換算88m/s相当)まで高めることができる。また、手動シャッターについて塩害対策を目的にケーシング材料を高耐食めっき仕様に変更した。沿岸部においては塩害でスチールが腐食、最悪の場合は強風でシャッターボックスカバーが飛んでしまうという被害も想定され、実際に、2019年の台風19号の暴風により千葉県でそうした被害が発生した。社内試験により10年相当は錆の発生がないことを確認している。

また、「取り付けができない箇所をなくす」ことをコンセプトに開発を進めたリフォーム用の「マドリモシャッター」は、業界随一の納まりバリエーションを持つ。その総仕上げと呼べるのが昨年11月に発売した「マドリモシャッター 出窓用(出幅200)」である。出窓は最近の新築で採用されることは減っているが、10~20年前の住宅には多く取り付けられており、ここにシャッターを取り付けたいという強いニーズがあったという。これにより、「マドリモシャッターで一般的な戸建住宅の窓はほぼカバーできるようになった」(住宅商品企画部 窓商品企画室 竹原立明氏)。

三和シヤッター工業が発売した「耐風ガード スクリーンGⅡタイプ」防火仕様は業界初となる土間・バルコニー納まりでの防火認定を取得

三和シヤッター工業は高耐風圧窓シャッター「耐風ガードシリーズ」のスクリーンGⅡタイプにおいて業界で最も高い最大耐風圧強度2400Pa(負圧)を有し、内閣官房 国土強靱化推進室が発行する「国土強靱化 民間の取組事例集」にも選定されている。「耐風ガードシリーズ」は同社の強みである防火性能を兼ね備えており、都市部の防火地域の住宅やマンションなどでも台風対策として取り入れることができる。防火地域の窓ガラスは基本的に網入りガラスの使用が求められるが、防火性能のある窓シャッターを設置することで、透明の窓ガラスを使えるようになるため明瞭な視界が確保される。

LIXIL の「リフォームシャッター」。サッシ下枠下部に取付スペースのない窓にも取付けられる「リフォームシャッター 三方枠納まり」を発売

LIXILは2020年にシャッターの耐風圧性能を標準タイプで従来の800Pa(風速換算51m/s相当)から1.5倍の1200Paまで向上、耐風タイプは1600Pa(風速換算72m/s相当)まで向上した。また、2018年に関西を直撃した台風21号での被害を調査し、飛来物による被害の多さを確認した。窓シャッターを設置していた住宅でも飛来物によるスラット部分の損傷が多く、交換依頼がおよそ100件寄せられた。しかし、裏を返せば、シャッターがきちんと窓ガラスを守る役目を果たしているということで、飛来物対策としての窓シャッターの重要性を積極的に伝えていきたいとする。そのうえで、JISで制定された飛来物衝突試験方法で試験を実施、2㎏の飛来物を時速44㎞で衝突させる試験を行った。何もない窓ガラス、養生テープで補強した窓ガラスは粉砕したが、窓シャッターをつけることでガラスへの損傷を免れることを実証した。また、スラット部分に防犯耐風フックをつけることで、耐風性と同時に防犯へのニーズにも対応する。

飛来物から窓ガラスを守るための需要としては、防犯の面では設置が重要視されてこなかった2階以上の窓へのニーズも増えてきている。今春、三和シヤッター工業が、「耐風ガードシリーズ」に土間・バルコニー納まりを拡充、スクリーンGⅡタイプでは業界初となる土間・バルコニー納まりでの防火認定を取得している。また、LIXILはウッドデッキやバルコニー、土間納まりに対応した「リフォームシャッター 三方枠納まり」を新発売している。

換気や採光機能でより快適な生活環境をつくる

これまで窓シャッターは防火、防犯といった目的で採用されてきたが、自然災害が多発、また、激甚化するなかで開口部を守る防災対策としての採用へと大きく拡がってきた。ただ、その提案はどうしてもユーザー心理に影響される。2019年には大きな台風被害が相次いだことから防災意識が高まったが、昨年はそれほど大きな被害が発生せず、防災意識が薄れてきていることは否めない。大きな台風被害があった直後は販売数が急激に伸びるが、半年くらいすると落ち着いてくる傾向があるという。また、台風対策は特に九州など台風通過エリアで評価される提案となっている。逆に言えば、その他の地域では訴求力が強くないのが現実だ。

