より強く、より安心に 住まいを護るフェンス・塀

防災対策に不可欠な存在に

住まいを〝護る〟フェンスや塀。最近では、メーカー各社が防災対策に注力した商品開発に注力しており、売れ行きが好調に推移している商品も登場している。
地震だけでなく、風害、さらには水害対策としての機能強化を図ろうという動きもあり、防災対策に不可欠な存在になろうとしている。


2018年6月に発生した大阪北部地震。この地震で倒壊したブロック塀によって、女児を含む二人が死亡した。この事故を受けて、国土交通省は関係団体連絡会議を開催、本格的な対策に乗り出した。
その後、耐震改修促進法施行令を改正し、建築物に付随する塀を耐震診断の義務付け対象とするとともに、ブロックの除去・改修に対する補助なども強化している。
こうした動きは社会的にも注目を集め、ブロック塀からフェンスへの切り換えが進むことになった。2018年6月を境にフェンスなどの需要は高まり、各メーカーの売上は今でも好調に推移している。
(一社)日本エクステリア工業会の2021年度製品別出荷統計によると、フェンスの出荷量は前年度比で4.1%増という伸びを見せている。

地震だけじゃない
風にも強いフェンスを訴求

各メーカーでは、地震による倒壊リスクの少なさだけでなく、耐風圧性能を高めた商品を発売し、風害リスクの軽減にも取り組んでいる。

三協立山・三協アルミ社は、2022年3月に形材フェンス「シャトレナⅡ」を発売。売上が前年度比1.5倍ほどの伸びを見せているという。

三協立山・三協アルミ社が2022年3月に発売した形材フェンス「シャトレナⅡ」。耐風圧強度を向上し、人気の木目調の意匠性を実現

同社では、形材フェンス「レジリア」という商品を展開しており、市場で高い評価を得ている。従来品の1.2倍となる風速36m/sという耐風圧強度を備えており、風に強いことが特徴だ。標準の支柱ピッチは2000㎜だが、1000㎜にすると、強度は従来品の1.5倍となる風速42m/sにまで向上する。

「シャトレナⅡ」は、「レジリア」と同じく風速36m/sという耐風圧強度を備えており、意匠面では人気の木調柄を採用した商品だ。「レジリア」と同じく、支柱ピッチを1000㎜にすることで、風速42m/sにすることも可能。また、下桟隙間を通常の80㎜から15㎜まで狭めた「シャトレナⅡ」の4型(目隠しルーバー)では、最大高さは1600㎜まで対応する。

「レジリア」と「シャトレナⅡ」のもうひとつの特徴が、支柱が統一されている点。両商品ともに同じ支柱を使っており、販売店などが支柱だけをストックしておき、後から格子の部分を注文するといったことが可能になる。フェンスを施工する場合、まず基礎を施工し支柱を設置していくが、支柱をストックしておくことですぐに施工に着手できる。その後、遅れてフェンス本体を取り付けることもできる。
施工者の負担を軽減するために、フェンスを現場で切断する際に使用する専用の治具も提供している。この治具を利用すると、フェンス1枚当たり約30分(同社調べ)と切断のための時間を短縮できるという。施工者の技能にもよるが、フェンス1枚を切断するために、1時間半から2時間を要する場合もあり、同社の専用の治具によって、かなりの施工時間を短縮できる。

同社によると多段支柱の需要も高まっており、従来はブロック塀+フェンスという組み合わせが採用されたものを全てフェンスにするというケースも増えてきているそうだ。同社のスチールメッシュフェンス「ユメッシュプラス」は、こうしたニーズに対応するもの。例えば、下段をスチールメッシュ、上段をアルミ形材フェンスにすることで、コストを抑えながら目隠し機能を備えたハイサイズのフェンスを設置できる。

同社は、「最近では通風を図るためにスリットタイプの販売も好調に推移している。在宅時間が増えるなかで、より快適かつ、外からの目線を気にすることなく暮らすためにフェンスを選択することが増えているのではないか」としており、引き続きフェンス需要を取り込んでいきたい考えだ。

YKK APの「ルシアス スクリーンフェンス T230」。高さ2300㎜のフェンスで、デッキや室内リビングに立っている状態でも道路側からの視線を遮断

YKK APでは、2021年6月に「ルシアス フェンス」をリニューアル発売した。木調フェンスのスタンダードシリーズで、新しい意匠提案が可能なデザイン・カラーのバリエーション拡充を行い、耐風性能の向上も図った。標準の風速34m/s相当に加えて、風速42m/s相当の耐風圧性能を備えた商品を取り揃えている。

