中央住宅 敷地とエネルギーをシェア 脱炭素社会を目指す暮らし価値を創造
浦和美園E-フォレストで始動 ゼロカーボン分譲住宅構想
埼玉県の浦和美園地区で、これからの街づくりに一石を投じそうなプロジェクトが始動している。
街区全体で敷地とエネルギーをシェアしながら、ゼロカーボンを達成しようというもので、新しい暮らしの価値を求める世代の支持を集めつつあるという。
埼玉県の浦和美園地区では、埼玉高速鉄道の始発駅である「浦和美園」駅を中心に総面積313㏊の大規模な複合開発が進められている。駅・広縁・道路などをバリアフリー化し、埼玉スタジアム2002に続いてイオンモール浦和美園が開業するなど、利便性の高い住宅地として注目度が高まっている。この地で脱炭素社会の価値観を具現化する分譲住宅プロジェクトが進んでいる。
中央住宅(ポラスグループ)、高砂建設、アキュラホームの3社は、この浦和美園地区において戸建分譲地「浦和美園E‐フォレスト」(全129棟)の開発を2016年から行っている。
同分譲地は経済産業省の地域活性化総合特区事業の「次世代自動車・スマートエネルギー特区」に採択されており、省エネやエネルギーマネジメント関連の先進的な取り組みを行い脱炭素のまちづくりを目指していることが大きな特徴。
2016年の第1期の分譲プロジェクト(33棟)では、「HEAT20」のG2を達成する高断熱仕様を採用。続く2019年の第2期(45棟)は日本初のDGR(デジタルグリッドルータ:電力融通と電力識別を自動で行うシステム)を導入し、実証実験を行っている。
そして、今回、シリーズで最後の分譲となる第3期の「浦和美園Eーフォレスト2021・シェアリングコミュニティ街区」(51棟)では、これまでにない取り組みが行われようとしている。51棟中37棟を販売する中央住宅によると、「特区事業としてさらに新しいことを試みようと考えた」(戸建分譲設計本部 設計一部 部長・野村壮一郎氏)という。
自らの資産をシェアし循環ライフコミュニティの実現へ
「浦和美園E‐フォレスト」では、敷地の一部を居住者でシェアすることで、暮らしの価値を高める取り組みを行っており、「シェアリングコミュニティ街区」でもその考え方を踏襲している。
具体的には、それぞれの住戸が敷地の一部を供出することでコミュニティを育むコモンスペースを創出しているのだ。
「浦和美園E‐フォレスト」は、全住戸が敷地面積150㎡以上を確保している。この敷地の広さを活かし、デッドスペースになりやすい建物の裏側の敷地を2mセットバック、住戸と住戸の間にコモンスペースとなる幅4mのフットパスを設けている。ここには共有ベンチや植栽を配し、季節を感じる緑道を演出。
このフットパスには車を乗り入れることはできない。また、各住戸の玄関を外周の公道側ではなく、フットパス側に配置し、日常生活のなかでコモンを中心として、住民間のコミュニケーションが育まれることを狙っている。
さらに、フットパス沿いに装飾菜園「ポタジェ」を設置。菜園を通じたコミュニケーションが生まれるよう配慮している。近隣農家と連携したワークショップなども開催する計画だ。
こうした住民同士で緑や庭と関わる取り組みを通じて、“循環ライフコミュニティ”を構築していくことを目指している。
循環ライフコミュニティを育むフットパスは、インフラ設備としての役割も担っている。フットパスの下に電線・通信線を埋め込むことで、良好な景観も創出しているのだ。共有地であるため、公道下と比べて40%のコストで電線・通信線の地中化が実現できるという。
居住者自らが保有する土地を街区全体の価値のために拠出し、自らの資産を街区全体でシェアすることで、暮らしの価値を高めていこうというわけだ。
そして、「シェアリングコミュニティ街区」では、このフットパスを中心として街区計画の特徴を生かしながら、エネルギーもシェアしていく。
電力小売り事業などを手掛けるLooop(東京都台東区・中村創一郎代表取締役社長)と連携し、同社のマイクログリッド「エネプラザ」により、街区全体でエネルギーの自給自足を実現しようとしているのだ。なお、このプロジェクトは、Looopの代表申請により環境省の「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業」に採択されている。
共有の蓄電システムでエネルギー自給率を60%に
前述したように、共有地であるフットパスの地下には電線が通っているが、この電力系統はLooopが特定配送電事業者として管理・運営を行う。
そのうえで、第三者保有モデルのようにLooopが各住戸の屋根を借り、太陽光発電を設置していく。1戸当たり4・4kWhの発電容量を備えている。ただし、一般的な第三者保有モデルと異なり、各住戸にはパワコンが設置されていないので、直接、自家消費にまわすことはできない。
各住戸で発電した電力は全てが街区内の電力系統に集約され、コモンスペースの地下に埋設された自営線を通して各住戸に分配されていく。加えて、街区全体で発生した余剰電力は共有の蓄電システムに貯められる。そのためにLooopが街区内の土地を取得し、そこに「チャージエリア」として125kWhの蓄電システムを設置。この蓄電システムに貯めた電力を夜間などに各住戸に供給される。「チャージエリア」には、2台の電気自動車(EV)も導入され、余剰電力を蓄電したり、電力が不足している時には街区内に給電する役割を担う。また、カーシェアリングサービスを利用して、居住者が利用することも可能だ。
