再生建築研究所、“既存不適合ビル”を再生へ
減築で新たな価値を創出
設計事務所の再生建築研究所が東京都千代田区の築53年のビルの再生を手掛けた。高さ制限や斜線制限、耐震基準など、現在の法規に適合していない建築物に、新たな価値を創出した。
再生建築研究所(東京都渋谷区、神本豊秋代表取締役CEO)は、古い建物を新しい建物のようにリノベーションするのではなく、古い建物を新しい建物よりも価値が出るように、古い建物の良さを生かしながら再生する「再生建築」を多く手掛けている。
この「神田錦町岡田ビル」は、築53年の鉄筋コンクリート造オフィスビル。所有者である安田不動産は、同社が進める神田錦町のまちづくりに活用するため再生を行うこととなったが、このビルを再生するにあたり、さまざまな課題があった。確認申請は出ているが検査済証がない、高さ制限や容積率がオーバーしている、斜線制限に違反している、避難経路が一つしかない、旧耐震基準の既存不適格建築物であるなどだ。例えば、約19mの高さ制限のところが階段室の塔屋により21mあり、容積率360%で600㎡しか確保できないところ900㎡の面積があった。
こうした既存不適格であるだけでなく違法状態とも思われる建築物を適法化しながら価値を高めることにチャレンジしたのが、この再生計画だ。
斜線制限、容積超過を是正するため、大きなポイントになったのが減築だ。基本的な減築は、上層階から必要な面積を削るが、この計画では各階ごとに少しずつフロアを削り、5層の吹き抜けとした。同社ではこの空間を「潜在専有床」と呼ぶ。面積を減らしただけでなく、建物のアウトラインを変えることなく吹き抜けやバルコニーを新たに作り出し、「実在にある専有面積が広がって見える場所」(神本代表取締役)としたのである。外壁ラインをそのまま残していることから、吹き抜けに面したバルコニーが専有面積の一部のように感じられることから、実際の面積よりも広く感じる。また、開口が少なく薄暗かった空間は、間接的な採光により明るい空間に生まれ変わった。減築により生まれたこの空間が新たな価値を生み出した。
また、この減築は耐震補強を伴うものでもある。塔屋の一部解体、各階の床の減築による開口により建物重量を軽減、耐震性を向上させることにより補強量を当初案の約3分の1まで大きく減らし、袖壁のない補強を実現した。
このほか、さまざまな工夫で「坪単価×面積では判断できないような建築ができた」とさまざまな点で価値を高めた。
さらに両隣が安田不動産の管理している建物で、公開空地として道路境界から大きくセットバックしていた。そこで境界の塀を一部解体するなどの工夫で、両隣の公開空地を建物内に引き込み、人の通り道を作り、賑わいを生み出すことにも成功している。
こうした新たな生み出した価値が評価され、一棟借りのクライアントがつき、1、2階は飲食店、3、4階はオフィス、5、6階はコワーキングスペースとなる予定だ。
ストック時代を向かえるなか、既存建築物の活用が大きなテーマになっている。古くなったから壊すという時代は終わったとは言うものの、その建物に新たな価値を加えるという取り組みはまだまだ少ない。同社は東急不動産など不動産事業者と連携した事業展開に力を入れており、今後、こうした取り組みがさらに活発化しそうだ。
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