加えて、フェンス本体幅をブロックモジュールに合わせて1975㎜から2000㎜へ変更。連結施工してもブロック連結部や端部にズレが発生しないよう配慮し施工性を向上している。

さらに、2022年4月には高さ2300㎜の「ルシアス スクリーンフェンス T230」も発売。デッキや室内リビングに立っている状態でも道路側からの視線を遮断することができる。

施工の徹底などで信頼回復図るブロック業界

大阪北部地震を契機にコンクリートブロック業界は厳しい状況を強いられている。(一社)全国建築コンクリートブロック工業会によると、2021年度の空洞コンクリートブロックの生産量は、前年度比4.9%の減少となり、出荷量も5.6%減となった。

こうした状況を打破するために、業界を挙げての取り組みを進めている。

コンクリートブロックについては、適切な材料を使い、適切な施工を行えば地震などによるリスクが極端に高まるわけではない。建築基準法などを順守し施工すれば、阪神・淡路大震災クラスの巨大地震が来ても倒壊しないことが、振動台実験でも確認されている。

ブロック材メーカーで構成する(一社)全国建築コンクリートブロック工業会(JCBA)では、国家資格でもある「ブロック建築・技能士」の普及を図っており、「ここにきて資格取得者は増える傾向にある」という。この資格の1級と2級はブロック建築工事のスペシャリストであり、適切な施工を行うための技能を備えている証となる。

(公社)日本エクステリア建設業協会(JPEX)では、ブロック塀診断士という資格制度を運営している。ブロック塀の危険個所の調査を行い、地震などの災害を防止することを目的とした資格制度で、同協会に加盟していない事業者も資格を取得できる。大阪北部地震以降、資格取得者が増加する傾向にあり、現在までに4766名が資格を取得している。ブロック塀の施工業者だけでなく、建築士や解体業者など幅広い分野の事業者が資格を取得しているという。

同協会では、建築コンクリートブロック工事士という資格制度も運営している。コンクリートブロックの安全な設計管理、施工管理を行う専門技術者を育成する資格制度だ。加えて、現在、適切なコンクリートブロックの施工方法を紹介する動画の作成も進めている。

こうした活動を通じて、適切な施工方法の周知徹底を図っていきたい方針。同協会によると、「一般の方々や住宅事業者のコンクリートブロックの安全性に対する意識が高まっている」という。

ブロック塀の役割を見直す水害対策としての可能性を探る

JCBAでは、「ブロック塀の本来の役割をもう一度見直し、広く社会に発信していきたい」としている。

その一環として、JCBAとJPEXでは、千葉県の幕張メッセで開催されたエクステリアの展示会である「エクステリア×ガーデンエキシビジョン2022(EXG2022)」において、「ブロック塀は安心・安全だ!!」をテーマに2団体が共同で出展した。

「エクステリア×ガーデンエキシビジョン2022(EXG2022)」では、エスビック、東洋工業、マチダコーポレーションの3社共同で、止水ブロック塀の有効性をデモンストレーションでPR

またエスビック、東洋工業、マチダコーポレーションの大手化粧ブロックメーカー3社は共同で、止水ブロック塀の有効性を実際のブロックを使用したデモンストレーションでPRした。

ブロック塀の止水性については、玄関などの出入口からの浸水を止水板などで防止することができれば、敷地内への水の浸入を抑制し、床上浸水リスクを軽減することが期待できる。

ブロック塀メーカーのなかには、止水板とブロック塀をトータル提案している企業も登場してきている。また、浸水防水対策としてブロック塀を設置する際に補助を行う自治体もある。

集中豪雨などによる浸水被害が毎年のように発生しているだけに、今後、浸水対策としてのブロック塀が果たす役割に注目が集まりそうだ。

そのほか、自動車のアクセルとブレーキの踏み間違いなどによる家屋への被害を防止するといった機能もブロック塀には期待でき、業界を挙げて安心・安全な住まいづくりへの貢献度をアピールすることが求められそうだ。

