2019.1.11

日本住環境、軒ゼロ住宅のケラバに対応した通気部材を開発

コンパクトな形状と高い防水性能を両立

日本住環境(東京都台東区、林容社長)は、漏水・結露リスクが高い、軒ゼロ住宅のケラバ(屋根の端の部分で雨樋が付いていない側)に対応した通気部材「SEV‐15」、を開発し、全国販売を開始した。コンパクトな形状と高い防水性能を両立、抜群の施工性も発揮する。軒ゼロ住宅などの外観にマッチし、長寿命化に寄与する通気部材として販売を強化していきたい考えだ。

近年、木造住宅を中心として漏水・結露事故のリスクが高まってきている。住宅の高気密化が進むことで、一度、壁体内に水分が浸入すると抜けにくくなる。その水分が壁体内にとどまることで躯体を腐らせる恐れがある。

中でも注意が必要なのが、軒の出が少ない、いわゆる「軒ゼロ」と呼ばれる住宅だ。

軒の出を少なくすることで、屋根、壁全面に直接雨風がかかり漏水・結露事故のリスクを高める。もともと軒ゼロ住宅は、都市部などで「狭小地に建てるためやむを得ず」という理由で増えてきたが、ここにきて新たなトレンドが生まれてきている。

近年、目立つのは太陽光発電の設置パネルに伴うもの。できるだけ多くの太陽光発電パネルを設置し発電効率を高めるため、敷地面積ぎりぎりまで屋根と躯体を確保し、片流れ屋根を採用する。結果として軒ゼロ住宅になるケースが増えている。

さらに言えば、こうした太陽光発電パネルを搭載する軒ゼロ住宅では、片流れ屋根が採用されるケースが多い。限られたスペースにできる限り太陽光発電パネルを載せ、発電効率を高めるためには、切妻屋根や寄棟よりも、片流れ屋根の方が適しているためだ。

コストダウンを図るという目的でも、片流れ屋根を採用したシンプルなデザインの住宅の人気も高まっている。緩勾配の片流れ屋根であるため外壁材の接地面積を減らすことができ、切妻屋根の住宅などに比べて建設コストを抑制できる。

さらに、屋根材メーカーの関係者からは、居住空間を大きく確保しやすくなるという理由で、緩勾配の片流れ屋根の採用増加に影響しているという声も聞く。

加えて、若年世代の間では、片流れ屋根を採用したよりシンプルなデザインの軒ゼロ住宅が支持を集めているようだ。

住宅金融支援機構がまとめた2017年度版の【フラット35】住宅仕様実態調査を見ると、屋根形状のシェアについては、切妻屋根や寄棟が前回調査からシェアを落とす一方で、片流れがシェアを伸ばしていることが分かる。

切妻屋根は7.3ポイント減少し40.7%、寄棟は4.5ポイント減少し13.2%。一方、片流れは11.3ポイント増加し30.5%となった。

都市部などで増加する軒ゼロ住宅だが、全面に直接雨風がかかり、漏水・結露事故発生のリスクは高まる

軒ゼロ住宅の増加でケラバの通気確保が課題に

漏水・結露リスクが高い軒ゼロ住宅において、とくに注意が必要なのがケラバ(屋根の端の部分で、雨樋が付いていない側)と呼ばれる箇所の、屋根と外壁の取り合い部だ。

従来のケラバの処理方法では、十分に防水性能、通気性能を確保することが難しいという。

従来のケラバの処理方法は大きく2つある。1つは、サイディングと屋根の野地板を直接合わせてシーリング材で処理する方法。しかし、通気層を閉じてしまうため、一度、漏水・結露が発生すれば、壁体内に雨水が留まり躯体を腐らせるリスクが高まる。

また、サイディングメーカーが用意する、サイディングに差し込むタイプの鋼板製の通気見切り部材を使用するケースも多いが、この場合も、開口部面積が小さく十分な換気量を確保しにくいという懸念があるほか、構造上、漏水・結露が発生するリスクも皆無ではない。

通常、屋根と外壁の取り合い部の最上段のサイディングについては、接合部のさね部分の余裕を考慮し、若干短めにサイディングをカットする。そのため、差し込み型の通気見切り部材と、屋根の野地板との間に隙間が生じやすく、そこから雨水が浸入しやすくなる。シーリング処理を施すのも容易ではない。

さらに、強い風雨にさらされると、差し込み部分から漏水するリスクも高まるという。

外壁工事事業者の要望に応え
ケラバ対応通気部材開発に着手

日本住環境は、「軒ゼロ住宅のケラバ付近で、漏水・結露に関する事故が発生しても、漏水による事故なのか、結露による事故なのか原因を究明することは難しく、原因究明に半年から1年ほどの時間を要することも珍しくない。外壁工事事業者から『軒ゼロ住宅のケラバに対応した通気部材を開発してほしい』という要望が高まってきている」と話す。

