2019.8.8

耐震シュミレーションソフト『ウォールスタット』活用術 制震装置のより効果的な活用を

京都大学 生存圏研究所  中川貴文 准教授

京都大学 生存圏研究所  中川貴文 准教授

―wallstatを開発した目的は。

近年の大地震によって、木造住宅の耐震性能を高めることが強く求められるようになっています。そのなかで、振動台を用いた実大実験を行うケースも増えています。実大実験を行うことで、より確実に自社の住宅の耐震性能を把握することができます。しかし、コストなどの問題から、中小の工務店の方々が実大実験を行うことはなかなか難しいというのが実情です。

そこで、実大実験や数値解析で得られた知見を活用しながら、バーチャルな形で実大実験を行える在来木造住宅専用の倒壊解析ソフトウェアの開発に着手しました。開発に当たっては、10回以上の実大実験との比較を行い、wallstatのシミュレーション結果と実大実験の結果が一致するようにチューニングを行いました。こうして開発したwallstatは、誰でも無料でダウンロードすることができます。これまでの累計で3万件ダウンロードされました。

―制震装置の検証も行えるようになったそうですが。

最新版となるwallstat ver.4では、制震壁のモデル化機能を追加し、市販の制震装置に幅広く対応する3つのモデルによって制震装置の効果を検証できるようになりました。この3つのモデルだけでなく、制震システムメーカーから提供されるデータを入力すると、特定の制震システムの効果もシミュレーションすることが可能です。

これによって、制震ダンパーなどを「どこに、どのくらい」設置すれば最も効果的な制震性能を発揮できるのかといったことを把握できます。また、制震ダンパー毎の性能の違いなども分かります。

制震ダンパーを入れる場合、バランスが非常に重要になります。1階だけにダンパーを設置しているケースもありますが、バランスをとるためには2階にも設置した方が良いと思います。また、建物の規模や目指すべき性能によっても、適切な制震ダンパーや設置方法が異なります。さらに言うと、制震装置であっても、ある程度の揺れまでは耐震性能を発揮し、一定以上の揺れになると制震性能が効き始めるというのが理想的だと思います。そのようなことを把握するうえでも、wallstatを活用して検証して欲しいですね。

―初めて利用する場合でも簡単にシミュレーションを行うことができるのでしょうか。

細かな分析などは難しいかもしれませんが、検証結果を動画で確認するだけであればそれほど難しい作業は必要ありません。

2019年1月にはwallstatの利用者の方々へのサポート体制を充実させるために、関係する企業と(一社)耐震性能見える化協会を設立しました。この協会を通じて、講習会などを実施し、wallstatの適切な利用方法を浸透させていくつもりです。

この協会では「wallstat認証マーク」という制度も展開していきます。製品に対する認証と人に対する認証があります。
製品に対する認証では、建材・構法に対して正しくモデル化されていることの証明を、CAD等連携ソフトウェアに対して正しく変換・出力できることをそれぞれ証明します。マークを使うことで、製品等がwallstatで正しく使用できることを表します。

人に対する認証では、協会が認める「wallstatマスター講習会」を受講することで、wallsttatの操作に関して一定の技術を証明します。 また、マスター会員として、名刺等にロゴマークを使用することができます。

こうした取り組みを進めることで、wallstatの適切な利用と、木造住宅のさらなる耐震性能の向上を促していきたいと考えています。