川上と川下がタッグを組み地域の一般流通材を用いて建築
地域材の特性と流通の現状把握し木材調達方針立てる
【物件】滋賀県林業会館(滋賀県大津市)
【施工】株式会社 坂田工務店(滋賀県大津市)
近年、公共・民間を問わず建築の発注方式として設計・施工を一元化する「デザインビルド方式」が注目されている。滋賀県林業会館の移転新築工事でも同方式が採用され、坂田工務店を中心とするチームが受注。地域の木を使ったこれまでの家づくりの経験と実績を生かし、一般に流通する製材品を用いて完成させた。林業会館の名に相応しく、滋賀県産の木をふんだんに利用した展示空間としても話題を集めている。
滋賀県林業会館は、旧施設の老朽化に伴い、滋賀県森林組合連合会がデザインビルド方式で新築工事を発注した。総予算は1億4千万円、滋賀県の産地認証制度で認証されたびわ湖材を構造材に使用するよう指定があった。5チーム応募があった中から、坂田工務店・宮村太設計工房共同企業体が採択された。
坂田工務店は、2004年に木造住宅の設計を得意とする宮村太設計工房をはじめ、地域の林業家、森林組合、製材所、設計事務所・工務店と共に(一社)安曇川流域・森と家づくりの会を発足。以来、サプライチェーンを構築することで、地域産材であるびわ湖材を使った家づくりを実践してきた。今回のプロジェクトは、その活動で培った家づくりの経験と連携の実績を生かし、同グループを核に挑むことになった。構造設計を山田憲明構造設計事務所(東京都品川区)に依頼し、宮村太設計工房が総合設計を、坂田工務店が施工を担当。滋賀県内の森林組合との連携を強化することで木材の調達体制を確立しており、びわ湖材の中でも住宅向けに生産されている一般流通材で、非住宅の比較的大きなスパンにも対応できるような構造が考案された。
専門資格を持つ設計者が木材調達をコーディネート
宮村太設計工房主宰の宮村太氏は、NPO法人サウンドウッズが運営する「木材コーディネーター」の認定資格を取得している。木材コーディネーターの役割は、森林資源の調査から木の建物を建てる際の効率的な木材調達、調達した木材の適材適所への利用提案、建主へ木材のよさを伝えることなど多岐にわたる。いわば、木材の流通全体を見渡して「森」と「まち」の木材の流れをつなぐ人材であり、関係する事業者の利害関係を調整するコミュニケーション能力が求められる。木材価値を最大限に高めるには本資格の取得が不可欠だと、安曇川流域・森と家づくりの会の活動を通じて学んだという。今回はその職能を最大限に生かし、宮村氏が県内にある9つの森林組合と木材市を回り、地域材の特徴や流通の現状を把握した上で木材調達に務めた経緯がある。
「延床面積500㎡の建物をつくるにあたり、およそ100㎥の木材を調達する必要がありました。森林組合などにヒアリングする中で、在庫情報やスギ・ヒノキ以外の広葉樹を生産する組合の存在を知り、中には製材設備や乾燥機を所有している組合があることも分かりました。そうした情報を踏まえ、コストや納期なども勘案しながら木材調達方針を立て、一からコーディネートしていきました」と宮村氏。コンペに採択された2019年11月下旬から準備を開始し、実施設計が終了した2020年6月時点で全ての木材調達を完了させている。
具体的に、構造材のうち土台・大引きに用いたヒノキは滋賀南部森林組合、坂本森林組合より原木を仕入れて製品化。柱に用いたヒノキは滋賀中央森林組合、東近江市永源寺森林組合より製品を購入。横架材に用いたスギ・ヒノキは各森林組合から木材市に出荷された原木を仕入れて製品化している。基本設計の初期段階から使用部材を明確にし、製材所間の連携や各森林組合の供給可能量を把握した上で木材調達を行うことで、限られた工期の中でも安定した製品供給を実現できたわけだ。
一般に流通する4m材を中心に
空間に応じた架構形式を採用
滋賀県林業会館は、滋賀県森林組合と滋賀県林業協会、滋賀県木材協会、一般社団法人滋賀県猟友会の3協会が事務所として利用するほか、大・中2つの会議室で構成。それぞれの空間に応じた構造設計を取り入れ、適材適所に木材を使い分けたのが特徴で、採用した架構形式はすべて山田憲明構造設計事務所が考案したものとなっている。
1階事務所は、3間スパン(5.46m)を支えるため、部材断面120×300㎜、材長4m材を用いてレシプロカル構造による格子梁を採用。天井は張らず、2階の床組みを現しにしている。レシプロカル構造は部材同士が互いに支え合うことで立体的に釣り合いを保つもので、「ダ・ヴィンチの橋」でも知られる構造体。部材同士の接合は市販の梁受け金物を使用し、プレカット加工で対応可能な形状とした。
