防蟻市場で新展開が続々
省エネ、アメリカカンザイなど環境変化で動き
シロアリ対策をめぐり新たな取り組みが活発に進みつつある。省エネ性の向上、アメリカカンザイシロアリの被害拡大、また、木材の積極活用など市場環境が大きく変わりつつあるなか、大きなうねりが起こり始めているようだ。
住まいを長く大切に使い続けていくために欠かせないのが劣化対策。そのなかでも重要なテーマの一つがシロアリ対策だ。
シロアリ防除・駆除対策は、より安全性の高いもの、環境負荷の少ないものの開発が追及され、進化を続けてきた。ただ、ここにきて社会環境、市場環境、ユーザーニーズなどの変化を踏まえ、さらなる変革が進んでいる。
例えば、アメリカカンザイシロアリの被害が広がっている。ヤマトシロアリやイエシロアリと生体が異なるアメリカカンザイシロアリの対策は、これまでの防蟻対策とは一線を画す。従来の土壌処理だけでは被害を食い止めることはできず、木部すべての対策が求められている。今後、その被害が急拡大するとの指摘もあり、住宅における対策は急務だ。
また、脱炭素化社会の実現に向け、住宅の省エネ性向上に対する取り組みが急ピッチで進められていることも防蟻対策に新たな取り組みを求めそうだ。ZEH水準にとどまらず、住宅性能表示制度において断熱等性能等級で等級6・7が設定されようとするなか、住宅の断熱レベルは次のステージへと向かっている。6地域においても付加断熱が行われるようなレベルとなると基礎断熱の実施も広がりそうだが、べた基礎内にシロアリが侵入することによる断熱材の被害が不安視されている。
当然、その本分である住宅の劣化対策をさらに強化していくことも求められている。ストック市場が重視され、住宅を長く大切に使っていくことが重要になるなか、シロアリ対策も再施工をどのようにしっかり行っていくのか、また、より安全により効果が長続きする対策も求められる。ストック市場で既存住宅の価値をどう評価していくかが大きなテーマとなっているが、そこにシロアリ対策の有無はもとより、どのような対策が施されているかといった評価視点も重要なのではないだろうか。
今、シロアリ対策において、こうした新たな取り組みが求められつつある。国をあげて木の活用が進められつつあるなか、シロアリ対策の重要性はさらに高まっているといえよう。
新たなアプローチ相次ぐ
“組み合わせ”で効果を高める動き
独自の乾式加圧処理が生む価値
外装に使用可能な構造用合板にも応用
兼松サステックは、独自の乾式による保存処理技術を開発、「乾式防腐・防蟻ニッサンクリーンAZN処理木材」を販売する。
木材に薬剤を加圧注入し、シロアリや腐朽菌から木材を守るのが加圧注入処理。水溶性薬剤を用いる「湿式処理」が普及しているが、木材中に水分を残すため加圧注入後に乾燥させる必要があり、木材が膨らむ、割れる、反るといった変形が指摘されている。一方、同社が開発した乾式処理は、処理装置により木材を減圧・加圧処理を行い、有機溶剤に溶かした薬剤を注入する。処理装置内で溶剤を揮発させることで木材の内部に薬剤のみが留まる。水を一切使用しないことから、木材が膨らまず、寸法や形状の変化が少ないことが最大の特徴だ。さらに処理後の乾燥も不要で、納品から施工までの工程を大幅に短縮できる。
防腐・防蟻処理は大きく表面処理と加圧注入処理がある。表面処理は手間やコストが少ない反面、薬剤の塗りムラなどで均一な効果が期待できない、木材に割れが生じると薬剤を塗っていない部分が露出してしまうというデメリットがある。一方、加圧注入処理は木材内部まで薬剤が浸透しており、薬剤の量も多いことから効果が持続するといった効果を持つ。
住宅分野においては構造材に多く採用され、出荷は順調に伸びているという。また、非住宅分野では外装材や造作材として多く用いられている。
