地元の工務店だからできる地域材を生かした非住宅事業
地域に貢献するまちづくりを実践
【物件】まえはらクリニック、ふれあい通り出水調剤薬局(熊本県熊本市)
【施工】新産住拓 株式会社(熊本県熊本市)
「まえはらクリニック」と「ふれあい通り出水調剤薬局」は、同じ敷地内に建つ木造建築。設計・施工を手掛けた新産住拓では、まちづくり事業部として木造住宅のノウハウも生かしながら、地元の工務店ならではの非住宅事業を推進しようとしている。
「まえはらクリニック」と「ふれあい通り出水調剤薬局」が建つ敷地は、新産住拓が保有している土地だ。この土地に、新産住拓が建物を建築し、それを貸し出す「建て貸し」という手法で事業化しており、賃料収入によって利益を得ることになる。
新産住拓は、3年前にまちづくり事業部を創設し、不動産事業と非住宅の建築を融合した事業を展開している。
現在、大手ハウスメーカーなどが中心となって、土地オーナーから建築を請負い、完成した建物を、店舗などを運営する企業に貸し出すという事業に注力しているが、全国的に同じような建物が建築され、画一的なまちなみの景観ができてしまうという指摘もある。
新産住拓まちづくり事業部の川本哲也部長は、「地元の工務店ならではの地域に貢献するまちづくりができればと考えています」と語る。
天然乾燥・木材流通産直システムで地域産材を調達
新産住拓は、多良木プレカット協同組合も組織しており、この協同組合を通じて「天然乾燥・木材流通産直システム」を構築している。
熊本県の人吉・球磨地域の山などから直接原木を仕入れ、2年以上の時間をかけて天然乾燥させた天然乾燥木材をプレカット加工し、建築現場に届けるというものだ。一般的な木材流通にある製品市場・木材卸売業者・木材小売業者の経路をカットすることで、良質な木材を適正価格で提供する体制を整えている。
新産住拓が手掛ける非住宅には、こうした木材の流通システムで調達した熊本県産材を使っている。
「まえはらクリニック」と「ふれあい通り出水調剤薬局」でも県産材を利用することで、地域林業の活性化に寄与している。また、太陽と風によってじっくり天然乾燥することで、化石燃料やCO2削減にも貢献している。
2棟ともにZEBに災害の際には避難所としての機能も
「まえはらクリニック」と「ふれあい通り出水調剤薬局」は、2棟とも熊本の医療系としては初のZEB(ネット・ゼロエネルギー・ビル)になっている。構造躯体の断熱性能は、新産住拓の住宅と同じ仕様になっており、ZEH水準の温熱環境性能を備えている。
クリニックには20kW、薬局には14.3kWの太陽光発電を搭載しており、発電した電力については、3割を上限にそれぞれの建物で使用し、残りは建物所有者の売電収入となる。クリニックと薬局にとっては、太陽光発電の電力を使用できるため光熱費を削減できるというメリットが生まれる。
防災対策も施している。住宅の耐震等級3レベル相当の耐震性能を備えているだけでなく、台風への備えとして防災安全合わせガラスを採用している。
また、床の高さを上げることで、集中豪雨などの際の浸水対策も行っている。
こうした防災対策を盛り込むことで、「万一の際には、地域の方々の避難場所としても機能することを考えました」(川本部長)という。
耐震性能の向上や台風や豪雨に対する対策、さらには大容量の太陽光発電によって、災害時に電力を供給することができる。平常時はクリニックと薬局として利用され、緊急時には避難場所にもなり得るというわけだ。
新産住拓では、様々な非住宅に取り組み、住以外の分野でも持続可能な地域社会に貢献したいと考えているという。特に医療分野においては、同事業部内に専門チームを発足し、建築だけではなく、トータルサポートが出来る体制づくりを目指しているという。
県産材を使い、なおかつ万一の際に備えた配慮を施した木造建築となった「まえはらクリニック」と「ふれあい通り出水調剤薬局」。この2つの建物は、新産住拓が目指す工務店だからこそできる持続可能なまちづくり事業に対する考えを形にしたものであり、木造建築の推進という点だけでなく、地域工務店の新たな事業モデルとしても注目できるものである。
新産住拓 まちづくり事業部 川本 哲也 部長
当社は、工務店の新しい事業領域として、地元企業ならではのまちづくりにチャレンジしています。今は住宅事業で培ってきたオーナーの方々とのつながりや、医療機関などとのネットワークも利用しながら、住宅だけでなく非住宅事業も手掛けていることを知ってもらいながら、着実に実績を積み重ねていこうとしています。まちづくり事業でも、木造、もしくは木質化を推し進めていこうとしており、県産材の活用などにも貢献し、事業者の持続可能な経営に貢献していくつもりです。
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