独自技術と施工力のオープン化に踏み切った積水ハウス その狙いとは?
スケルトンの外注化が住宅業界にもたらす影響
積水ハウスが、業界初となる共同建築事業「SI事業」を9月1日から本格スタートすることを発表した。同社独自の耐震技術「基礎ダイレクトジョイント構法」の利用や、グループ会社である積水ハウス建設による構造躯体の施工などを工務店に提案していく方針だ。構法や技術のクローズド化にこだわってきた大手ハウスメーカーの考え方に一石を投じることになりそうだ。
積水ハウスの仲井嘉浩社長は、SI事業スタートに関する記者会見において、わが国の住宅ストックの耐震性能の低さなどを踏まえながら、「(オリジナル技術をオープン化することで)日本の木造住宅の耐震性能強化に向けた動きは加速させていきたい」と意気込みを語った。
新たに開始する共同建築事業「SI事業」では、「基礎ダイレクトジョイント構法」といった同社が長年にわたり築き上げてきた耐震技術を工務店などに対してオープン化していく。
また、グループ会社である積水ハウス建設が工務店からスケルトン(構造躯体)の施工を請け負う。
FCなどとは異なり、あくまでも下請けとして積水ハウスグループが構造躯体の工事を工務店から請け負う格好だ。そのため、保証などは元請である工務店が施主に対して行う。工務店の要望に応じて、オリジナルの内装材の提供や外構の設計・施工なども行うという。
2025年度までに10社とパートナー契約を締結し、年間300棟のスケルトン工事を請負っていく。まずは関西住宅販売(兵庫県明石市)、ノーブルホーム(茨城県水戸市)、積豊建設(茨城県日立市)という3社がパートナー企業となった。
関西住宅販売は2021年度の住宅着工総数が705棟で、兵庫県ではナンバーワンの着工棟数を誇る。ノーブルホームの2022年度の着工戸数は815棟で、こちらも茨城県でナンバーワンのビルダーである。積豊建設は積水ハウスの指定工事店として1万棟を超える建設実績を持つ。
パートナー企業とは、まずパイロット棟として分譲住宅を建築し、細かな調整などを行いながらSI事業を本格化していく計画だ。
新築市場縮小のなかで独自技術の活躍の場を広げる
大手ハウスメーカーは、基本的にオリジナルの構法、技術、建材・設備にこだわってきた。その点こそが工務店との差別化ポイントでもあったわけだが、近年、その状況が変化しつつある。大手ハウスメーカーであっても、在来工法や「カタログ品」と呼ばれる工務店なども使用する建材・設備を採用するケースが増えてきている。
とくに一次取得者層向けの住宅において、価格競争力などで工務店などが強みを発揮するなか、その対抗手段として必ずしもクローズドな構法や技術、商品にこだわらないという大手ハウスメーカーが目立ってきているのだ。
積水ハウスグループでも、積水ハウス建設が「積水ハウス ノイエ」というブランドで在来木造工法の住宅を提供している。
そして今回、さらに一歩進み、オリジナル技術のオープン化に踏み切ったというわけだ。その背景には、冒頭の仲井社長の言葉にあるように、社会資本でもある住宅の質向上への貢献という想いがあるのだろう。
さらに言えば、新築市場が縮小していくなかで、長い年月をかけて積み重ねてきた技術の集積をどうやって新たな収益を生み出すリソースに変えていくのかという視点もあるのではないか。
その意味では、SI事業の本格化は「クローズド化からオープン化へ」という事業方針の転換を決定付けるかもしれない。
人手不足の救世主になれるか
積水ハウス建設は、これまでに約250万戸の積水ハウスの新築工事を担ってきた。8社75拠点で全国均一の施工品質を担保し、一・二級建築士の在籍数は730名を超える。施工力不足が深刻化する住宅業界において、この施工力は魅力的である。
最近では高校卒業予定者の住宅技能工の採用を増強することも発表。2024年4月入社で今期の2.4倍にあたる年間95名、2025年4月入社では3.4倍にあたる年間133名の採用を行う計画だ。同時に待遇面なども改善し、いわゆる「2024年問題」を睨んだ工事現場の働き方改革にも踏み出している。
現在、住宅市場は深刻な人手不足に陥っている。2022年度の建設業の従事者の半数以上が50歳以上であり、2025年には90万人もの人材不足が発生するとも言われている。住宅市場の縮小スピード以上の速さで人材不足が進んでおり、「受注がとれても建てられない」という状況が現実味を帯び始めているのだ。そこに追い打ちをかけるように、2025年4月からは時間外労働の上限規制が建設業でも適用になる。
それだけに、工務店にとっては構造躯体の施工を請け負ってくれる存在は非常に有難いだろう。積水ハウスグループとしても、新築市場の縮小と共に自社物件だけでは自慢の施工力を活かしきれないという状況に陥る懸念もある。施工力をオープン化していくことで、自らの武器を維持、さらには拡充していくことにもつながっていくのではないか。
“スケルトン・コンストラクター”になり得るか!?
積水ハウスの「SI事業」は、“スケルトン・コンストラクター”という新たな業種を住宅業界に生み出す可能性も秘めている。
かつてミサワホームでは、独自の「モノコック構造(木質パネル接着工法)」のOEM供給に踏み切ったことがあった。クローズド構法の外販によって“スケルトン・メーカー”としての役割を担おうとしたのだ。
積水ハウスは、オープン工法である在来工法に独自の技術を付加し、なおかつ施工まで請け負うことで、“スケルトン・コンストラクター”という、これまでにない役割を担おうとしているのかもしれない。
今後、同社に追従する動きが出てくるのか―。その動向次第では「スケルトンの外注化」という住宅生産に新たな潮流をもたらすことになりそうだ。
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