オピニオン |  2020.2.20

消費増税後の住宅需要

佐藤聡彦氏/佐藤益弘氏

住宅産業に関わる様々なテーマを取り上げ、業界内外の一線で活躍するトップランナーや有識者などが、独自に視点で分析、解説、提言する場「Agora」。
第7回のテーマは消費増税後の住宅需要。


軽減税率導入など大胆な住宅支援策を

矢野経済研究所 生活・サービス産業ユニット
ヤノ・レポート編集部 上級研究員
佐藤聡彦氏

住宅メーカーの受注が落ち込んでいますが、予想していた以上に10%という消費税率が住宅購入に大きなハードルとなっています。3000万円だとすれば300万円。8%時より60万円増えたわけです。その分を住宅ローン控除の期間延長や次世代住宅ポイントでカバーする支援策を国は用意し、それで大丈夫と楽観していたのかもしれません。

例えば、省エネ設備を付けようとしても、標準仕様でなければ、その分の代金は住宅価格に反映されます。一部住宅メーカーのように太陽光パネルを搭載すると光熱費がいくら減るなど、明確なメリットを訴えなければ、消費者の食指は動きません。国がいくら省エネの方向に誘導しようとしても、最終的にお金を払うのは消費者です。導入することによる経済的なメリットを十分伝えられていないと思います。

住宅政策を考える人と購入する人の価値観が違うわけです。よっぽどの環境運動家や環境にお金を掛けられるお金持ちであれば、環境にお金をかけるかもしれませんが、住宅購入のボリュームゾーンは、そこにお金をかけられないのではないでしょうか。増税後、特に大手住宅メーカーが苦戦している背景には、住宅購入のボリュームゾーンへのメッセージが足りていなかったように思います。ここへきてセカンドブランドを出す住宅メーカーもでてきているのは、その意識の表れだと思います。アッパーミドルなど自社の得意な顧客層を維持したまま、新たな購買層を開拓するビジネスモデルが今後広がるかもしれません。

一部では賞与が上がるなど所得が増えている人もいます。従来ならば、高額所得者が大手住宅メーカーで注文住宅を建てていたのですが、昨年は今ひとつだったのではないでしょうか。高額所得者は住宅ローン税制の恩恵を最大限受けられるわけですが、昨年は働き方改革や老後2000万円問題などが浮上し、住宅購入に心理的なブレーキをかけました。さらに、東京五輪・パラリンピック終了後、景気が悪くなるといった声も相次ぎ、そこへきて好業績だけど、リストラを打ち出す企業も出始めています。

住宅購入にとって追い風にならない、風があちこちで吹いています。

だからと言って、リーマンショック級の不景気も今のところはなく、住宅需要の落ち込みは一時的なものです。住宅メーカーは、一時的な需要の落ち込みにうろたえず、どっしり構えるべきです。複数の購買層に応じた商品を投入し、消費を刺激すれば、需要は戻ってきます。

住宅は社会のインフラです。そして住宅需要の動向で経済が左右されます。今回の増税への支援策は、過去の政策を上回るものでしたが、消費刺激は限定的でした。例えば次世代住宅ポイントでは100万円を超える規模にしたり、軽減税率を導入したり、大胆さが政策には必要です。

変化する人生設計に対応した住宅提案が必用

優益FPオフィス 代表取締役
ライフプランFPC® 住宅ローンアドバイザー
佐藤益弘氏

ネット社会の進展で、自分の欲しい情報をつまみ食いする消費者が増えています。例えば、小学校にあがる子どもを持つ家族からすると、教育を重視するので「学区」を住宅選びの優先順位として上位に置きます。家族のライフスタイルによって、家を選ぶポイントが変わってくるのが最近の傾向です。

最近では共働き世帯も多いため、最寄り駅から近いなど利便性の高いマンションが人気ですが、これもライフスタイルをベースに家を選んでいるからです。もっとも、いい物件は価格が高く、今の住宅の価格帯は「高い」か「安い」かしかなく、中間的な価格の住宅があまりありません。

消費増税後も住宅購入を希望している人は一定程度います。ただ、今の消費者は欲しい情報を自ら集め、欲しい住宅に対するイメージがあります。そのイメージに合った価格帯の住宅が多くなく、結果的に着工数が伸び悩んでいると思います。

また、人生設計も変わってきています。人生100年時代と言われる中、これまで高齢者とされてきた65歳以上の人も働くようになっています。今後、年金も70歳徐々に75歳から受給することになれば、それまで働くことになるため、住宅購入のタイミングも変わってきます。消費増税の反動減対策として導入された次世代住宅ポイントをはじめとした支援策は、従前の一次取得者の中心となる30、40代をメインに考えており、人生設計が変わってきている点を考慮しておらず、住宅購入希望者への刺さり方が弱いのだと思います。

昨年の台風など近年激甚化している自然災害も住宅購入の意欲を下げています。これもネット社会の進展で、消費者自らがハザードマップなどを見ながら、被害の可能性などを勉強しています。自分が家を建てる場所での水害はどうなのか。地震はどうなのか。こうした不安解消への対応が不十分な住宅メーカーも、まだまだあります。消費者が望む情報を、先に先に提供することが今は求められています。

人口減少や高齢化から、コンパクトシティが注目されています。エキチカは都心の利点ですが、地方でも鉄道の駅から遠い地域であっても、病院や商業施設など地域のコミュニティー拠点となる場所があれば、住宅地として人気があります。働き方が変わり、テレワークなどが普及すれば、暮らす場所の選択肢が広がり、住宅を購入しようと考える人も増えるはずです。もっともこれからの住宅所有者は、住まいの管理も意識しなければなりません。空き家や不明土地などの問題が深刻化し、新耐震基準ができて40年近く経つことから、これまでのように家を建てて住宅ローンを払ったらおしまいというわけにはいきません。

建てた家の価値をどう保たせるのか。住宅メーカーに求められる大きなテーマの1つだと思います。

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特集:

エリアマネジメントが鍵に

新型コロナ禍で広がったテレワーク。
このテレワークが住まい手の居住するエリアの昼間人口を押し上げ、“地元”に目を向ける動きが出ている。完全テレワークとなれば、通勤を意識せず、好きな場所で暮らすというケースも増えるが、それはまだまだ先の話だ。
ただ、確実にテレワークを業務形態の一部として組み込む企業は増加。
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一方で、ランチ難民などの言葉も生まれた。
エリアマネジメントを通じて、“地元”を活性化する、街づくりのヒントを探る。

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