2019.11.27

住友林業 木造3階建て新研究棟 つくば市に完成

独自技術使い、「W350計画」実現に弾み

住友林業が茨城県の筑波研究所で建設を進めていた新研究棟が完成した。新研究棟は同社の構想する「W350計画」の研究拠点となる。市川晃社長は「W350計画実現の第一歩」と期待を込めた。


「W350計画」とは、同社が創業から350周年を迎える2041年を目標に高さ350mの木造超高層建築物を中核とした環境木化都市の実現を目指す研究技術開発構想。新研究棟の完成により、研究技術開発にさらに弾みがつく。新研究棟は「W350計画」の要素技術となる構造で建てられるなど、実証実験の役割を果たす。木造3階建て、準耐火構造、延床面積2532.67平方メートルで、敷地内の整備も含めた総事業費は約25億円。木材の使用量は、壁柱のLVL(単板積層材)で500平方メートルの他、柱・梁の集成材で252平方メートル、床のCLT直交集成板)で235平方メートルの計987平方メートルに上る。建物の高さは15m超あり、「通常の階高では5階建クラス」(同社)。CO2の固定量に換算すると689tの削減につながるという。

新研究棟の壁柱は、縦横1200mm、厚さ300mmのLVLのブロックを縦方向に市松状に積み上げ、その中に鋼棒を貫き水平力に抵抗するポストテンション技術のオリジナル構造を採用した。

ポストテンション構造とは、耐力部材に通した高強度の鋼棒やワイヤーロープに引張力を与えることで部材間の固定度を高める技術を使ったもの。一般的なRC造や鉄骨造は、大地震の際、部材が降伏してしまうと、倒壊を免れても建替えが必要に。この木造ポストテンション構造だと、交換可能なエネルギー吸収部材に損傷を集中させることで、限界を超えた被害にあっても最小限の修復・部材交換で耐震性の回復が可能という。木造で不足しがちな剛性を補い、地震への強さと復元力の高さを実現するために採用した。同社は、このポストテンション技術を木造超高層建築物へも適用していく考えだ。

同社は「W350計画」実現に向けたロードマップを作成しており、高さ30mの「W30」の実現を2021年に掲げている。今回の新研究棟の完成で手応えを掴んだ同社。現在、8階までを対象にポストテンション技術などを使ったオリジナルの設計ツールを開発中で、今後設計者に向けて提供していく考えだ。同社は「W350計画を一歩一歩実現していく」と強調する。

新研究棟の外見
LVL のブロックを縦方向に市松状に積み上げ、ポストテンション技術のオリジナル構造を採用
緑化の検証も行っている
吹き抜けに集めた熱で上昇気流を発生させ、排気窓から換気を促す

住宅設計で培った自然通風も採用

新研究棟は、「涼温房(自然通風)」によるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化も計画。同社は住宅設計の際に、風や太陽、緑といった自然を生かし、夏のそよ風や冬の陽だまりのような心地よさを生み出す「涼温暖」と呼ばれる手法を用いており、新研究棟にも採用した。中央部は吹き抜けとなっており、その最上部に排気窓(スウインドウ)を設置。吹き抜けに集めた熱で上昇気流を発生させ、排気窓から換気を促す断面構造なっている。さらに、非結像光学技術を利用した、オリジナルの採光ルーバーも導入。どの季節でも光が建物内に入るよう、角度なども調整しながら「年間を通して、室内照度をおおむね500lx以上確保できる」と同社は説明する。

「W350計画」実現に向け、新研究棟では特殊緑化やオフィス緑化の実験・検証も行う。新研究棟の屋上に設けたテラスでは、漏水、風による倒木や枝葉の飛散対策として、防水処理方法や植物の固定方法などを検証。新研究棟の建物の外に設置したレインズガーデンでは、都市型水害の対策として、雨水の流出量コントロールを調べる。室内緑化では、コンクリート層を設けた人工地盤と、土壌に直接直結した地盤上の植物の育成を比べることで、屋内緑化により適した地盤構造も検証している。

また、国内で初めて、木造建築物での全館避難安全検証法の大臣認定を取得した。

新研究棟は1階に大空間のギャラリー、2階には140人が収容できる執務室がある。執務室では、多様な働き方に対応し、自席以外の集中スペースや開放的なミーティングラウンジ、フリーアドレス対応レイアウトなどを用意している。

住友林業 市川晃社長の話

市川社長

研究所は1991年に19人でスタート。今は100人を超え、いろいろな分野から事業を支えている。木は人がきめ細かく管理し、手を入れればサステナブルだ。いかに木の付加価値を付けていくかを根底に考え、これを引っ張っていくのが研究所の役割。W350のスタートとなる環境確認につとめていく。たくさんの人の知恵を携えながら、木の付加価値を高めていく。