このプロジェクトでは、各住戸単位ではなく、街区全体でエネルギーを自給自足していこうとしている。試算によると、街区内のエネルギーの60%を自給できるという。また、残りの40%のエネルギーは系統から調達した電力だが、非化石証書を活用することで、実質再生可能エネルギー100%を実現する。
各住戸単位で自家消費を行う場合、一般的に再エネ消費率は30%、蓄電池を導入しても50%程度と、発電した電力の半分程度しか利用できていないという課題があるそうだ。
また、各住戸単位でのマネジメントでは、ライフスタイルによる電力需要の山と谷を平準化することが難しい。共働き世帯であれば、昼間の電力消費量は限りなくゼロに近く、発電された電力のほとんどは余剰電力として売電されるか、蓄電池に貯めることになる。対して、リタイア後の高齢者世帯であれば、昼間に消費する電力は多いが、夜間には早めに就寝するため若い世代よりも電力消費量が少なくなるかもしれない。そのため、昼間に発電量が増えて多くの電力を蓄電したとしても、夜間に使いきることが難しい場合があるだろう。
各住戸単位でエネルギーマネジメントをしようとすると、このライフスタイルによる電力需給量のギャップを解消できないが、街区内で電力を融通し合うことでギャップを埋められる可能性がある。昼間に発電した電力を在宅時間が多い家庭が使い、夜間の電力消費量が多い家庭は共有の蓄電池から電力の供給を受ける。これによって、街区内で自家消費される電力量を増やすことができる。つまり、住民が協力し合うことで、より効率的に再生可能エネルギーを利用できるというわけだ。
住民参加型のエネルギーコミュニティでカーボンゼロを目指す
今回分譲する51棟のうち15棟(中央住宅は10棟)では、EV所有者を対象としたV2G(Vehicle to Grid)街区とし、EVを活用した新たなサービスも提供される。
「シェアリングコミュニティ街区」の太陽光発電で発電した電力を自分のEVに月額3600円で充電し放題になるというものだ。EV充放電器の設置とメンテナンスはLooopが行う。
ただし、このサービスを利用するためには、所有する自家用EVをエネプラザのエネルギーマネジメントで使用する蓄電池の一つとして提供することが条件となる。街区内のエネルギーが不足している場合、居住者が保有するEVに貯められた電力が街区内に供給されるのだ。EVの所有者にとっては、自分の所有物の機能の一部を街区全体でシェアしようというわけだ。その対価として、月額3600円で充電を行えるサービスを利用できる。
電力料金を通じて間接的に居住者にエネルギーマネジメントに参加してもらう仕組みも導入する。
街区の居住者は、電気料金プラン「みその再エネでんき」も利用することになるが、これは従量料金単価が変動する設定になっている。
具体的には、基本料金(契約電力60A)は月額2500円としたうえで、従量料金単価を街区内の太陽光発電の余剰電力の量に応じて変動させる。太陽光発電の余剰率が多い時ほど、従量料金単価が安くなる。余剰率が0%未満の時はkWhあたり30円だが、0%から70%未満ならkWhあたり25円、70%以上になると20円まで価格が下がる。
居住者には前日19時頃までに翌日の単価を知らせる。居住者はその単価に応じて、省エネ行動を行う。従量料金の単価が変化することで、居住者の行動変容を促し、需給バランスの調整に参加してもらうというわけだ。
電力料金については、一般的に再エネを活用した電力よりは割安だが、ライフスタイルによっては一般的な電力料金よりは高くなるという。ただし、優れた断熱性能によって冷暖房負荷を低減することができるだけでなく、初期費用やランニングコスト無しで太陽光発電や蓄電池などを利用できるという経済的なメリットもある。
Looopエネプラザ開発リーダー・荒井綾希子氏は、「今回の取り組みも参考にしながら、それぞれの街づくりに最も適した形でエネプラザの全国展開を目指していきます」と語る。
貨幣価値だけでは表現できない暮らしの価値とは…
土地の一部やエネルギーを街区全体でシェアするという取り組みは、果たして購入者には理解されるのだろうか─。
中央住宅の野村部長は、「正直、不安もありましたが、我々が想定していた以上にお客さまの方がその価値に共感しているようです」と語る。第1期分の18棟は約1週間で完売し、最大5倍の倍率がつく住戸もあったそうだ。分譲住宅全体が好調に推移しているという市場環境要因を差し引いたとしても、非常に高い評価を得ていると言っていいだろう。
SDGsで定められた17の目標では、「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「住み続けられるまちづくりを」、「つくる責任、つかう責任」といったものも含まれている。SDGsが世の中に浸透するなかで、ミレニアル世代やZ世代などを中心として、貨幣価値だけでは判断できない価値を重要視する動きも目立ってきている。浦和美園E‐フォレストの第3期プロジェクトは、敷地やエネルギーをシェアすることでより豊かな循環コミュニティを生み出していくという、SDGs的な暮らしの価値を具現化する分譲住宅地としても注目を集めそうだ。
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