記者の矜持。映画と官邸会見から
2003年に始まったイラク戦争。悪の枢軸と銘打ちテロ国家イラクのフセイン大統領打倒を合言葉に米国を主体に英、豪などが参加した有志連合軍によるイラクへの軍事介入だ。米国のジョージ・W・ブッシュ大統領が発した「イラクが大量破壊兵器を保持」が大義となった。だが実際にはイラクに大量破壊兵器は無く、米国政府の嘘が暴かれた。
そんなイラク侵攻の虚実を描いた米国映画「記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜」の試写会がこのほど日本記者クラブであった。イラク戦争の口実となったイラクの大量破壊兵器保持の政府発表に疑問を持った米国の小新聞社、ナイト・リッダーの記者たちの真実を追い、取材する姿を描いた実話だ。ワシントンポストやニューヨークタイムスなど大手新聞社が政府発表を信じ報道する中で、小新聞社の記者たちが裏取りの取材に走り回る。愛国心に燃える国民の目も記者には冷たい。記者たちの執念は大量破壊兵器が無いことの確証も得て、政府の捏造、情報操作であることをあぶりだす。
まあ、見ているほうも記者ばかりだから、様々なシーンをわが身に投影しながら、となる。このイラク戦争、結局はその落とし子として、今に至る過激派組織イスラム国のテロの脅威を生むことになったわけで、もし大新聞がこの政府の嘘にナイト・リッダー社と一緒に立ち向かっていたら、は悔恨の念を込めての試写会場の記者たちの共通の思いだったろう。映画は3月29日一般公開だ。
この映画と呼応するようにと言ったら語弊があるかもしれないが、いま日本でも記者と首相官邸のバトルが続いている。東京新聞の望月衣塑子記者と菅官房長官との記者会見をめぐる質問のあり方を契機とした争いだ。「質問抑制は国民の知る権利を奪う」「記者が意見を言う場ではなく、質問の場だ」等々など、対立は激しさを加え、閣議決定の案件にも。新聞労連なども報道の自由の侵害であるとの声明文を出すなど対立の輪は大きくなる一方。さすが、大手新聞、TVなどもたまりかねて報道し始めているが、一枚岩にならない内閣記者会への不満も含めてメディアのあり方に対する鬱憤が積もる。東京新聞は社を挙げて望月記者をバックアップしている。社説で「権力を監視し、政府が隠そうとする事実を明らかにすることは報道機関の使命だ」と強調。TV朝日の報道ステーションでコメンテーターの後藤謙次氏は「一人の記者と官房長官のような構図に見えるが、本質は国家権力とメディアがどう向かい合うかだ。現役記者の奮起を望みたい」と語っていた。
映画『記者たち』と重なる部分が多い。記者稼業に胸を張れるかどうかの分水嶺が長い記者生活の間に必ずある。記者が下を向いて、どうする。上を向かなきゃ、虹は見えない。
望月記者は小柄だが、子どもの頃から演劇で鍛えた声は大きく、透き通る。特ダネ記者としての評価も高い。先輩記者も後輩記者も今彼女から勇気を貰っている。
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