2019.5.22

〈住宅言論広場Agora〉「生産の合理化」

(一社)JBN・全国工務店協会 会長 大野年司 氏/伊礼智設計室 建築家 伊礼智 氏

大工育成と生産合理化を両輪でどんな建物にも対応する大工を

(一社)JBN・全国工務店協会 会長 大野年司氏

木造住宅の現場施工を担う大工職人の減少傾向が続いています。高齢化が進む一方で、若年層の入職者が減っており、今後、大工不足が深刻化していく懸念があります。こうした中でJBNでは、大工の社員化などで魅力ある職場環境づくりを目指し、福利厚生を充実させ、将来も安心して働き続けられる環境を創出していこうと会員の工務店に提案しています。工務店にとって経済的負担は増えるため、すぐに社員化することは難しいことも事実ですが、長い目で見れば、工務店経営を安定、発展させることは確かです。社員化に成功した事例その他を集め、情報発信し共有する取り組みを進めています。

時代の変化に沿い住宅生産は進化
合理化できるところは合理化を

大工育成と両輪で生産合理化も進めていく必要があります。在来木造住宅の生産の形は常に進化してきました。戦後の電動工具の発達で、生産性は格段に上がりました。また、熟練した大工の技に頼っていた仕口や継手などの刻みも、コンピューター制御のプレカット工場で精度の高いものが簡単にできるようなりました。これからも木造住宅の生産の形はさらに進化していくでしょう。時代の変化に沿って合理化できるところは合理化していくべきだと考えます。ここにきて注目しているのは、ウッドステーションが提供する大型パネルです。工場で、柱、梁、断熱材、サッシなどを組み込み、現場に搬入し組み立てる。現場作業の省力化に寄与します。建て方、戸締りまで完了させ、後は造作大工が入ればいいという状態で引き渡してくれます。この部材を使わなければならないといった縛りがないことも使いやすい。多くの工務店が使うようになれば、大型パネルの製造効率も上がりコスト低減効果が期待できます。その合理化メリットを還元することで、お客さまにも喜んでもらえるのではないでしょうか。2×4住宅では、生産の担い手として、フレーマーと仕上げ大工に明確に分かれていますが、在来木造でも同じように、生産の担い手が明確に分かれていくのかもしれません。在来木造の建て方などの力仕事を難しいと考え、自信を無くす若い大工がいることも事実ですが、大型パネルによる合理的で汎用的な建て方が普及していけば、「大工の世界に一歩踏み出してみよう」という若い方が増えていくことも期待できます。

一方で、生産性だけを求めればいいというわけではありません。我々が忘れてはいけないことは、地域に必要とされる組織、工務店であるということです。生産性を上げる努力と同時に、大工としての基本(墨付け、和室造作、階段、鉋かけ)は教えなければいけません。既存住宅の維持管理や、茶室、数奇屋住宅など、日本独自の住文化を残すためにも必須です。目先の利を求めて大切なものを失っては国家の損失です。どんな建物にもしっかりと対応できる大工を育てていくことは、とても大切なことと考えています。


今の時代の優れた道具を使いこなし
日本の伝統や文化にあった家を

伊礼智設計室 建築家 伊礼智 氏

昨年の夏は非常に暑く、現場で働く方たちにとって厳しい環境でした。実際、ある工務店の方が嘆いていましたが、猛暑のなかで大工さんのパフォーマンスが4割程度に落ちたそうです。昨年だけが特別ではなく、今後、毎年、同じような状況になるのではないでしょうか。

私は、建設現場に仮設でエアコンをつけたら良いと思いますし、実際にエアコンを入れて働いている現場もあるようです。しかし、根性論でダメという方も多いですね。

色々な点から現場の働き方改革が求められています。

私は、ウッドステーションが進めている大型パネルのプロジェクトにかかわっています。

パネル化は、一般的な設計者や伝統的な在来軸組住宅を手掛ける工務店には強い反発があると思います。

パネル化により大工の仕事が減る、伝統的な日本の家づくりの良いところがなくなってしまう、といった懸念です。

パネル工法というと2×4住宅やハウスメーカーというイメージがありますが、ウッドステーションでは2×4材だけでなく集成材、無垢材でもパネル工法をできるようにしました。先に早稲田大学でこの大型パネルの建て方実験を行いましたが、これは無垢材を使い、一部現しの住宅です。

現場の作業を工場に外注すれば大工の仕事が減りますが、自分たちでパネルをつくればよいのです。年配の大工には工場のなかで腕を振るってもらい、現場で組みあがった安全な状態のなかで、天気に左右されず、暑い・寒いという思いをせずに働くことができる。必ずしも職人の仕事を奪うということはないと思います。

職人不足、コスト…
パネル工法は嫌でも伸びていく

今、職人不足が深刻になり、地域によっては本当に職人がいない。少子化が大きな理由でしょうが、とにかく職人の給与が安すぎ、なり手がどんどん減っています。しかし、給料を上げて休みも増やしてと、国が言う働き方改革をまともに行ったら、今の価格ではとてもできません。

そういう面も含め、今後、パネル工法は嫌でも伸びていくと思います。

そしてパネル工法が伸びていくのであれば、いち早くかかわって、日本の伝統や文化にあったパネル住宅、職人技が活かせる工法を作り上げられたらいいですね。

伝統工法など技術を持つ大工さんは昔ながらの家づくりにこだわります。それは選択肢という点からも望ましいし、是非、頑張っていただきたい。

しかし、今の時代の良いものは活かすべきだと思います。コンピューターも含めて今の時代の優れた道具を使いこなしながらも、伝統的な職人技を活かした家を一緒につくれればいいなと思います。