この乾式による加圧注入処理技術の活用で注目されるのは、先に住友林業と協業して開発した新材料「溝切加工合板」と「穿孔加工合板」だ。これは構造用合板に「ニッサンクリーンAZN」を乾式加圧注入し、住友林業が独自開発した水性シリコーン系木材保護塗料「S‐100」を施して耐候性を高めた商品。外装を含め外部で使用することができる。「溝切加工合板」は合板に深溝加工を施すことで羽目板調パネルとして活用できる。また、「穿孔加工合板」は20mmピッチで直径10mmの非貫通孔を施した商品で、穿孔部に鬼目ナットを設置し、プランターを吊るすなど拡張性を持つ材料だ。
昨年10~12月に設計者を対象に「溝切加工合板」と「穿孔加工合板」を活用した住宅・非住宅にこだわらない設計コンペを開催、12件の応募があった。「製品の特性を生かした従来の厚物合板のイメージを覆すユニークな提案も多かった」(木材・住建事業部 営業推進部 営業推進課 丹野龍彦シニアアドバイザー)と、構造用合板の可能性を広げたようだ。上位3提案には実際に商品を提供、実際に建設が行われる。
非住宅向けには、外部での使用を可能とする商品として、「発想豊かな設計士に向けての提案」に注力する。
住宅向けは、溝加工合板は軒天材、ウッドデッキ、木塀などの用途を想定している。
特に外装など外部での合板の使用は意匠デザインに大きな可能性を広げそうだ。それを可能たらしめた大きな要素は、劣化対策として不可欠な防腐・防蟻処理技術である「ニッサンクリーンAZN」であろう。
B to C to Bが顕著に
オーダーメイドの対応も
日本ボレイトは木材劣化対策「ボロン de ガード工法」など、ホウ酸処理によるシロアリ対策を展開する。今期に入って出荷は前期比30数%という大きな伸び。そもそもここ数年は同20%程度の伸びを続けてきたが、10ポイント以上増加させた。
その要因としては、営業努力はもとより「ホウ酸に対する認知の広がりと、SNSで勉強する施主が増えたこと」(浅葉健介社長)と指摘する。それがB to C to Bの流れの拡大だ。
コロナ前までは工務店や設計事務所を対象に年間100回以上に及ぶセミナーを行っていたが、正しい情報がなかなかエンドユーザーまで届かないというもどかしさを感じていた。ところがコロナ禍に潮目が変わり、エンドユーザーがYouTubeやSNSなどで積極的に情報を得て、ボロン de ガードを知り、「どこの工務店ならホウ酸をやってもらえるか」、「ホウ酸を採用するが工務店に伝える注意点はないか」と、また、住宅事業者からは「施主からボロン de ガードを指定されたのだが…」と連絡が入るようになってきたという。
こうしたなかでハウスメーカーが仕様に取り入れる動きも始まっている。ただ、こうした場合はボロンdeガードではなく、それぞれのハウスメーカーに合ったホウ酸処理を求められることも少なくない。日本ボレイトは材料供給だけでなく施工込みで行うことから、例えば、住宅性能表示制度の劣化対策で求められる外壁の軸組だけといった施工範囲などの要望にオーダーメイドで対応することが可能だ。こうした対応を一つのメニューとして用意しており、ケースバイケースで対応できる柔軟性も日本ボレイトの特徴となっている。
日本ボレイトは、責任施工体制が特徴で、同社以外に全国120超えの資格を取った施工代理店が施工を行う。とはいえ同社とのコミュニケーションは重要で、難しい既存住宅の処理は同社が行うといった分担も必要。そのため東京・秋葉原の本社以外に、埼玉、大阪、福岡の事業所で施工代理店をサポートしてきたが、今年3月に新たに名古屋事業所を開設する。核となる事業所を大都市圏ごとに設置したいと検討してきたが、これで中部圏を抑えたことになる。今後、施工代理店の活性化などに取り組む考えだ。
基礎木部以外などの対策に
ホウ酸+土壌処理のW効果
