地元の木材、地元の職人で作った保育園 地域ゼネコンと工務店が連携
職人の技を魅せるために現しにこだわる
【物件】公私連携型保育所 串戸保育園(広島県廿日市市)
【施工】下岸建設 株式会社(広島県広島市) 永本建設 株式会社(広島県廿日市市)
串戸保育園の園舎は、公立から公私連携型保育所への生まれるタイミングで、RC造であった園舎
を木造で建替えたものだ。広島県産材を現しで使用し、地域の職人の技を“見える化〞している。
木材使用料の83%を県産の一般流通材でまかなう
串戸保育園を運営する社会福祉法人「にこぷらす」では、「木や自然の物に触れられる環境は幼児教育に欠かせない」という考えのもと、公私連携型保育所串戸保育園の園舎を木造で建替えることを検討した。
設計監理を一級建築士事務所であるKlworks、施工を下岸建設が担当し、地域材を活用した住まいづくりに取り組む永本建設も施工に加わり、同社の県産材活用のノウハウと、木造建築の技術を活かしながら、延床面積2353.64㎡の木造園舎を建築していった。地域のゼネコンの建築に関するコスト管理、安全管理、工程管理のもとで、木造に特化した工務店と連携することで実現した木造建築である。
最終的には、全体の木材使用量のうち83%(172.64㎡)に県産材を使用し、しかもそのほとんどが一般流通材となっている。まさに木造住宅の延長線上で実現した建物である。
現しのために燃えしろ設計を採用乾燥にもこだわる
施工を担当した永本建設には6名の社員大工が在籍しており、そのうち4名が一人で手刻みや木工事を行える棟梁クラス。社員大工の技を、“見える化〞するために、県産材を現しで仕上げることにこだわっている。「全てを手刻みで仕上げるというわけにはいきませんが、追掛大栓継ぎや金輪継ぎ、渡りあご工法といった、伝統技術を次の世代に残していくためにも、現しにこだわっています」(永本建設永本和磨常務取締役)。
串戸保育園の園舎では、現しにこだわるために、構造計算によって特殊解析を行い、燃えしろ設計を採用している。構造上は120㎜角の柱でも問題ない部分に、90㎜の燃えしろを見込んだ210㎜角のヒノキの化粧柱を採用。
建物全体で10本の210㎜角の柱を使用し、その他にも180㎜角の柱も4本使用している。
燃えしろを見込んだ柱を使用することで、木材に被覆などの処理を行う必要がなくなるため、現しで使用できるというわけだ。
現しへのこだわりは、県産材の乾燥方法にも見られる。永本建設では、半年かけて天然乾燥を行い、180℃以下で機械乾燥を行った木材を使用しているが、串戸保育園でも同様に乾燥したものを使っている。
「天然乾燥と機械乾燥をミックスすることの難しさもありますが、現しにするためには色味が大事になります。そのためこうした乾燥方法を採用しています」(永本常務取締役)。高温での機械乾燥を行うと、どうしても木材の色味が変化してしまうことがあり、とくに現しで使用するためには、天然乾燥と機械乾燥を組み合わせた方が仕上がった際の風合いや色味など木材本来の美しさを表現しやすいというわけだ。
流通材により大空間を実現する構造設計
前述したように、園舎の構造材の多くは広島県産材を使っているが、一部、大空間を実現するために集成材の登り梁も使用している。
この集成材についても流通材にこだわり、大断面集成材などの特殊な材料を使用することを避けている。「流通材を多用する構造計算が得意な山辺構造設計のような設計士さんが増えることが木造施設の拡大になると思います」(永本常務取締役)。これによって、登り梁の長さを道路交通法上、通常運搬可能な積み荷最長長さである12mに抑えることもでき、コスト削減にもつながったという。
窒素加熱処理した木材をウッドデッキに
2階部分にはウッドデッキが敷かれたバルコニーがあるが、デッキ材には広島県産材が使われている。樹脂を利用したデッキ材を使う予定だったが、夏場に温度が上昇し、子供達が裸足で歩けないといった懸念もあり、木製デッキを採用することになったという。
江間忠木材が開発したエステックウッドという窒素加熱処理を行った木材を使用している。この処理を施すことで、薬剤を一切使用することなく殺菌・殺虫でき、腐朽菌やシロアリの被害を防止すことができ、木材の耐久性を高めることができる。
10年かけて構築して木材調達ルートを活用
串戸保育園の園舎に使用した広島県産材は、永本建設が住宅建築で活用しているサプライチェーンを通じて調達した。永本建設では、20年ほど前から県産材の利用に注力、製材業者を通じて安定的に木材を調達するためのネットワークを構築してきたという。
市場だけでなく、森林所有者などから直接調達することもあり、木材を調達した時点で永本建設が料金を支払うようにしている。そこから製材業者が乾燥と製材を行う。また、年間の着工予定を製材業者と共有しており、製材業者が動きやすい体制を整えている。
さらに同社では、社員を製材業者に派遣し、製材士不足などに備えるといった取り組みを行っている。
前出の燃えしろ設計のための柱材については、半年ほど前に調達したそうだ。また、永本常務取締役は、「製材しにくいといった理由で、太い丸太ほど安く取り引きされることがあります。丸太の太さや曲がりに応じて利用方法を検討しながら製材していくことで、こうした状況を改善し、森林所有者の方々にもより多くのお金を戻すことができるのではないでしょうか」と語る。
薪ストーブには間伐材を利用
完成した串戸保育園の園舎は、床に無垢材のフローリング、外壁にはスギ板など採用しており、木造であることが一目で分かる建物に仕上がった。
建築中には園児や保護者だけでなく、地元の工業高校の見学を受け入れるなど、人材育成へも貢献している。さらに、暖房用の薪ストーブを設置し、間伐材を燃料として使用するといった取り組みも行われているそうだ。
森林資源の大切さなどを園児に学んでもらおうというのが狙いだという。串戸保育園の園舎は、地元のシンボルとして、将来の建築業界、さらには木材産業を担う人材の育成にも一役買う存在になりそうだ。
永本建設 永本和磨 常務取締役
我々のような工務店が非住宅の木造建築に取り組むためには、乗り越えるべき課題もあります。製材工場の不足といった材料調達に関することや、無等級材を使う場合の構造計算の難しさ、さらには一般建築業ではなく、特定建築業の許可を取得する必要もあります。その一方で、こうした課題を解消していくことができれば、工務店が得意とする木造建築のノウハウを非住宅で十分に活かしていくことができるはずです。また、例えば地域のゼネコンの方々などと連携を図りながら、木造建築に関するアドバイスと共に施工を担っていくという取り組みも大切になるのではないでしょうか。
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