日頃から書きなぐっていた取材ノートや備忘メモに埋もれていた諸々を拾い、不定期で自由気ままに綴ってみようと思います。落ちこぼれた種から何か芽が出てくるかな——。

古川興一ブログ「落ち穂ひろい」
落ち穂ひろい |  2020.1.15

女性館長、片岡真実氏の就任で森美術館が目指す世界での立ち位置

日本現代アートの発信力に大きな期待 国際的ネットワークが武器

現代アートと言うと多くの人から難しい、よく分からない、独りよがりなどの答えが返ってきたりする。時代的にもベルリンの壁崩壊以降とか、20世紀初頭とか、さらには同時代性を謳うなど様々だ。現代アートの定義自体も定まっていない。だが、世界の現代アートは急膨張を遂げている。1990年代以降はそれまでの欧米中心から世界各地域、各国に広がり、多彩な現代アート、モダニズムが発信されてきた。今や、世界で数多くのビエンナーレが生まれ、アートフェアも発展している。海外の調査機関によるとグローバル・アート・セールは2018年に674億ドル(約7.4兆円)に達し、最近はミレニアル世代が積極的に市場に参画、オンライン市場、オークションも増加している。現代アート市場も10年前に比べ2倍の2兆円近くに拡大しているという。

こうした現代アート市場の盛り上がりのなかで大きな役割を果たすのが美術館だが、いま日本の美術界で話題になっているのが、現代アートで日本はもとよりアジアを牽引する森美術館の館長にこの1月1日に片岡真実さんが就任したことだ。森美術館は東京・六本木に「文化都心」としてディベロッパーの森ビルが建設した六本木ヒルズの中に設けられたもので、開設以来15年間、現代美術館として様々な現代アートシーンを演出してきた。館長は片岡さんで3代目となるが、片岡さんは同美術館創立時から在籍し、副館長兼チーフ・キュレーターを務めてきた。片岡さんの名は世界に響いており、特に2018年のシドニー・ビエンナーレでは、アジアでは初めての芸術監督を務め、CIMAM(国際美術館会議)の会長にも就任するなど国際的に活躍している。昨年ベルリンを拠点に活動する塩田千春氏を起用した「塩田千春展・魂がふるえる」には66万人が来場する同館歴代2位を記録する大成功を収めた。それだけに国際的なネットワークを持つ新館長として日本の現代アートシーンの世界への発信が期待されるのだが、同時に日本ではまだ数少ない女性館長としてその手腕に格別の期待がかかる。

その片岡さんは新年早々、日本記者クラブで就任初の記者会見を行った。女性館長ということについては、海外では少しも珍しくはないだけに、日本の遅れてきた美術館の女性の時代に「やっと来たか、と言った感じ」と苦笑いするが、「価値観が多様化、複雑化し共有が難しくなっている現代社会において美術館を通して国際社会に貢献したい」と意欲を見せる。ただ、日本の現代アートは必ずしもまだ世界で注目されている存在ではないとの実情を踏まえ、「まずはアジア太平洋地域の現代アートについて調査研究や展示活動を積極化したい」と言う。そして、「世界的な流れであるダイバーシテイを強く意識し、多様な価値観や思想に敬意を払い、美術館活動に取り組みたい」とも。

特にアジア太平洋地域では、シンガポール、香港、中国などで次々に巨大な美術館が誕生していることもあって、日本の相対的な存在感の希薄化には、危機感もあるようで、ようやく動き始めている文化庁のビエンナーレ支援や海外発信など、現代アート振興策への期待もかける。「現代アートは国際的なプラットフオームであり、外交や経済の場でもあるいは観光資源としてもきわめて重要」と語る。その一方で、「現代アーテイストの作品を理解するとは、おのずと世界の歴史、地理、政治、文化、哲学、社会などの一端を学ぶことになる」と言う。やはり現代アート理解へのハードルは低くはなさそう。現代アートの人材不足も「学校教育において美術を歴史として教えられる先生がいない。美術を‘‘作る授業‘‘でなく、‘‘歴史を学び鑑賞する授業‘‘にすれば」との想いのたけも。

森美術館は創設者の森ビル社長・森 稔氏の「経済は文化のパトロンであり、文化は都市の魅力や磁力を測るバロメーターなのだ」の象徴としてつくられた。そして、アートを生活に近づけ、多くの人々に身近なものにするために‘‘アート&ライフ‘‘をモットーに掲げる。現代アート界の片岡さんへの期待はやはり大きい。 

日本記者クラブで行われた片岡真実氏の記者会見
森美術館館長に就任した片岡真実氏