ホウ酸系の防腐・防蟻用薬剤「エコボロンPRO」など、ホウ酸処理によるシロアリ対策を展開するエコパウダーが提案しているのが、土壌からのシロアリ侵入防止を組み合わせた「eことアル工法」だ。
具体的には、木材の腐朽と虫食いの防止に「エコボロンPRO」を、土壌処理にシンジェンタジャパンの「アルトリセット 200SC」を使うもの。
エコボロンPROは、木部の予防に優れた持続性と安全性を持つ。揮発蒸発しないため空気を汚さず、効果が長期間持続する。また、万が一口に入っても食塩と同等程度の毒性で安全性は高い。
ただ、食毒性でシロアリを積極的に殺虫するものではないため、防蟻処理されていない断熱材や窓枠のシロアリ被害のリスクは残されていた。
一方、アルトリセット 200SCは、非忌避性、遅効性の土壌処理用シロアリ防除剤で、シロアリに対する摂食抑制効果が速やかに発現するため、食害が広がる心配がない。米国で厳しい基準をクリアして「低リスク殺虫剤」として登録されるなど、高い安全性・環境性を持つ。
エコボロンでカバーしきれないシロアリの侵入対策をアルトリセット 200SCが担い、2種の薬剤を組み合わせた”W効果”でデメリットを補完しあい、さらに効果の担保を高める。
「玄関回りのシロアリ対策、基礎の木部以外の対策まで考えていなかった、と反響は大きい」(齋藤武史専務取締役)と引き合いが増えている。
省エネ向上の動きのなかで
重要度が増す防蟻処理
断熱材を防蟻処理
野外試験15年でも食害なし
デュポン・スタイロが販売する「スタイロフォームAT」は、押出法ポリスチレンフォーム断熱材のスタイロフォームに防蟻薬剤を混入、断熱材自体がシロアリの食害を防ぐ性能を持つ。15年ほど前に木材保存協会で防蟻断熱材として初めて登録された商品だ。
最も大きな特徴は、防蟻剤の現場塗布や土壌改良に比べて防蟻剤の流出・拡散がほとんど生じないこと。登録以降、沖縄で野外試験を続けているが、2021年時点で15年経過したなかでも食害は見られず、断熱材の中に含まれる薬剤の残存量も製造当初とほぼ変わっていないことが確認できている。日本国土でシロアリの活性が一番である沖縄での試験ということもあり、15年の試験結果は大きな説得力を持つ。
同社では、スタイロフォームATに厚み100mmを追加したが、住宅の省エネ化をめぐる動きが加速するなか、より高い性能の住宅への対応を図ったものである。現状、こうした環境の変化がスタイロフォームATの出荷に大きな影響を与えている段階にはないが、今後、断熱性向上が進むなかで基礎断熱か床断熱かという選択の傾向が注視される。
ZEH以上の上位等級、特に寒冷地域では、性能アップにともなって床断熱の仕様が増えてくると見込まれる。ただ、断熱材の厚みが限られてくるなか基礎断熱に注目が集まる可能性がある。「床下空間の利用、水道管の凍結対策などもあり、基礎断熱のニーズも高まり需要は増えてくる」(技術・開発本部 製品技術部 三原典正部長)と期待をかけている。同社では、各地域で高断熱住宅を手がけるビルダーなどを中心にアプローチを強める考えだ。
そして、この時に重要になるのが防蟻である。基礎断熱の場合はシロアリが入ると表に出ず、気づいた時には被害が増大しているということが以前から指摘されている。このために開発したのがスタイロフォームATであり、業界に先んじて発売したパイオニア的な商品だ。15年に及ぶ試験に基づく信用を武器に、さらに高みを目指す省エネ住宅の動きに提案を強める。
基礎への進入を防ぐ
省エネ向上のなかで出荷増
前年同期比30%増と大きく伸ばす日本ボレイト。なかでも伸びが顕著なのがホウ酸防蟻気密シーリング材「ボレイトシール」とホウ酸防蟻気密パテ「ボレイトフィラー」だという。同社の考え方は、土壌や基礎などをしっかりと一次防蟻し、もしそこが突破されたら木部をホウ酸処理した二次防蟻で防ぐというもの。この一次防蟻において、べた基礎の隙間を埋める商品がボレイトシールやボレイトフィラーだ。
