2020.11.19

化粧シートで抗ウイルスのSIAA認証取得 さらなる技術進化で様々な社会課題を解決

大日本印刷 専務執行役員 生活空間事業部 担当 山口正登 氏

大日本印刷(DNP)は、デザイン性、機能性を高めた独自の化粧シート製造技術などを生かして生活空間事業を強化する。2020年9月には、化粧シートで国内初となる、抗ウイルスの抗菌製品技術協議会(SIAA)認証を取得した。同社の専務執行役員の山口正登氏は、「より豊かで安全・安心な生活空間づくりに寄与する商品を拡充し、建材メーカーなどからの要望に応えていきたい」と話す。

大日本印刷 専務執行役員 生活空間事業部 担当 山口 正登 氏

──生活空間事業部では、フローリングの化粧シートをはじめ、様々な商品を展開しています。

当社が印刷技術を生かして建材事業をスタートしたのは1952年です。建材事業をスタートした当初は、建物というよりは家電製品向けの印刷物などが中心で、例えば、テレビの枠などを装飾する木目調の紙やフィルムの印刷物を提供していました。その後、建材メーカーからの要請を受け、内装材の表面材として使用する化粧シート、フィルムなどの供給を開始し、今では外装用のシートや化粧板なども展開しています。

フローリングに加工したDNP のEB オレフィンシート。国内初となる抗ウイルスのSIAA認証を取得

さらに、建材メーカーから、特徴のある商品、付加価値の高い商品を求められるようになり、30年以上前から化粧シートなどのデザイン性の向上に取り組んでいます。居住空間全体の中でフローリングはどうあるべきか、また、建具はどうあるべきか、外装材はどうあるべきか、といったところからデザインを考え、商品ラインアップを拡充してきました。自社でデザイナーを雇い育成し、現在、デザイン企画部門には50人以上のデザイナーが在籍しています。また、自前でトレンドを調査し、「今後こうした空間演出、デザインの人気が高まる」といったことを提案しています。

その中でも特に強化しているのがフローリングや建具用の化粧シートです。デザインの進化にとどまらず、最近は、手で木目の質感が感じられるといった触感までリアルに再現することが可能になっています。木目に限らず、石目や抽象柄など、空間に合せた様々な化粧シートのラインアップを展開しています。

シックハウス症候群問題に対応
EB技術で環境配慮型の化粧シート

──化粧シートの機能面の進化も目覚ましいものがあります。

化粧シートのデザイン、触感の向上だけではなく、機能性の向上も求められています。時代と共に次々と顕在化してくる社会課題の解決に向け機能強化を図ってきました。

1990年代には、建材などから出た化学物質が室内に滞留して、呼吸器疾患などの体調不良を引き起こす、シックハウス症候群が社会問題化しました。こうした中で当社が積極的に進めたのが、電子線(Electron Beam=EB)照射による、印刷物の表面にコーティングする樹脂層の硬化(キュアリング)技術の開発です。

EBは、電子の流れで、UV(紫外線)の約1000倍のエネルギーがあります。有機溶剤を使わずに、樹脂層にEBを照射することで、瞬時に強靭な塗膜や樹脂層を形成することができます。耐久性、耐傷性、防汚性を高められるほか、太陽光による日焼けを抑制する効果も発揮します。

シックハウス症候群という社会課題に対応して、焼却しても有害なガスがほとんど発生しないオレフィンシートをベースにしてEB技術と組み合わせて環境にやさしい化粧シートを展開してきました。

現在、フローリング市場の約7割が化粧シートを採用したシートフロアですが、デザイン性、触感の向上に加えて、EB技術による機能性、環境性能の向上といった当社のEBオレフィンシートの強みが支持されて、そのうち半分超のトップシェアを当社が有しています。

EB技術は、30年以上にわたり粘り強く研究開発を進めた結果として獲得できた当社独自の技術であり、核となる技術です。EB技術の開発に着手した当初は樹脂層が固まりすぎて、曲げると割れてしまい、ホワイトボードくらいにしか使えませんでしたが、EB照射量や樹脂の開発で硬さをコントロールできるようになり、現在は曲げ加工にも対応し、フィルムにもEBコーティングすることができます。フローリングの化粧シートのほかにも、建具、ドア、壁紙、キッチン扉・洗面扉、外装材に対応した化粧シート、フィルムなどに、EB技術をトータル展開し他社との差別化を進めています。

ウィズコロナ時代のニーズに対応
簡単に貼替えできる抗ウイルスシートも

──新型コロナウイルス感染拡大に対応した取り組みについて教えてください。

新型コロナウイルスの感染拡大は、新たに顕在化した大きな社会課題です。抗菌、抗ウイルス機能を持つ化粧シート、フィルムなどの商品が求められている、求められるだろうということを想定して対応を急いでいます。

抗菌性能を持たせた化粧シートについては、フローリング用EBオレフィンシートを開発した1999年当時から建材メーカーへ供給してきましたが、2020年5月、抗菌製品技術協議会(SIAA)による抗菌性能に関するSIAA認証を取得しました。SIAAは、適正で安心できる抗菌・抗カビ加工製品の普及を目的に、抗菌剤・抗カビ剤および抗菌剤・抗カビ加工製品のメーカーや抗菌試験機関によって結成された団体です。SIAAは、ガイドラインに基づいて品質管理された製品に対してSIAA認証を与え、マーク表示を認めています。

また、9月には、EBオレフィンシートで、国内初となる、抗ウイルス性能に関するSIAA認証を取得しました。24時間以内にウイルスを99%不活化する性能を有する効果が確認され、合格に至りました。

