インタビュー |  2020.6.4

大型パネルは住宅市場全体に有効な手段 インフラ整備加速で10万棟市場に 

ウッドステーション 代表取締役社長 塩地博文 氏

大型パネルによる在来木造の工業化を推進するウッドステーションは、2018年4月の発足から3年目を迎えた。受託加工という形で、住宅事業者などから受けた設計図通りに、工場で大型パネルをつくり供給する。新しいビジネスモデルは、市場にどのようなインパクトを与えたのか。改善の余地は何か。塩地博文社長に聞いた。

ウッドステーション 代表取締役社長 塩地博文 氏

──ウッドステーションの起業から2年が経ちます。これまでの成果について教えてください。

この2年間は、大型パネルの将来性を市場に訴求する仕込みの時期だったと言えます。訴求できた点は2つあります。一つは、職人不足の対応策として大型パネルが有効な手段であるということです。一般流通する柱、梁、サッシ、金物などを一体化し、大型パネルを工場でつくることで、大工の大きな負担となっている躯体施工の負担を大幅に軽減できます。

一般流通する柱、梁、サッシ、金物などを工場で一体化した大型パネルを現場に搬送し、クレーンで吊り上げ設置していく。大工の大きな負担となっている躯体施工の負担を大幅に軽減できる

もう一つは、大型パネルのオープン性です。我々は、どのような事業者からの発注にも、どのような建築にも、受託加工という形で大型パネルの製造を請け負います。従来、こうしたビジネスモデルは、FCなどを組織化して差別化することが一般的でしたが、我々は、オープンな形で大型パネルを普及させることを選びました。住宅市場で約7割のシェアを占める在来木造を工業化する。誰もが参加できる「みんなの工業化」を推進すると宣言しています。

受注の成果については、18年が、実質稼働したのは半年程度の期間だったため50棟弱。19年が160棟と前年比3倍のペースで伸ばしました。20年は450棟の計画です。

大型パネルは住宅建築市場全体に対して有効な手段であるという手ごたえも感じています。その理由は、大型パネルのユーザーが多種多様であることです。年間十数棟の住宅を供給する地域工務店から、規格型住宅を多棟数手がけるビルダー、さらに個人業主の大工まで、発注者は様々です。建物の形状についても、一般住宅から、3階建の中大規模木造、倉庫兼事務所など様々な案件を手掛けています。北海道胆振東部地震の復興住宅の建設にも大型パネルが採用されました。20年5月から32戸の建設を行います。これだけユーザーや建物の形状がバリエーションに富んでいるのは、市場のニーズを広く満たしている証であると感じています。

──大型パネル事業を通じて、見えてきた課題は何でしょうか。

大きな課題は2つあります。一つは、大型パネルの生産体制の整備です。現状では、テクノエフアンドシーの5工場(北海道、群馬県、愛知県、岡山県、福岡県)を使用して大型パネルを製造しています。生産工場から遠いエリアに対応するには、輸送コストがかさむという課題があります。そこで19年2月に「大型パネル生産パートナー会」を発足させ、全国のプレカット事業者などを生産パートナーとして増やし、供給体制の整備を進めています。建材メーカーなどの賛助会員も含めた会員数は100社弱にまで増えています。20年3月に、生産パートナーのYKK APが東北製造所で大型パネルの試験的な製造を開始しました。そのほかにも、大型パネルの製造を検討するパートナー会員も数社出てきています。輸送費の問題の解決に直結していくと期待しています。

もう一つは、生産性の改善です。大型パネルのつくり方は、人力で対応していることも多く、ややアナログな状況にとどまっています。もっと工業化の能力を高めていかなければならない。現状では、設計図書から、人力での情報入力を行い、大型パネルの生産工程へと進みます。設計図書の情報が、ダイレクトに生産につながるように改善していきたいと、生産性の向上に重点を置き、独自の情報処理の仕組みを構築しています。生産設備の改良、進化にも取り組んでいます。

20年の大型パネルの受注計画は450棟としていますが、この水準で満足しているわけではありません。

今後、新設住宅着工数が落ち込んでいく中でも、オープン工法であり、設計の自由が高い在来木造の市場シェアは、さらに伸びていくとみています。大型パネルの生産体制の整備、生産性改善を進めることで、現場で住宅を建てるよりも、大型パネルを発注したほうが低価格で、品質の良い住宅を実現できるという環境を早急につくり出していきたいと考えています。インフラ整備を進めることで、年間10万棟以上の市場性を有していると思っています。

大手ハウスメーカーが大きな潜在顧客
要請にかなうインフラを整備

──大手ハウスメーカーからの引き合いはありますか。

大手ハウスメーカーは、大型パネルの大きな潜在顧客であると思っています。

独自の認定工法を持つ、大手ハウスメーカーの多くが、これまで在来木造の分野に進出しなかったのは、2つの背景があると考えています。一つは、市場競争の差別化要因として認定工法を持たなければいけなかったことです。「在来木造などと比べて、我々の認定工法の住宅は品質面で圧倒的に優っている」といったことが訴求ポイントになってきましたが、今や状況は大きく変わってきています。新設住宅着工が落ち込む中で、ハウスメーカーという私企業が認定工法、工場を維持していくことは、重い負担になってきていることは確かです。言い換えれば、差別化のためにかけるコストが突出して高くなってきている。認定工法による建物、ハードだけで差別化を図るのではなく、例えば定期借地権付きで販売する、といったように、もっと別の視点で差別化を図ることが求められているのではないでしょうか。