べた基礎であってもすき間はある。内断熱の場合、その入り口をしっかり防がなければ木部に被害がなくても断熱材がボロボロになることもある。現在、防蟻シーリング材でホウ酸のものはボレイトシールしかなく、差別化につながっている。ハウスメーカーでは木部処理は殺虫剤処理だがボレイトシールだけは使うというハウスメーカーもあるという。
「省エネ意識が高まる一方で、防蟻についてはまだまだ重要視されていない」(浅葉社長)と指摘する。脱炭素への対策に加速がつくなか、劣化対策がおざなりにはされていないだろうか。
新たな脅威が広がる
もはや対策は不可欠に
近年、急速にクローズアップされているのが、アメリカカンザイシロアリの被害だ。
イエシロアリやヤマトシロアリは家と土壌とを行き来するため土壌の温度と相関性がある。一方、アメリカカンザイシロアリは寒さには弱いが家の中で冬を越すことができ、暖かくなると羽アリが飛んでいく。その被害は、徐々に広がっており、ここ1~2年はこれまで被害がなかった地域でも被害が出てきているという。例えば、関東で言うと横浜、川崎、八王子などだ。
日本ボレイトの浅葉社長は、アメリカカンザイシロアリの被害は着実に増えていると指摘する。実際、同社では週に1~2件は相談があり、駆除作業を行っているという。「今や、北海道の宗谷岬で発見されるリスクもある。日本全国、家を建てる時には必ずアメリカカンザイシロアリ対策をすべきと思っている」(浅葉社長)と警鐘を鳴らす。
ヤマトシロアリやイエシロアリに比べて被害のスピードは遅いが、放っておくと被害が大きく拡大してしまう。そして厄介なところは、アメリカカンザイシロアリ駆除のノウハウは一般的にはなっておらず、誰もが対処できるわけではないこと。駆除は非常に難しく、経験やノウハウが必要になる。日本ボレイトでも施工代理店では難しく、本社の社員が駆除に対応している。
それだけに予防、また、早期発見が何よりも重要となる。
エコパウダーの「エコボロンPRO」の出荷は、今期(10月)に入って前年比20%程度の増加を続けている。その大きな要因がアメリカカンザイシロアリ対策だ。アメリカカンザイシロアリは飛来するため土壌処理だけでは防ぐことができない。そのため土壌から1mまでだけでなく住宅全体の木部処理を行うため、一棟当たりの薬剤使用量は5倍程度増える。アメリカカンザイシロアリ対策を行う住宅事業者が増えるなか、棟数以上の伸びとなっているわけだ。
アメリカカンザイシロアリ対策の実施は、「施主からの指定でアメリカカンザイシロアリ対策を行いたいという住宅事業者が増えてきた」(齋藤専務取締役)と、住宅事業者からの提案というよりは、エンドユーザーからの要望が強いという。こうしたなかでエコパウダーでは「アメリカカンザイシロアリ対策は新築の時しかできない」ということを強く訴えている。新築時に木部すべてをエコボロンで処理することで構造躯体の食害を防ぎ、建替えなければいけないような最悪な状態にまで被害が拡大することを防ぐ。
同社では、「長く住み続ける住宅だからこそ、新築時に50年先を考えた対策を」(エコパウダー・齋藤専務取締役)と訴えている。
今後、アメリカカンザイシロアリ被害の急拡大が指摘されるなか、住宅を長く大切に使い続けていくために、その対策が不可欠になる可能性は高い。今、住宅のストック価値をどう高めていくかが大きなテーマとなっているが、その対策は大きな課題だろう。「新築時に対策をしておくことが、いざ売る時に他の既存住宅に比べて差別化のポイントになるのではないか」(エコパウダー・齋藤専務取締役)といった時代が来るかもしれない。
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