リンナイ、世界初 水素100%の家庭用給湯器を開発
バーナなどの技術開発で従来製品と同等の給湯性能を実現
リンナイは家庭用給湯器において、世界で初めて水素100%燃焼技術の開発に成功した。
世界中で進む脱炭素の流れのなか、大きな期待が集まる水素活用。
実証実験などを経て2030年頃の市場投入を見込む。
水素100%の燃焼技術は世界初のこと。ガスに水素を混ぜる混合燃焼であれば、部品交換などで対応が可能であるが、「水素100%となると一気にハードルが上がる」(中島忠司常務 開発本部長)という。逆火による爆発のおそれ、燃焼が安定しないという課題をクリアするため、新たな技術開発が求められる。カギとなったのはバーナとバーナボディの技術である。
開発上、重要なポイントの一つが「低能力まで安全、安定的に燃焼ができること」。家庭用給湯器としてさまざまな水量、湯温にも即座に対応することが求められるが、水素100%時に課題となったのが低能力のケースだ。水素の燃焼速度は天然ガスの約8倍と速く、低能力では噴出速度が遅いため、バーナ内部に炎が入る逆火が発生しやすい。
従来、国内給湯器で使用される薄型板金製のバーナ(ブンゼン燃焼方式)は、変形しやすい、逆火に弱い、板金の継ぎ目から水素が漏れやすいといった点で水素対応は困難。海外給湯器やボイラーで使用される金属繊維ユニットのバーナ(全一次燃焼方式)でも低能力時には逆火が発生した。そこで同社は焼結金属と板金スリットを組み合わせた水素専用バーナの開発に取り組んだ。逆火耐性、火炎保炎性、火炎均一性、バーナ温度、通過抵抗において、水素に最適なバーナ条件を設定し、焼結金属の密度、線径、厚みのさまざまな組み合わせ、板金のスリットの幅やパターンのさまざまな組み合わせを試し、低能力まで燃焼可能で、火炎安定範囲の広いバーナの開発に成功した。「100回以上のトライ&エラーを繰り返した」(赤木万之 開発部需要開発部次長)という。
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一方、バーナボディについては、万が一、逆火した際の安全性の確保が求められた。従来の構造は、混合したガスと空気をファンによってバーナに送っていたが、空気をファンで送ったのちに水素を混合する方式とし、可燃ガス容積を小さくした。これによりバーナ内部に火炎が伝播しても爆発エネルギーを小さく抑えることができる。
これらの技術開発により、従来の天然ガス給湯器と同等の給湯性能を達成。さらに、水素バーナ、バーナボディ、ガスコントロール、ファンといったすべての要素が、天然ガスでも水素でも使用可能なことから、市場が天然ガス仕様から水素仕様へと変わる過渡期においても転換が容易であることもポイントだ。簡易なガス仕様転換システムを構築、「オリフィス」(部品)とマイコン内のデータ変更のみ、30分以内に仕様変更が可能であるという。
商品化に向けて、5月からオーストラリアのガス検定機関であるAGAに評価を依頼する一方、11月頃にオーストラリアのガスインフラグループであるAGIGがビクトリア州で計画する「水素の家」にプロトタイプ給湯器2台を設置してフィールドテストを行う。
2030年頃に市場投入
2050年には商品構成の3割へ
リンナイの主力である給湯・暖房・厨房商品のCO2排出量を販売台数から計算すると、日本全体のCO2排出量約11億tの内の1680万t、約1.5%を占めるという。つまり同社のCO2排出削減への取り組みは、国全体の排出量削減に大きな役割を担うということでもある。そして、同社がかかわるCO2排出量は商品使用時が95%と圧倒的に多い。
こうしたなかでリンナイは、昨年11月にカーボンニュートラル宣言「RIM2050」を公表した。商品開発から製造、販売における変革により、従来の事業領域の枠を超えて「脱炭素社会実現への貢献」を目指すもの。具体的には、CO2排出量を、事業活動(開発、商品物流)、商品使用時(商品使用、廃棄)ともに2050年に〝ゼロ〟を目指す。
商品別のエネルギー構成をみると、現在は、化石燃料を使用するガス機器「エコジョーズ」が9割以上を占めるが、これを段階的に減らし、2050年にはゼロとする。代わって、現在はまだ割合の少ないハイブリッドやヒートポンプ、また、メタネーション・プロパネーションによる従来機器の継続利用の割合を高める。加えて、水素インフラの拡大とともに水素燃焼機器を導入、その割合を高める。2050年段階では、これら3つの商品群がほぼ3分の1ずつとなるイメージだ。
こうしたなかで、世界初の、家庭用給湯器における水素100%燃焼技術の開発は、大きなエポックメイキングであろう。
水素活用の実現に向けてはインフラ整備が大きなカギを握っている。「水素を20~30%混ぜるのであれば大丈夫だが、それ以上になるとインフラを全面的に変える必要がある」(中島常務)からだ。
同社は、今後、「低炭素」から「脱炭素」に向けてのエネルギー供給体制の動向を見極めながら、技術の深化を進め、2030年頃に市場投入したい考えだ。
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