2019.7.24

〈住宅言論広場Agora〉「大工を増やすためには」 

藤本工務店 代表(大工志塾講師) 藤本嶺 氏/杢巧舎 大工 髙橋諒子 氏

インターネットの普及により5年で刻みのできる大工に

藤本工務店 代表(大工志塾講師) 藤本嶺 氏

大工になって11年目。神奈川県横須賀市の山で、自然の中で育ちました。大工になりたいと思ったのは、近所で家族ぐるみで付き合っていた大工さんに憧れたのがきっかけでした。

高校を卒業して入ったのが今の「大工志塾」の前身「大工育成塾」でした。私は、ここの7期生。そこを卒業して大工修行に入ったのですが、当時の給料は、週1回の休みでひと月4万円。3年までは8万円で、4年目からやっと日当1万円に。大工は腕が付くまで使い者にならないのは事実ですが、今は、そんなことをしていたら誰も入ってきません。

私は「大工志塾」で若手大工に規矩術を教えています。若い人を増やすためには待遇面は重要です。2017年3月に工務店をもう一人の仲間と一緒に立ち上げました。弟子が4人いますが、月18万円以上、正社員で社会保険、厚生年金、雇用保険全て完備しています。

創業から3年目ですが、昨年は黒字になりました。私らのような手仕事をする大工は、数が少ないため結構忙しく、来年まで仕事も埋まっています。リフォームの時代になっている今、マニュアル通りでしか家を建てられない大工は、いずれ仕事がなくなってきます。

弟子の一人は、これまで建売を手掛けていたのですが、「刻みのできる大工になりたい」とうちに来ました。

日本の大工は世界的にも評価を受けています。毎年、世界のいろいろなところから日本の建築物を見に来てくれます。それを作ってきたのが大工であり、今後もそうした建築物を海外の人々に見てもらい続けるためには、修繕が必要です。大工の技術を身につけなければ、こうした伝統は守れません。刻みができることによって大工の可能性がどんどん広がり、やりがいも高まっていきます。そうならないと、それこそ仕事をロボットに取られてしまう恐れもあります。

国が国産材の活用を推進している点も、私たちには追い風になっています。国産材の利用が増えれば、必ず木を見極める技術が必要になってきます。

昔は大工で一人前になるまで、10年、15年かかると言われていました。背中で覚えろ、みたいなところもありました。今は、若い弟子が続かなければ雇う側に責任があると思います。

インターネットで調べればある程度のことは分かるし、大工の動画もいっぱいあります。こうした情報を活用すれば、5年ぐらいで刻みのできる一人前の大工になると思っています。もちろん、30年やっている人との経験の差はありますが、家づくりに対しては、それほど大きな問題ではありません。

今、日本の伝統的な技術を学びたいと、オーストラリアから来た外国人も弟子として受け入れています。手仕事のできる大工への関心は間違いなく高まっています。


“カッコいい”大工女子に
気軽な情報受発信の場を

杢巧舎 大工 髙橋諒子 氏

カッコいい。テレビ番組「ビフォーアフター」で、家を作っている大工さんの姿を見て、大工になろうと思いました。

大工の修行は厳しいと言われますが、その通りだと思います。しかし、昔のような丁稚奉公のような環境はありません。ただ、そういう環境だったからこそ、昔は「早くここから抜け出し、見返したい」という部分があったかもしれません。今は、そういう環境にない分、自分が高い意識を持ち続けなければ、技術の上達につながらないかもしれません。

親方が一対一で教えてくれ、意欲があれば、どんどん学べる環境にあります。家を建てるときは仲間内の大工さんや職人さんを呼び合うのですが、ここも勉強の場になります。

私は23歳で、大工としては2年目ですが、やりがいをとても感じています。若い人がどんどん入ってくるような業種になってほしいのですねが、「伝統工法は何か」とか「手刻みって何か」とか、大工に関心を持つための、そもそもの情報が少ないですね。若い人が気軽に情報受発信のできる場があれば、大工を含め職人に対する関心は高まると思います。

現在、大工をしている杢巧舎はインターネットで見つけました。インターンシップで仕事体験をさせてもらったことで、北海道から神奈川への移住も決意できました。若い人にとって、仕事や職場のミスマッチを防ぐためには、こうしたインターンシップの受け入れも大事ですね。

私のような女性大工は国内でわずかだと聞きます。もっと女性が入りやすくなるために、トイレや更衣室などを整備する必要があります。子どもが生まれた際のケアも大切ですね。結婚して、「はい終わり」ではなく、そこからずっと続けられる職場が工務店でも、これから求められると思います。

2年間大工をしていて感じるのは、家を作るのに大きなお金が動くにもかかわらず、経済的に大工さんは厳しい状況にあることも少なくないことです。朝早くから夜遅くまで頑張っても残るものが少ないとなると、大工ってやっぱりちょっとな、となる人もいます。

作業場を維持するためのコストなど、実は家を買うお客さんからは見えない部分が、数多くあります。お客さんと一対一で向き合っている工務店側からは、なかなか言い出せません。

家が建つまでの背景にはどんなことがあるのか。材木になる前の木でも、どれだけの人がそれを育てるまでに関わっているのか。こうしたことも知ってもらったうえで、家づくりに参加してもらいたいですね。

一人前の大工になるには、親方からは10年かかると言われていますが、早くひとり立ちできるよう研鑽していきます。その間に、女性が一人でも多く大工に関心を持ってもらえるような情報を発信していきます。女性が働きやすい環境整備を行政などが積極的に取組んでくれることを望みます。