大和ハウスが描く“次世代型工業化建築”とは
「工場で家をつくる」というビジネスモデルはさらなる進化を遂げるのか?
大和ハウス工業は、米国のAutodesk社と新たな戦略的連携(MOU)に関する覚書を締結したと発表した。両社では次世代の工業化建築の実現に向けて協業していくという。果たして、大和ハウス工業が描く“次世代型工業化建築”とはどのようものなのだろうか―。
大和ハウス工業とAutodesk社では、2018年8月にBIM化に向けてMOUを締結している。今回のMOU締結は、2年のMOU期間の終了に伴い新たに締結したものだ。
一般建築と集合住宅ではBIM100%達成へ 戸建は来年度から運用
大和ハウス工業では、BIM化を積極的に推進しており、同社の芳中勝清理事によると、一般建築と集合住宅では2020年度中にもBIM化は100%に達するという。戸建住宅については、2021年度からBIMの運用を開始する方針だ。
今回の新たなMOU締結について、Autodesk社のルー・グレスパン シニアディレクターは、「MOU1.0からMOU2.0へ移行し、次なる段階へ進める。大和ハウス工業とともに日本でのデジタル建築をさらに推進していきたい」と意気込みを語る。
日本のBIM化をめぐる状況は、欧米などと比較すると遅れている言わざるを得ない。設計段階ではBIM化が進んでいても、施工段階になるといまだに二次元の図面が中心になっている事例も少なくない。
この点について大和ハウス工業の芳中理事は、「日本ではスーパーゼネコンでさえ、設計と施工を別々に行っていることが多いため、設計段階と施工段階でのBIMが統一されていないケースがある。当社は設計、施工を一貫体制で行っているため、BIM化を進めやすい。また、日本ではBIMに関する標準化・共通化が遅れているという問題がある。大和ハウスがBIMのスタンダードを提示していければと考えている」と述べている。
確かに日本では、BIMに関するデータ形式などの標準化・共通化が遅れており、容易にデータ連携を行うことができずに、結果として生産性が低下してしまうという問題を抱えている。大和ハウス工業では、こうした課題に対してひとつの“解”を示していきたい考えだ。
工業化住宅が抱える矛盾をデジタルで解消する
それでは、BIM化の先に見据えた次世代型の工業化建築とはどのようなものなのだろうか―。
大和ハウス工業には、いち早くパイプハウスやミゼットハウスを世に送り出し、工業化住宅の礎を築いたDNAがある。「工場で家をつくる」というビジネスモデルを確立した代表的な存在だ。戦後の住宅不足という社会情勢を追い風に、工業化住宅を核としてナショナルブランドへと成長していった。
しかし、同社に限らず、工業化住宅メーカーの多くが、現在、大きな矛盾を抱えていることも事実である。
住宅建築の一部を工場に持ち込むことで、コスト、品質、リードタイムといった点で優位性を持たせる―。それが工業化の目的であったが、消費者ニーズが多様化するなかで、幅広い住宅需要に対応しようとした結果、部品点数は増え、しかも各社が競ってオリジナル部材などを取り入れたことも関係し、コスト面だけでなく、リードタイムといった面でも優位性が薄まっていったのだ。
言い換えると、“完全注文住宅”を実現しようとしたことで、「工場で家をつくる」というビジネスモデルは大きな矛盾を抱えはじめたと言っても過言ではないだろう。
もちろん、品質・性能の向上といった面で工業化住宅が果たした役割が大きかったのも事実だ。しかし、あらゆるニーズへの対応を図るなかで、ハード、情報ともに増大し、生産性を圧迫している。もちろんデジタル化によって、こうした問題を解消しようという動きもあるが、工場で住宅をつくる意義はますます見えにくくなってきている。
追い打ちをかけるように、国内の住宅市場の縮小に伴い、かつてのような稼働率を維持することが難しいケースも出てきている。
大和ハウス工業では、この工業化建築が抱える矛盾をデジタル技術で解消しようとしている。ひとつのプラットフォーム上に情報を集約したモノづくりを推進することで、工業化住宅をさらに進化させようというわけだ。
DfMA+ICで工業化建築に新しい価値をもたらす
同社とAutodesk社では、次世代型の工業化建築の実現に向けて、「DfMA+IC」というキーワードを掲げる。
DfMA(Design for Manufacturing and Assembly)とは、生産段階や組み立て段階のことを考え製品や部品の設計を行おうという考え方。IC(Industrialized Construction)とは、まさに工業化建築という意味である。
DfMAとICによって、新しい建築の姿を具現化しようという動きは世界中で発現してきている。工業化住宅という世界でも珍しいビジネスモデルを確立している大和ハウス工業が、DfMA、さらにはデジタル技術を導入することで、情報とモノが多くの人手を介することなくつながっていく建築生産モデルを構築することができれば、工業化住宅が活躍するフィールドは国内のみならず、世界へと広がっていくはずだ。
また、かつて多くの注目を集めたビジネスモデルが、DX(Digital Transformation)によって、どのような新しい価値を手にすることができるのかといった点でも、大和ハウス工業の取り組みはひとつの試金石になるかもしれない。
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