こうしたなか、各社は日頃からの災害対策が重要だと啓発活動を続けることに加え、窓シャッターが持つさまざまなメリットを生活価値として訴える提案に力を入れている。

文化シヤッターの「マドマスターソラル」は、独自機能の通風モードで人目を気にせず換気ができる

新たな価値提案として、展開されるのが採光や換気の機能を充実させた商品だ。文化シヤッターは、今年4月に電動ブラインドシャッター「マドマスターソラル」を発売、採光と遮熱のバランスを取りながら通風と換気ができる”ブラインドモード”、上部3枚のみブラインドが開き、屋外からの視線を気にせず風を取り込むことのできる”通風モード”、高い耐風圧性と防犯性を保つ”全開閉モード”をコントロールできる。換気、採光の機能を備えた窓シャッターは1980年後半に販売を開始。近年は、コロナ禍において在宅ワークが増加したことで、シャッターを閉めたまま光を取り入れたい、換気をしたいといったニーズの高まりがあったという。

YKK APはスリットシャッターの採光や通風に加え、遮熱による電力消費のピークカットに貢献できることなどをアピール。同社のシミュレーションによると、シャッターを閉め、スリットは開けた状態では窓下の床の温度は22.4℃と室内温度20℃からほとんど上昇しないが、シャッターを全開にすると46℃まで上昇するという。遮音・遮光効果により、集中して仕事ができる環境も実現する。「一年を通して窓シャッターの効果は期待できる。日々の快適性を向上しながら、台風シーズンの防災対策にもお役立ちできることを住宅事業者にアピールしていきたい」(住宅商品企画部 窓商品企画室 竹原立明氏)と、窓シャッターの付加価値提案に力を入れる考えだ。

LIXILは睡眠の質をよくするという面からの提案に力を入れている。専門の教授とともに研究を行った結果、夜中は3ルクス以下、日中は1000ルクス以上の明るさにすることで、「うつ病」や「睡眠障害」、「肥満」などの疾病リスクの軽減につながるそうだ。室内の明るさを3ルクス以下にするため、窓シャッターでしっかり外の明かりを遮ることが大切だという。

電動化やIoT対応で利便性を向上

電動シャッターは、リモコンなどを使って開閉やブラインド調節などの操作ができる。開閉のために窓を開ける必要がないため、窓から虫が入ることを防ぐことができるなどシャッター開閉時のストレスを軽減する。また、IoTと連携しているものも多く、外出先からスマホでの操作や、気象状況に応じた自動開閉が可能なものもある。

一方で、(一社)日本サッシ協会と(一社)建築開口部協会の調査部会が行っている2022年の「住宅用建材使用状況調査」によると、窓シャッターの電動化率は22.8%と前年の18.5%から増加しているが、普及への余地は大きい。

文化シヤッターの2021年度の電動化率は32%で市場全体と比べると多いが、まだまだ成長に期待できるとし、手動の横引雨戸を取り外すことなく、電動窓シャッターとしてリフォームできる「ヨコタテ」や、手動タイプの窓シャッターを簡単に電動化できる窓シャッター後付電動化キット「オートマンミニ2」などの販売で電動化へ拍車をかける。「電動タイプの他にも、スマートフォンでの開閉や、HEMSと連携することで気象庁が発表する気象警報に連動してシャッターが閉まるものもラインアップしているので、快適性や安全性を訴求できる付加価値の高い商品としてお客様に提案していきたい」(経営企画部 広報室係長 榎田征浩氏)。

LIXILは、ライフスタイルサイトにおいて、実際のユーザーの声を動画や記事で発信し、防犯、防災だけでない心地よい暮らしを実現するための窓シャッターの魅力を訴えている。台風の備えのためなら手動で充分と考える人も多いが、実際に自動の窓シャッターをつけた人からは、カーテンを開けずにシャッターの開閉ができるので、寝起きなどに外からの視線を気にしなくていいのが助かるなどの声があり、好評だという。電動タイプでは、通常のリモコン操作に加えてスマートフォンでの操作の連携を標準設定、別売りのIoTホームデバイスを購入すればそのまま連動もできる。

三和シヤッター工業は、窓シャッターは価格面から手動タイプが選ばれる場合が多いが、電動にしたいという要望も年々増加してきているという。手動シャッターから電動シャッターにリフォームする「マドモアチェンジ」も安定的に需要がある。電動タイプはスマートフォンやスマートスピーカーによって窓シャッターの操作を可能とするスマートホームにも対応しており、今後、住宅のIoT化が進むことも予測されることから、電動化やIoT対応の利便性をさらにアピールし、拡販していきたいとする。

猛暑日が続く今年の夏。地球温暖化による海面温度の上昇で今後も台風の勢力は強くなると言われている。開口部の破損は、生活するうえでの安全、快適性に大きく影響する。進化する窓シャッターは、これからの住宅にとって欠かせないものになりそうだ。