こうした要望に応え、同社は約4年前に軒ゼロ住宅のケラバに対応した通気部材のプロトタイプとして「SEV‐18」を開発した。ガルバリウム鋼板を成形したシンプルな箱型の形状を採用し、通気を確保するための開口部にも工夫を凝らした。単に開口を開けるだけでなく、切り起こし加工を施すことで、高いレベルで防水性能と通気性能を確保した。

さらに、製品内部にハニカム構造の樹脂製部材を搭載。ストローのような微細な空洞が無数にあるハニカム構造によって、雨水が浸入してきても表面張力によって内部に入ることを防止し、一方で微細な空洞から空気が出入りする構造になっている。

加えて、樹脂製部材の通気層の途中に、フィルターの役割を果たす不織布を入れることで、より微細なパウダースノーなどの浸入を防ぐ機能も持たせた。

抜群の施工性も備えている。サイディングに差し込むタイプではなく、屋根の野地板に直接、箱型の通気部材を合わせ、胴縁に釘打ちして固定し、その後、サイディングを施工し、シーリング材を処理して施工完了となる。

「施工者を選ばず、誰が施工しても均一な性能を発揮する・外壁工事事業者はもちろん大工でも簡単に施工できる。評判は非常にいい」(同社)。

軒ゼロ住宅の水下側の軒先には通気部材としてジャストサイズで納まる。さらに、北海道などで普及するフラットルーフの軒先ではパウダースノーなどの浸入を防げるため、こうした用途で提案を強化。外壁工事事業者からの要望に応えるマーケットイン商品として販売実績を伸ばしている。

通気性能、防水性能の両立を図った通気部材「SEV-18」
簡単施工を実現し、施工者を選ばず、均一な性
能を発揮する
「SEV-18」の特性を引き継ぎ、よりコンパクトに改良した通気部材「SEV-15」
軒ゼロ住宅のケラバにもスッキリと納まる

よりコンパクトに改良
防水性能の確保に試行錯誤

しかし、優れた通気性能、防水性能、施工性を備えていながら、「SEV‐18」は、軒ゼロ住宅のケラバに対応する通気部材としてはサイズが大きすぎるため不向きだった。通常、軒ゼロ住宅では、屋根の野地板の出幅は約20~30㍉であるのに対して、実際に「SEV‐18」を設置すると、出幅が約40㍉となり、通気部材がはみ出し、住宅外観を損ねてしまう。

同社では、「SEV‐18」に改良を加え、形状をひとまわり小さくした「SEV‐15」を開発、軒ゼロ住宅のケラバに対応する通気部材の製品化にも成功した。「SEV‐18」を単にコンパクト化しただけでは、十分な防水性能を確保できず、「SEV‐15」を製品化するまでに1年ほど試行錯誤を要した。

ガルバリウム鋼板を成形したシンプルな箱型の形状を採用し、製品内部にハニカム構造の樹脂製部材(不織布は不採用)を搭載することなどは同じだが、切り起こし加工を施した開口のサイズをより小さくして抵抗を増やすなど工夫を重ね防水性能を高めた。同社が所属する屋根換気メーカー協会が定める、防水性能の規準もクリアすることも確認した。

コンパクト化したことで、軒の出の少ないシンプルな形状の住宅に利用しても邪魔にならない。破風板を設置する必要もなく、スッキリとした外観デザインを演出する。ケラバだけでなく軒先(水下)などでの使用にも適している。

外壁工事事業者からの要望に応えるマーケットイン商品として「SEV‐15」を製造・販売し、順調に採用実績を伸ばしている。

鼻隠しで覆うことで、「SEV-18」のわずかな出っ張りをきれいに吸収
軒の出の少ない住宅の軒先(水下側)に「SEV-18」を設置
屋根の野地板に「SEV-18」を合わせ、胴縁にくぎ打ちして固定、その後、サイディングを施工し、シーリング処理を施す
下から見上げると、通気部材を設置していることはほとんどわからない

シンプルだからアレンジ自在
軒アリ住宅の用途にも拡大  

軒ゼロ住宅のケラバに対応した通気部材が欲しいという外壁工事事業者の要望に応えて開発された「SEV‐18」「SEV‐15」だが、そのコンパクトでシンプルな形状、優れた施工性などの優位性が評価され、外壁工事事業者などが自由な発想でアレンジを加えて使用するケースも増えてきているという。

例えば、軒アリ住宅の軒先の換気部材として、あるいは軒アリ住宅の外壁と軒天の取り合い部の通気部材としても使用されている。

「これまで外壁工事事業者からの要望に応え、マーケットイン商品として『SEV‐18』『SEV‐15』を販売してきたが、軒ゼロ住宅が普及する中で、全国で引き合いが増えてきていることに対応して2018年10月から全国販売を開始した。コンパクトでシンプルな通気部材だからこそアレンジしやすい。自由な発想でアレンジを加えてもらい、メーカーの予想を超えて、用途が拡大していくことを期待している」(同社)。