RM造の塀で防災性能をさらに向上

太陽エコブロックスでは、RM造の塀によって住宅の防災性能向上に貢献している。

RM造とはRC造の一種で、RMユニットと呼ばれる強度の高いコンクリートブロックを組積し、空洞部に鉄筋を配筋し、生コンクリートやモルタルを充填して耐力壁を建築する構法。一般的なブロック塀と比較すると、より耐震性、耐久性の高い強固な塀を建築できる。

太陽エコブロックスの「ボイドRM塀」は、ダブル鉄筋によって強度をさらに高めた

太陽エコブロックスは、「いのちと暮らしを守る」というテーマのもと、〝防災塀〟として「RM塀」の提案を進めている。

ダブル鉄筋によって強度をさらに高めた「ボイドRM塀」を用意している。鉄筋を二重にすることで強度をさらに高めたもので、地震の揺れだけでなく、風や水への強さも発揮する。

鉄筋を二重にすると、空洞にモルタルなどを流し込む際に、鉄筋が邪魔をして均一にモルタルを流し込めないことがある。グラウドという無収縮モルタルを使用することでこの問題を解消し、なおかつ塀自体の重量が過度に重くなることも抑制。これによって基礎の大きさなどを変えることで、より強固な塀を構築できるようにした。

今後は水害などに対する強さなども検証していく方針で、地震に限らずあらゆる災害への強さを広く訴求していきたい考えだ。

同社は、「施工業者などだけでなく、一般の方々にも適切な施工と材料を使用した塀の重要性を分かってもらい、RM塀の普及に努めていきたい」と考えており、カタログなども一般消費者を意識したものに改定した。

ブロック塀とフェンスの併用をより安全に

狭小の住宅地などで隣地との境界線をより明確にしたい場合や、土留めの機能が必要になる際、グランドレベルから数段のブロックを施工し、ブロックの空洞部分にフェンスの柱を設置し、モルタルを充填して固定する。

こうした施工を行うケースでは、ブロックとフェンスの接合部分が災害時などに弱点になる懸念がある。

従来のブロック構造では、強風などによってフェンスに風圧がかかると、支柱を固定している部分に力が加わり、ひび割れや破損も起こり得る。また、支柱や鉄筋がサビやすい状況になることもあるという。

ユニソンのSF マーク適合品「TAURA(タウラ)」。各展示会の同社ブースでTAURA などを使った空間提案を行っている

こうした危険性を回避するために、ユニソンとエスビックが共同で開発し、販売しているものが、コンクリートブロック「TOUGHTO(タフト)」だ。

ブロックの構造を見直し、鉄筋を挿入する空洞部を大きくした。これによって、十分にモルタルを充填することができる。また、この商品はJISで規定されているコンクリートブロックの最高水準の強度を備えているだけでなく、日本建築学会が定める壁式構造配筋指針で定める規準にも適合している。さらに、風速40mにも耐える耐風圧性能を備えている。

両社では、JISと日本建築学会規準に適合したコンクリートブロックを安心・安全を表す「SFマーク」で示す取り組みを進めている。「TOUGHTO(タフト)」に続き発売した「TAURA(タウラ)」もSFマーク適合品となっている。

ユニソンによると、「タウラが発売されたことで選択肢が増えたため、急激にSFマーク品の売上げが伸びている」という。まずはSFマークの認知度を高めていき、より安心・安全な商品であることを訴求していきたい考えだ。

防災対策のためにも適材適所で選択

大阪北部地震の影響によって、ブロック塀やフェンスをめぐる状況は大きく変化した。しかし、フェンスにはフェンスの、ブロック塀にはブロック塀の役割があり、その点は普遍的なものでもある。フェンスであれば、目隠し効果を発揮しつつも、風通しなどを図ることができる。地震の際などに万が一、倒壊したとしても、重大な事故につながるリスクは低い。

一方、ブロック塀については、水害の際に水の家屋への浸入を抑制するだけでなく、土留めとしての役割も担う。地震に対する対策を高度化させた商品も登場してきている。

いずれにしても、住まいの防災対策を考える時に、どの場所に、どのようなブロック塀やフェンスを設置するのかという視点が重要であることは間違いない。場合によっては、1棟の住宅でブロック塀とフェンスを使い分けることさえ求められるかもしれない。

それぞれの特徴を上手く利用することで、防災対策をワンランク高めることにつながるだけに、防災的な視点で適切なフェンスやブロック塀を選択していくことも必要ではないだろうか。