また、全国エリアをカバーする大手ハウスメーカーには、全国どこでも、同じ品質、性能の住宅を提供するために、認定工法を取得し販売を継続してきたという背景があります。しかし、品質、性能の同じ住宅を全国一律で提供していくことも、徐々に時代にそぐわなくなってきています。住宅の省エネ性能向上に向け、地域に応じた外皮性能を確保しようという流れがある中で矛盾が生じてきているのです。ハウスメーカーが、地域事情に即した形で住宅を提供できるように、生産体制を再構築しようとすれば、地域にある在来木造のインフラを活用することが一つの方向ではないでしょうか。だとすれば、近未来の大型パネルの顧客は、大手ハウスメーカーであってほしいし、ハウスメーカーからの要請にかなうインフラをつくり上げていくことが求められていると感じています。

──19年12月に、大型パネルのユーザーで構成する「みんなの会」を立ち上げました。

ユーザーとの接点を、よりフラットな形で強化していきたいと考えたからです。自由設計、自由な建物造形に対応しながら、受託加工という形で大型パネルを製造することは大前提ですが、より生産性を高めていくためには、住宅事業者などと、住宅の設計情報を共有できるところは共有し、標準化できるところは標準化していくことが必要です。かつては、大工という万能者が豊富にいて、住まいづくりから維持管理までを担ってきましたが、その大工が激減した後が問題です。設計情報の共有化、標準化を進めておかないと、住まいを維持管理、継承していくことも難しくなるでしょう。

みんなの会では、「外皮」と「納まり」に関する2つの分科会を設けています。軒の出や、棟の換気、外張り断熱をどう納めるのかといったことは、業界内で明確なコンセンサスが得られていない状況です。また、棟を寄せたり、下屋をつくる際に、断熱、通気、防水のラインの確保を現場任せにしていることも多い。そうした複雑に重なり合うディティールを地域ごとに、あるいは各社に応じて標準化できることころはないか。地域の会員同士が集まり、あるべき外皮、納まりの議論を開始しています。幸い、みんなの会には、日本全国から、各地に点在する形で参加者が増え続けています。

──起業当初から大型パネル事業を通じて、プロダクトアウト型の業界構造をマーケットイン型に変革していくということも言われています。

大型パネル事業では、先行して詳細まで網羅した設計図書を作成していきます。こうした設計情報をサプライチェーンの上流に伝達し共有することで、必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産し供給する、無駄を排除したマーケットイン型の住宅づくりに導いていけます。

特に山側への貢献は大きいと考えています。18年にウッドステーションの起業と並行して、早稲田大学の高口洋人教授、製材事業者、金融機関などとともに「仮想木材研究会」を立ち上げ、住宅建築で使用される木材のサプライチェーンの研究を行いました。1年にわたる研究の成果として分かったことは、住宅建築における木材の歩留まりは、3割を切っているということです。製材所やプレカット工場、建築現場などで、7割の木材が廃棄またはバイオマス燃料になり、実際に建築材料として使われているは3割程度なのです。この数字は、製材、プレカット、山の在り方などを根本的に見直していかなければないことを示していると考えています。外材などを含めた木材の市場価格がある中で、国産材の競争力を保つには、山側から安く買うしかありません。近年、国産材の需要は上がっているにもかかわらず、原木価格の値下がりが続いています。結果、山側には利益は還元されず、山の管理、再造林なども十分にできない。大型パネルの設計情報、木材の加工情報を山側と共有することで、無駄な伐採、製材などをなくし、木材を高く買い取ることが可能になります。設計の初期段階で、詳細な木材の加工データを補足し、活用するだけで抜本的な改善効果が期待できるのです。

工事の長期化でリスク増大求められる「ファスト建築」

──新型コロナの感染拡大により、工事の中断や営業自粛など、住宅建築業界にも大きな影響が出ています。

今回のコロナ感染拡大の事態に直面して、工事が長期化するほど、リスクが残り続けることがはっきり分かりました。できる限り、工期を短くして発注者に引き渡していくことが大事なポイントになります。「後で決めればいい」といったあいまいな状態で工事を進めることは、手戻り、発注ミスが起こりやすくなり、工事がストップするリスクを高めます。残念ながら建築現場で、新型コロナへの罹患が発生するケースも出ました。事業者には、現場で働く職人の健康リスク管理が、これまで以上に求められるでしょう。

一方、前述したように、大型パネル事業では、先行して詳細まで網羅した設計図書を作成します。1日で上棟、サッシ、断熱、防水工事および防犯対策まで完了します。感染リスクを高める「3密」を回避できるように、工程を組み直すことも容易にできます。素早く建築をつくる「ファスト建築」、つまり、大型パネルを時代が求めていることを再認識しました。

(聞き手=沖永篤郎)


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ハウジング・トリビューン Vol.602(2020年13号)

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