2019.5.8

【トップインタビュー】東急不動産グループ2社で社長交代

成長の中心「ストック事業」を加速

東急不動産グループは、東急リバブルと東急住宅リースの社長交代を行った。グループのストック事業を担う2社のトップに、「現場感覚」のある人材を登用することで、成長分野であるストック事業の拡大を加速させる。

東急不動産グループの経営陣。左から、東急リバブルの太田陽一社長、東急不動産ホールディングスの大隈郁仁社長、東急住宅リースの三木克志社長

──東急不動産ホールディングスの大隈社長にお聞きします。今回、グループ2社のトップを交代した理由を教えてください。

東急不動産HD・大隈社長 現在、東急不動産グループは2017年から2020年までの中期経営計画に沿って事業を進めていますが、その中で成長戦略の中心である「ストック事業」を担うのが、東急リバブルと東急住宅リースの2社です。

中期経営計画は今年4月で折り返し地点を迎えましたが、両社は計画を上回る順調な業績を上げています。一方で、マーケットには少し天井感が出てきました。こうしたなかで、マーケットの動きを先取りし中期経営計画の後半も計画を上回る業績を上げるため、“現場感覚”のある2人を新社長に指名しました。

東急リバブルの太田新社長は、東急リバブルの中で現場及びスタッフの経験があります。2013年10月に東急不動産グループはホールディングス化しましたが、その時、私は東急不動産の経営企画に、太田新社長は東急リバブルの経営企画におり、グループの今後の方向性について様々な議論をしました。

東急住宅リースの三木新社長は私と同期で、東急リバブルのホール及びリテールの両方を経験しています。東急リバブルを不動産仲介会社の大手に持ち上げたのは、三木新社長の功績が大きいと考えています。

東急リバブル代表取締役社長
太田陽一(おおたよういち)
1960年生まれ58才。東京都出身。1983年3月早稲田大学法学部卒業、4月東急不動産入社。1995年4月東急リバブル出向。2007年4月同社経営管理本部経営企画部長。2010年4月同社執行役員。2012年4月同社流通事業本部副本部長、6月同社取締役執行役員。2014年4月同社取締役常務執行役員、10月同社関西支社長。2018年4月同社経営管理本 部長。2019年4月同社代表取締役社長。趣味は水泳、音楽演奏
東急住宅リース代表取締役社長 
三木克志(みきかつし)
1959年59才。神奈川県出身。1982年3月早稲田大学政治経済学部卒業、4月東急不動産入社。1995年4月東急リバブル出向。2002年4月同社関西支社事業推進部長。2004年4月同社ソリューション事業本部事業企画部長。2007年4月同社執行役員。2009年6月同社取締役執行役員。2012年4月同社取締役常務執行役員流通事業本部長。2014年4月同社取締役専務執行役員。2018年4月同社取締役副社長執行役員。2019年4月東急住宅リース代表取締役社長。趣味は散歩、読書

──新社長から就任の抱負をお願いします。

東急リバブル・太田新社長(以下、太田) 人生の3分の2にあたる24年間を東急リバブルで過ごしてきました。新築販売、人事、経営企画、首都圏の売買仲介、関西支社長、直近は経営管理本部の本部長と、事業部門・スタッフ部門を広く経験したことで、現場の社員の顔をよく知り、視点に偏りがないことが強みだと思っています。

新社長就任にあたり、「お客様の評価」「事業競争力」「働きがい」の3つでナンバーワンを獲得したいと思います。中でも働きがいについては、社員皆が、一つの方向を向くようにし、他社にはない私たちの強みにしていきたいと考えています。東急住宅リース・三木新社長(以下、三木) サラリーマン生活の大半を東急リバブルの不動産仲介の現場で過ごしてきました。不動産仲介の現場は、人が力を発揮できるかどうか、この一点に掛かります。そのような現場での経験に基づき、私が新社長就任にあたり大事にしたいことは大きく3つ。一つ目は「信頼」です。上司と部下、会社が互いに信頼できる関係づくりを行うことが最も重要だと思います。二つ目は「成長」。弊社は人が中心の組織ですので、人が成長することで、事業が成長することを実感しています。

三つ目は「創造」。仕事や会社は伝統的な価値観に基づいたものですが、社会の変化や技術の革新を取り込むことで、提供するサービスを変えていくことが必要だと思っています。

──それぞれの事業分野の現状認識を教えてください。

太田 現状、不動産ストックマーケットは透明だとは言えません。実需は底堅いですが、融資環境のリスクは多少感じています。その中で、環境の変化に柔軟に対応していきたいと思います。弊社はリテール、ホールセール、賃貸仲介、不動産販売など、多くの事業を行っていますので、その時々で強みを出せる事業に力を入れていきたいと思います。そのためには、人の育成と環境に耐える能力が生命線だと考えています。

三木 賃貸管理マーケットは、堅調で賃料水準は着実に伸長しています。ただし、賃料水準は必ずしもこれから先も伸長していくとは限らないでしょう。

賃貸管理業は、古くからある伝統的な業界です。しかし、その労働集約的な環境の中で、IoTやAIを導入し業務を効率化し、その余力でいかに貸主・借主にメリットを与えられるかが重要になると思います。

東急リバブルは、賃貸マンションへのIoT 機器の導入を今後も積極的に行っていく。画像は東京都大田区の賃貸マンション「ラクラス蒲田」に導入した顔認証システム

──不動産ストック市場の展望について教えてください。

太田 不動産テックが新たな動きの一つになるでしょう。弊社でもIoTやAIを活用したサービスの開発に取り組み始めています。例えば、AIが消費者の好みを学習し、オススメの間取りを提案するなどのサービスを提供しています。

三木 弊社でも、いくつかのチャレンジをしています。申し込みや契約をウェブ上でできるようにし、ペーパーレス化を進めています。また、RPA(ロボット・プロセス・オートメーション)を導入し、約15万時間分の事務作業の削減も図っています。今後は不動産テックのベンチャー企業との連携も強く視野に入れながら、取り組みを進めていきたいと考えています。

──一方、ライフスタイルの多様化に伴い、住まい方も変化しています。

太田 変化する住まい方への対応が、今後の事業を考えるうえで最も重要だと認識しています。都心部はアッパーミドルの一人暮らしが増え、コンパクトマンション市場が相当動いています。これからは、こうした暮らしの変化に合わせた提案が要求されます。また、消費者のキャッシュフローに合わせ、売買だけでなく、賃貸も組み合わせて提案することも重要になるでしょう。

三木 私もとにかく住まい方の変化に対応していく必要があると思っています。これまでは、駅からの距離や設備の良し悪しなどが不動産の価値の大部分を占めていました。しかし、人口減少、少子高齢化、単身世帯増加、ライフスタイルの多様化などで、従来の不動産の価値観では対応しきれなくなっています。

特に、ライフスタイルの多様化という点では、定住先を持たず複数拠点を回遊するマルチハビテーションなどの暮らし方に対応する新たな賃貸サービスがベンチャー企業から出てきています。私どもでもこうした“エッジの立った”サービスを提供していきたいと考えており、ベンチャー企業との連携も含めて検討していく方針です。