また、2階大会議室は、6間スパン(10.92㎡)を支えるため、多角形アーチ構造を採用している。同構造は、部材断面が120×180㎜、75×180㎜、120×120㎜の一般流通材を用い、いずれも材長4m材を折れ線上につないだもの。屋根の荷重が押す力だけで柱脚に伝わる仕組みだ。プレカットは、特殊形状の加工に対応できる機械を所有する三重県の業者に依頼し、現場で組み立てている。
横架材に使用するスギは、びわ湖材の中でも強度面に定評がある滋賀県北部の原木を仕入れるよう、製材所に依頼したという。
本施設では一般流通材で主流となっている4m材で木造架構を製作した点も注目できる。「6m材も使用しましたが、2階の床組みに使用した120×300㎜の断面は6m材になると調達が難しくなり、部材断面が大きくなるほど4m材で設計することが大事になります。調達しやすい材でコストを抑えたのがポイントです」(宮村氏)。
なお、すべての横架材について、設計・施工チーム自ら検査を行い、ヤング係数を確認している。坂田工務店の坂田社長は、「横架材はJAS材と同等レベルの品質を保つことが求められました。そこで、JASの強度測定に使用されている測定器を使ってすべての横架材のヤング係数を測定し、E70以上のものを使用しています。340本のうち、品質不足で製材所に交換を求めたのはわずか5本程度。それだけの品質を担保できたことは山側にとっても大きな自信につながったのではないでしょうか」と語る。
コア材でCLTパネルなどを製作
木を余すことなく使い切る工夫も
今後生産が見込まれる大径材の利用提案も行っている。長さ6m、末口360㎜以上のスギ原木から製材した部材を7・28mのスパンがあるピロティの屋根架構に用いた。また、森林組合がストックしていた350㎜角のスギの大径材を1・2階ホールの大黒柱に、根曲がりスギを2階ホールの太鼓梁に使用している。
木材を無駄なく使い切ることも設計・施工チームのテーマとなった。構造材の製材時にできるコアを玄関ホールの内装材や大会議室の家具、複合サッシの枠材などに使用している。コア材の有効活用としては他にも、岡山県の銘建工業に依頼してCLTパネルに加工し、階段の間仕切りに使用した。
「コア材を複合サッシやCLTにまで用いるとなるとコストが膨大になるため、当初の提案書には盛り込んでいませんでした。しかし、坂田社長自ら群馬県高崎市、岡山県真庭市まで材料をトラックで運んでいただき、なんとか予算の範囲内で実現することができました」と宮村氏。このように、見積りに計上されていない地域工務店ならではの努力と配慮があったこともプロジェクト成功の背景としてあるようだ。
もともとコンペの仕様に含まれていなかった収納や造作家具の予算が途中で追加されることになったが、普段の家づくりの延長で木工事と建具工事に分担し、要望通りに対応している。「建具なども含めてすべて同じ製材所を利用しているため、コストを抑えつつ、建物全体で統一感を持たせたのも特徴です。普段の家づくりで実践していることを、ここでも生かすことができました」(坂田社長)。
構造躯体の建て方は、13名体制で1週間かけて組み上げる目標を立てた。坂田工務店の自社大工に加え、同社を独立した大工も仲間を連れて応援に駆け付け、人員を確保している。
さらに、安曇川流域・森と家づくりの会のメンバーである工務店が造作工事に協力。木造で非住宅建築に取り組むには人材確保が不可欠だが、自社で大工を育成してきたこと、日頃から工務店同士の連携を図ってきたことが生かされた。
本建物は性能面にも配慮し、低炭素建築物新築等計画認定を受けている。安曇川流域・森と家づくりの会として国土交通省の地域型住宅グリーン化事業に登録していることから、今回、優良建築物型で500万円の助成が適用されている。
信頼関係が構築された家づくりグループを核に、川上と川下が理想的な形で連携し、随所に地域材の特性を生かす工夫を施した本プロジェクトは、今後の中大規模木造建築のモデルケースとなりそうだ。
坂田工務店 坂田 徳一 社長
今回の建築は、安曇川流域・森と家づくりの会という地域材を使った家づくりグループでの経験と実績があったからこそ実現できたプロジェクトです。
以前は、山にどのような材があるかも知らず6m材以上の木を調達しようとした時期もありましたが、グループの活動を通じて山側の実情などを理解できるようになりました。パートナーである設計者の宮村さんには、山側とまちをつなぐ重要な役割を担う「木材コーディネーター」の資格を数年かけて取得していただき、感謝しています。
建築分野において、設計・施工一括発注のデザインビルド方式は今後注目されていくと思います。非住宅の中大規模木造建築でも、500~1000㎡規模のものなら地域工務店で対応可能なのではないでしょうか。当社としても、今回の建築を機に、新たな分野として挑戦していきたいです。
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