(一財)住宅産業研修財団理事長、上野公成氏に聞く 伝統木造住宅の棟梁を育てる「大工志塾」を立ち上げ
古民家の移築、改修の実体験も
内閣府所管の一般財団法人住宅産業研修財団が事業の再構築に向けて活動を開始した。組織を固め、人心を一新しての再スタートである。住宅産業の技術者不足が深刻化する一方で、地方の工務店の大工確保、技術水準の向上も大きな課題になりつつある。とくに伝統木造住宅の施工技術のレベルアップは、地域の工務店の成長・発展、地方住宅産業の振興という面においても看過できないテーマであり、この点から大きな期待が寄せられているのが住宅産業研修財団である。国土交通省の支援の事業も決まった。同財団の理事長として旗を振る上野公成氏(都市再生研究所主宰、元内閣官房副長官・参議院議員)に再生した財団の事業活動と抱負を聞いた。
国家プロジェクトの「大工志塾」に第1期生30人が入塾
──財団の再生、事業の再構築ということでご苦労も多かったと思いますが、財団の本来の住宅技術者の育成というテーマはむしろいまこそ重要度が強まっています。
上野 その通りです。地方の活性化という点からも地方の住宅産業の振興は大事であり、それを担うのは地方の工務店です。ところがその工務店の軸となる大工の確保、育成が十分でない。市場規模がどうのこうのより肝心のつくり手がいなくなっては自壊のほかない。
当財団の役割が再認識され、期待も大きくなっているということです。国土交通省から「地域に根ざした伝統木造住宅施工技術者教育プログラム」として「大工志塾」が採択されたのもこうした背景があったと思っています。まずは、財団再スタートの先兵としてこの大工志塾に全力で取り組みます。
──大工志塾の内容を簡単に説明してください。
上野 いわゆる木造軸組の在来工法は、日本が世界に誇る伝統木造建築構法であり、その技術、技能の担い手としての若手大工を育成し、やがて棟梁になってもらおうというのが大工志塾の目的です。伝統文化の技と精神を学ぶ国家プロジェクトと位置づけています。3年間にわたっての教育プログラムを組んでいますが、塾生の主対象は工務店の正社員としての若手大工および見習いで、まさに将来の工務店の担い手といっていいでしょう。立ち上げまで準備期間が短くて大変でしたが有り難いことに第一期生として30 人の入塾が決まりました。当初は20人も集まればと思ったのですが、目標を上回ったということで満足しています。30 人は全国5か所の教室(福島、東京、名古屋、大阪、福岡)に配属されますが、第一期生の入塾式は10月12日に東京で行なわれ、その日から早速講義も開始されます。
──教育プログラムで特徴的なこと、いわば売りになるようなことはありますか。
上野 プログラムは現代に生かす伝統建築をテーマに①教室講義②工務店修行③実技研修に大きく分かれますが、カリキュラムは現場活用を重視した即実践型としているのが特徴です。教室講義は、「規矩術」の習得に一番のウエートを置いており、3年間で120時間を当てています。講師陣は規矩術や道具、木材、墨付けなどを教える松永賢司氏、建築家の松井郁夫氏らで、現場修業は信頼のおける優良工務店での指導棟梁によって実技指導が行われます。そしてもう一つ、最大の特徴といっていいのが集合実技研修で、群馬県多野郡神流町に古民家を改修した体験型宿泊施設をつくり、ここに毎年一回全国の教室から塾生が集まります。今年は12月を予定しています。
群馬県神流町や森林組合とも連携、地域活性化への貢献も
──古民家の体験型施設というのは珍しいですね。
上野 群馬県は私の故郷ということもあるが、神流町と森林組合ともタイアップしての実習を考えており、かなりユニークなものになると思います。
神流町はかつて林業のほか、養蚕などが盛んでしたが、今は過疎化が著しく、町としても活性化のため地域資源を生かしたまちづくり計画を進めている。大工志塾としてもこれに協力できたらという想いなのです。明治期の養蚕農家の古民家がいくつもある。これを移築、改修、再生するという実地体験は塾生にとって伝統工法建築を理解するうえで得難い研修になるはずです。すでに体験型宿泊施設を活用した観光なども含めた人材交流の地域活性化プログラムとの連動なども構想しています。
また塾生の実習については、森林組合とも連携し、スギ、ヒノキなど森林の維持管理、伐採、製材など建築用材の理解を深めてもらう。大工の棟梁を目指すからには、森を、木を知ってほしいという思いがあります。
──財団としては、優良工務店の会、コミュニケーションプラザなどの活動もあると思いますが。
上野 そのいずれも再構築、充実させていきたい。「優良工務店の会」は、財団が商標登録を取得しており、本当に地方のリーダーとなる実力ある、信頼の工務店をこれからも仲間に加えていきたい。地方創生の軸に工務店が位置付けられるようになっていい。
またコミュニケーションプラザは財務省、経済産業省、国土交通省の3省がアドバイザリーグループとして密度の濃いシンポジウムを開催してきたが、ここに新しく林野庁に加わってもらった。森のこと、木のこと、そして国産材の利活用などが新たなテーマに登場してきます。官・学・民の交流の場として充実させていきたいと思っています。住宅産業研修財団をよろしくお願いします。 (聞き手・古川興一)
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