2021.3.8

相続士の資格取得が大きなトレンドに

"相続の大衆化" でビジネスチャンスが拡大

今、相続税の課税割合は8%を超える。
サラリーマン層が相続税を支払わなければならない時代に、相続について相談できる専門家が求められている。
「相続士」の資格試験、講習会を展開するNPO法人 日本相続士協会の代表理事を務める江里口吉雄氏に、相続をめぐる現状と資格取得によるメリットなどについて聞いた。

特定非営利活動法人 日本相続士協会
江里口吉雄 代表理事

──2015年の相続税法の改正により納税対象が拡大されて6年が経ちました。相続をめぐる状況はどうなっているのでしょうか。

江里口 相続税法の改正で“相続の大衆化”が起きました。それまで基礎控除は5000万円+1000万円×法定相続人の数と、相続人が4人であれば9000万円でした。しかし、改正により3000万円+600万円×法定相続人となり、基礎控除が5400万円となったのです。さらに少子化で相続人が少なくなり、一人、二人は当たり前です。二人だと基礎控除は4200万円です。このくらいの資産を持っている人は決して少なくありません。例えば、東京都の23区に戸建住宅を持っていたら億単位になるでしょう。郊外でも数千万円の評価となるはずです。今までは免税だったサラリーマン層も相続税がかかるようになったのです。

国税庁のデータで2015年の相続税の申告状況をみると、課税割合(亡くなった人のうち相続税の対象になった人の比率)は8.0%と、前年の4.4%から大きく増えました。2018年は8.5%、2019年は8.3%です。

──これまで免税だった層が課税される、どうしたらよいのかと困る人に対して、どのような対応が取られてきたのでしょうか。

江里口 20年程前から“相続業界”と言われる形ができ始めました。関与していた専門家は、税理士、弁護士です。しかし、弁護士は相続でもめるようなことがなければ出番はありません。一方、税理士は民法の知識を持っていません。さらに、相続財産の大半は不動産ですが、不動産に関する知識も持っていません。税理士はあくまで所得税と法人税の専門家であって、けっして相続税の専門家ではなかったのです。

そこで登場してきたのがファイナンシャルプランナー(FP)です。FPは民法や税法など幅広い知識が求められますが、やはり不動産には弱く、具体的に不動産をどう分割するかは苦手です。

それでは専門家がいないではないか──。こうしたなかで注目されたのが宅地建物取引士(宅建士)です。言うまでもなく不動産のプロで、民法や税法も詳しい。いわゆる相続のコンサルに求められる知識では宅建業者が適任なのです。
こうした流れのなか10年ほど前から自然発生的に相続の専門家の資格が登場してきました。

士業に新たな専門分野を

──それらのなかの一つが「相続士」ですね。

江里口 「相続士」は2013年にスタートしましたが、実は、その10年前、2003年に、土地評価を勉強したいという税理士を対象に「相続FP養成スクール」を始めています。そして2013年に組織をNPO法人化し、試験による資格制度をスタートすると同時に「相続FP養成スクール」を「相続士上級講習」に位置付けました。ちょうど相続に関する資格が多く登場してきた時期です。

相続士に求められる知識は、まず民法で、遺産分割のことをしっかりとわかっていなければいけません。そして税法、特に相続税です。要となるのが不動産のこと。さらに保険のことも知らなければいけません。

保険のプロであるFP、税務のプロである税理士、そして不動産のプロである宅建士に資格を所得していただき、その専門分野を広げることで仕事の展開につなげていただければと思っています。

一方、「相続士上級講習」は位置づけを変えるだけでなく対象も税理士に加えて宅建士、土地家屋調査士、司法書士、行政書士、FPという6つの国家資格取得者としました。これらの国家資格を持っていなくても、相続士の試験に合格していれば参加できます。受講者は宅建士の資格保有者が6割りを占め、不動産を扱う方々からの注目度が高くなっています。

相続士の資格を取得しても実際に相続ビジネスを展開するのはなかなか難しい。そこで実際に現場実習を行い、開業できるスキルを身につけていただくことが目的です。つまり、実践に使える“キモ”をお伝えしているのです。

宅建士の方は、すでに実務で相続案件を扱っていますが、上級講座を受けた方からは「そこが知りたかった」、「眼からウロコ」という声をいただいています。

これまで東京と大阪で年4回開催してきましたが、コロナ対策で2021年からオンライン講習に切り替え、その募集を開始しています。

好評なオンライン講座

──実際に仕事に“使える”講習ということですね。

江里口 はい。例えば、ある不動産屋さんが、〇〇不動産という看板を〇〇相続士事務所と変えたという事例もあります。それだけ相続で困っている人が多く、ビジネスになるということです。

これまでは、もし相続の起きたお客さんが相続した家を売りたいと不動産屋を訪ねても、「名義人は亡くなった父で、手続きはこれから」と言われたら、「相続登記が終わったら来てください」と言わざるを得ません。相続を手掛けたことがないから遺産分割協議の相談もできない。相続で困っている人は、相続の名義変更をしたいのです。お客さんは二度とその不動産屋にはいかないでしょう。ビジネスのチャンスを逃しているのです。

今、年間130万人が亡くなり、20年後には160万人が亡くなると言われています。その8〜9%が相続税を納税しなければならない。それだけ案件が多く、相続の手続きができるノウハウを持つ人が求められています。相続が一つのビジネスのジャンルとして成立しているのです。

「相続士」の資格取得者は約2200人に達しており、多くの方がビジネスに生かしています。特に不動産業に従事している方は不動産に関する知識、ノウハウを生かして事業領域を広げることができますから、資格取得に大きなメリットがあるのではないでしょうか。

(聞き手:平澤和弘)


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