以前からインフルエンザウイルスなどに対応し、ウイルスを不活化する技術開発を進め知見を蓄積してきました。コロナ禍後、建材メーカーなどから、抗ウイルス性能を高めた製品へのニーズが寄せられ、業界に先駆けてSIAAの認証を取得しました。

新型コロナウイルスの主な感染経路は、飛沫感染、接触感染だといわれています。感染者がくしゃみや会話をすると出てくる飛沫の大半は床などに落ちていき、それらが表面に付いたものが手に触れ、口、鼻、目などの粘膜を触ると接触感染するリスクが高まります。

より安全・安心な生活空間を実現する上で、特に床に抗菌、抗ウイルス機能を持たせることは有効であり、ニーズは高まっていくと見ています。

さらに、ウィズコロナの時代に求められる新しいニーズに対応した商品開発にも取り組んでいます。具体的には、個人ユーザーでも簡単に扱える抗菌、抗ウイルス機能を付与したEBオレフィンシート、フィルムなどを開発しました。近日中に発売する予定です。独自に開発した粘着層と一体化することで、下地を傷つけずにシートやフィルムを簡単に貼ったり、はがしたりすることが可能で、フローリングやダイニングテーブル、ドアなどに貼るだけで、簡単に抗菌、抗ウイルス機能を付与できます。

不特定多数の人が利用する店舗やホテル、旅館などで、どのようにウイルス対策を進めていくかは大きな課題です。また、コロナ禍の影響で、働き方も多様化してきています。コワーキングスペースで働く方や、同じ会社内でもフリーアドレスで場所に縛られずに自由に働く人などが増えています。そうしたオープンスペースのウイルス対策への関心も高まってきています。

抗菌、抗ウイルス機能を付与したEBオレフィンシート、フィルムを上貼りするだけで、建替えや、内装材、建具の一新など、大規模な工事を行わずに、簡単に抗菌、抗ウイルス機能を付与できます。

今後、さらに抗ウイルス、抗菌性能を有した製品群の拡充を進め、住宅、オフィス、医療施設、公共施設などで、新築だけでなく既築の物件にも提供し、また国内だけでなく海外へも展開し、抗ウイルス、抗菌建材製品全体で2025年度に年間800億円の売り上げを目指しています。

蓄積したシートの意匠データ生かし
リアリティを追求した空間演出を支援

──そのほか、新規市場開拓などの取り組みがあれば教えてください。

高精細な4K映像とVR(仮想現実)技術による臨場感の高いインテリアコーディネートを迅速にシミュレーションできる「DNPバーチャルエクスペリエンス VRインテリアシミュレーター」を開発し、2020年7月から提供を開始しました。

蓄積した化粧シートの意匠データを生かし、「DNP バーチャルエクスペリエンス VRインテリアシミュレーター」を開発。臨場感の高いインテリアコーディネートを迅速にシミュレーションできる

長年にわたり蓄積してきた化粧シートの高精細な意匠データを活用することで、本物と見間違うほどのリアリティのある画像処理を可能にしました。インテリアに関する生活者のイメージを明確に画面上で具現化し、インテリアコーディネーターのプレゼンテーションを支援します。

もともと2019年10月に、マンションや戸建て住宅等の設計図面から、実物に近い3DのCGデータを制作し、VR空間で多様な間取りやインテリアのコーディネートを疑似的に体験できるシステム「DNPバーチャルエクスペリエンス VRモデルルーム」を開発し提供してきましたが、VRインテリアシミュレーターでは、VRモデルルームのシミュレーション機能を強化し、建具や床材などの色と素材を瞬時に変更して表示できる機能などを持たせました。そのほか、製品情報などの表示や、昼と夜のライティングの切り替え、視点の移動などの多様な機能を搭載しています。多様な機能がプレゼンテーションの幅を広げます。

制作費用は、建具などの部材や家具など、VR空間の作り込みに応じて500万円~1000万円。高級グレードのマンションを販売するデベロッパーなどから採用いただき好評を得ています。不動産や住宅、家具や住宅設備関連など、ショールームやモデルルームを運営する企業に提供し、関連製品・サービスも含めて2025年度に20億円の売り上げを目指しています。

(聞き手=沖永篤郎)

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ハウジング・トリビューンVol.610(2020年22号)

特集:

災害広域化に備え、求められる数、速さ、居住性

近年、大規模な自然災害が相次いでいる。平成22年度から令和元年度までで半壊以上の住家被害が1000戸以上の災害は東日本大震災をはじめ13災害に上る。令和2年も熊本県などに大きな被害をもたらした「令和2年7月豪雨」が発生。死者・行方不明者80人超、家屋被害は全半壊だけで6000戸に及んだ。今年は新型コロナウイルス感染症という、これまでにない問題も発生し、これまで以上に避難生活から仮設期の暮らしへのスピーディーな移行が求められる。

応急仮設住宅は、「建設型」での対応が行われていたが、災害被害の拡大にともなってより多くの住宅が必要になったことで「みなし仮設」とよばれる「賃貸型」が導入、その活用が広がった。そして、今、注目を集めているのがトレーラーハウスやムービングハウスなどの移動式仮設住宅だ。

今後、南海トラフや首都直下などの大地震による想像を絶するほど大規模な家屋被害も予想される。それだけに仮設期の住宅供給をどうするのかを平時の今から考えなければならない。移動式仮設住宅は、プレハブや木造などの仮設住宅、民間住宅などを借り上げる「みなし住宅」に次ぐ3つ目の柱になるのか――。移動式仮設住宅の可能性を探った。

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